第8話 サイレント・ファイト

静かに幕を開けたフラーの戦い。持っている【武器】「ナイトメア」を一息で振り降ろし、相手の左腕を狙う。

「53万ユーロン、安いですねぇ」

斬り落とした筈の腕には傷一つ無い。ただ白スーツの袖が中程から千切れているのみだ。

「申し遅れました、ペリオ・ウォンドルです。〈虚偽の代弁者ライアー・テラー〉の一員です」

金髪に青目の好青年、そしていかにも大富豪といった風体で現れた彼。その手には金色の魔術書がある。

「まさか、ここまで特定されるとは思わなかったですねぇ。まぁ、終わりですが」

「終わるのは、お前だけどな」

この苦境を楽しむかのようにニヤリと笑い、再び斬りかかる。今度も先程と同じ左腕を狙う。

やはり手応えはあるのだが血の一滴も流れていない。

「今度は56万、まだまだ安いぃ」

(たまにだが口調が変わる、おそらく被攻撃時と相手を格下だと認知した時)

さらに振る。今度は得意な横一閃。スーツは裂けども体は裂けず。毎度毎度のように数字を言うだけ。

(万、安い、ユーロン・・・金銭関係、と言ったところか?)

フラーは元々憶測、推測での話はあまり好まない。やはり事実、根拠、確証、原因が分かっているほうが好きである。

しかし戦闘ではその限りではない。相手の実力は基本不明であることが多いし、それは痛い程分かっている。

かつて軍隊に所属していたころにもタコができるくらい聞いたことだ。

(・・・ふん、次第に読んでいくのみ。それまでは、で乗り切る)

一歩。一歩。踏み出すフラー。足音は鳴らないのに、ずんずんずんずん突き進む。

「おや、奇妙な技ですねぇ」

振りかぶって、ペリオの左肩から縦に斬ろうとする。またしても手応えが和らぎ、ペリオに傷一つ与えれない。

「くっ・・・三万!?安っ・・・」

途端、ラッシュのように斬撃がペリオを襲う。ラッシュ、ラッシュ。縦横無尽の技。軽い技ばかりでも継ぎ目無く続ければどんな魔法も少し切り抜けられる。軍隊で習った事を活用しながらフラーは技を繰り出し続ける。

(まぁ、言わば脳筋な訳だが・・・)

最後に大きな一撃。弧を描く斜めの一撃が、ペリオの肌を裂く。

「お゛、おぉ・・・・」

白目を剥き、吐瀉物を口から漏らしながら、ペリオは吹っ飛んだ。




(おかしい、おかしい)

上級区のゴミ捨て場に着地、いや不時着したペリオ。目は震え、視点が歪む。初級の治癒魔法を使い傷を塞ぎながら、よろよろと立ち上がる。

(何故、何故あれだけ動いてッ!?!?)

フラーは激しく動いている。三秒間で二度斬りかかるような速さの動き、なのに何の音もしない。おかしい、おかしい。その疑念が頭を支配する。

(攻撃が多すぎてが追いつかない、何なんだあの男、バケモノか!?)

レイナが所属する一年一組の情報は集めていたが、教師は想定外。生徒がバケモノなら教師もバケモノ、一年一組は危険なクラスだと認識するペリオ。

「・・・どうやら、かなり飛んだようだな」

屋根から地面へと飛び降りるフラー。やはり、着地した時の音はしない。

静かに見下ろす黒い瞳が、ペリオを地面に縫い付ける。

『ナイトメア』の刃先を眼前に向けられ、より「死」を間近に感じる。

「し、死ねるかぁああああ!!!」

再びペリオは屋根に跳びあがり、さらに逃げる。

(まだ死なない、死ねない・・・)

まさに這々の体、何度も躓きながら逃げる。

「遅い、本当に逃げるつもりがあるのか?」

逃げた先に、フラーが居た。無音、無気配。何も気づかなかった。

「軍隊仕込みの『沈黙戦サイレント・ファイト』、楽しめたか?」

少し笑ったフラー。その笑みさえ恐ろしい。

「さて、ここで俺の推理を聞いて貰おう」

反撃とばかりに金色の魔力弾を打つペリオ。難なく躱しながら、フラーは続ける。

「お前の魔法属性は『かね』。攻撃を換金したり課金で強化する属性」

次第に魔力弾を斬り捨てながら言葉を紡ぐ。

「お前は富豪だからな、金は腐る程ある。だから俺の攻撃を安いと言えた・・・違うか?」

図星。的確過ぎて冷や汗が止まらない。

「えぇ・・・図星ですよぉ!!ならこれはどうですかッ!!」

より大きな魔力弾を生成し、解き放つ。

「課金1000万、喰らえ<金色爆撃ゴールド・ボムバ>!!!」

莫大なエネルギー体がフラーの元へと直進する。

「・・・何だ、『原因』分かっちまった」

ナイトメアの刀身が少し膨らみ、禍々しいオーラが迸る。

湯気の様に立ち上ったフラーの気迫が今、放たれる。

「消し飛ばせ、<タリア・ル・オッサ>」

エネルギー体が消え、ペリオの体さえ深く斬る。

「んなぁ・・・」

血煙が舞い、血反吐を吐き散らす。

「な、ぜ・・・斬れた」

「事象をまるごと斬る、原因もな」

あの技の原因となったペリオも斬る、無慈悲で不可避の一撃。放たれれば防ぐ手立てなど無い。

「あー・・・死んじまったか」

生きている気配も無い、どうやらお迎えが来ていたようだ。

「ったく・・・公安に引き渡すしかねぇか」

元ギルシュ帝国軍少将、フラー・チョッパー。やはり彼は、底知れないのだった。





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