第10話 サーカス

「あー・・・今日も引き分けか・・・」

真夏の組み手は判断が鈍る。早朝に始めた筈がついつい伸びて午前十時。

空腹も限界に至り、更には暑さでフラーの足取りがフラッフラになった為強制中止、フラーは一命を取り留める。

『この人、最近ずっと食事がパンだけですから』

栄養失調と熱中症で倒れかけていたらしい。

「不摂生がたたったか・・・まぁああはなるまい」

寮のシャワーで汗を流し、体を綺麗にする。服も着替え、爽快な一日の始まりとばかりに部屋のドアを開けて、レイナに挨拶。

「おはようレイナ!」

「おにーちゃん!!おはよー!!」

にっこり笑顔で朝食を!!さぁ新しい一日の始まりだ!!



そう思ったのに。


キバの耳に一瞬響いた不協和音。嫌な感覚、腹の底から湧く嫌悪感。

一瞬で分かった。


これは、

「ジャスティン、グレム!!寮に残ってレイナを守れ」

「ッ!!・・・了解!!」

「レイナ、良い子にして、ここで待っててくれ」

頭を撫で、玄関に向かう。

「おにーちゃん!行ってらっしゃい!!」

「ああ、行ってくる・・・アイギス、ポート、ゲイン、ソバー!!行くぞ!!」

【武器】を掴み、キバは叫ぶ。

呼ばれた各、【武器】を持って外へ飛出る。



「チッ・・・どうやら防制結界が書き換えられたか・・・面倒だ!!」

結界は文章のような式句を書いた紙をある程度間隔を開けて置き、魔力で結ぶ。そしてその中の一文を書き換えられただけで、結界の性質は一瞬で変化する。

この肌に障る感覚、気味が悪い。

「くっそ、諸悪の根源はどの辺にいるか・・・」

「・・・感覚でよければ」

ソバーは呟き、指さす。示す方向は、本校舎。


突如、耳障りなノイズが五人の神経を逆撫でする。

『あー、あー』

「拡声魔法!?・・・なるほど、魔力波の同調か」

拡声魔法や壁面投影魔法を行う際、周囲の魔力波、魔力の波の大きさに合わせないと上手く発動できないのだ。

『み~なさまァ!!本日は我がへようこそォ!!どうぞ最後までお楽しみくださァい!!』

大仰、オーバーな演技のような、聞き覚えのある声。この、笑いを含んだような声。

『演目は・・・そうですねェ、『囚われの姫と救世の道化師』でしょうかァ!!』

キバの脳に、電撃が奔った。

「囚われの姫・・・?救世・・・?ふざけるなッ・・・!!!!!」

『さァ、お集まりくださァい!!』

血管が浮き出る程の激情、憤怒。自然と剣を握る拳が堅くなり、震える。

「・・・先に行く、後でついて来い」

瞳孔も殺意も全開、激情のままに、空へ舞う。

キバは風の様に滑空、飛行し校舎へ向かう。

たった数秒、体から黒が溢れ、魔方陣がキバを加速させる。

『さァさ、いらっしゃいいらっしゃ」

「テメェかぁああああああァァァアアアァアア!!!!!!!」

あの日、レイナを姫と呼び。


風のように連れ去った男が。


目の前にいる。

「あれ?あの時の・・・」

「ふざけるな、貴様ァッ!!!」

神速の横薙ぎで、全てが始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る