第6話 通過点
「なるほどね・・・」
間合いが次第に読めるようになってきた。戦闘勘が働き、見える世界が変わる。最適を探す眼、絶えず動く身体、そして幾度もの修羅場を潜り抜けてきた
今キバは、この戦いのみに集中する。
「あは!!ほら、斬って」
ラミアがダガーを振り回す。首に吸い込まれるように迫る刃先。
刹那、キバの姿が消える。ふと見れば、先程の場所から横にいた。
「逃げてても、意味はな」
「煩い」
瞬間、キバはラミアの後ろに立っていた。速すぎて目で追えない。
靴に仕込んである魔法陣は、風を生み出す。突風がキバの足元で発生するが、その時風の音は全く起こらない。キバがこれまで積み上げた力だ。
そしてキバが、コツンと靴を鳴らした。
ラミアの体に無数の裂傷が走る。所々は深々と斬られたり、浅く斬られている。あの一瞬で、それだけの事をやってのける。そのキバの左目は、紅に輝いていた。
(くそっ、くそ!!すぐに死ねないヴァンパイアの体が恨めしい・・・)
ここでラミアは自分の間違いに気づく。
こいつは「神の領域にいた者」を倒していた。ただヴァンパイアだからといって挑んで勝てる相手では無かった。
その証拠に、今自分は斬られて無惨な姿になっている。あの
「負けれない、私は、負けられない!!!」
衝動のままにラミアはキバに飛びかかる。自身の血を浴びて長剣サイズになった剣を闇雲に振り回し、狂気のダンスを舞う。
鮮血を振り撒きながら迫るラミアに対し、キバは前傾姿勢を取る。
「〈
「〈居合・
交差する紅と藍。幾重にも折り重なる紅い剣閃と、一太刀で薙ぎ祓う藍色の一撃。
拮抗する二つの色は藍色が押しきってラミアを弾き飛ばし、斬る。
「がはっ・・・あ、あなたごときに、負けてたまるか・・・」
血反吐を吐いても、戦意は衰えない。そのラミアに、キバは言い放つ。
「これはあくまで通過点に過ぎない。レイナを元に戻す為の地点だ」
ラミアはただ自分を呪う。何故こんなバケモノ相手に勝負を挑んだのか。不思議というか愚かというか。それでも尚、自分は負けれない。全ては理想の為に。
「はぁあああ!!!!」
長剣のニ刀流。荒れ狂い、交差する太刀筋がキバに迫る。
ゆらり、影が揺らいだかと思った瞬間。
キバは教室の隅に立っていた。瞬き一つにも満たないような時間で5メートル程度の移動。恐ろしいと形容する他無い。
(・・・最適解を見つけた、弱点を突いて勝つ)
両者、互いの望みを賭けて挑むこの戦い。
爛々と輝くキバの眼が、最終幕の幕開けを告げた。
机から机へ、椅子を蹴り飛ばし加速する勝負。天井から照らす満月も少し翳り、終演が近い事を伝える。
「〈
「〈
横薙ぎと縦裂きがぶつかりあう。
互いに後退、一歩も譲らない。
「悪いな、俺はお前の弱点を見つけたんだ」
加速。より近くへと進むキバ。
「近寄るな!!!」
キバを切り裂かんとする刃、しかしキバはそれをあっさりとかわす。
揺らめく残像のような物だけが見える。ラミアは困惑するばかり。
「セイヤぁ!!!!」
キバが大声を挙げて突き技を繰り出す。
剣で挟み、受け止める。
「ふふふ、甘いのよ!!!」
「残念、俺の狙いはこっちだ」
キバの左手に魔法陣が浮かんでいる。その色は黒。
「お前の弱点、心臓を潰す!!!」
宣言された瞬間、ラミアは泣き叫びたい衝動にかられた。
「いや、いやあああああ!!!!!」
「黒魔術は人体の真理を求める事もある、痛いのは一瞬だけだ」
にっこりと悪魔のような凄絶な笑顔を浮かべ、詠唱を開始する。
「〔お前の全てを晒け出せ〕、〈
幽霊みたいに透き通ってラミアの身体の中に侵入。ラミアも女性、男に身体の中をいじくられるのは嫌だ。
ぎゃあぎゃあと喚き散らす中、キバがニヤリと笑って。
「じゃあ、見つけたことだし握り潰すか」
たった一言。それだけでラミアの心臓が強く脈打つ。そして血液を送り出すタイミングでーーーー
キバが軽く心臓を握った。
少しだけ流れた血液が多いだけで、ラミアは失神した。
呪縛術で縛り上げたキバは
「ったく、世話かけさせやがって」
「おにいちゃん!!!」
「レイナ!!よかった、無事で・・・」
公安にラミアの身柄を引き渡した後、レイナ達と合流したキバ。
「レイナ、ずっと『おにいちゃん、帰ってくるよね!?』って言ってたんだぜ」
クラスメイトに少し冷やかされながらも、レイナの無事が分かり、安堵感が押し寄せる。
「あー・・・」
膝から崩れ落ちるキバ、ぼんやりとしているとーーーー
「おにいちゃん、お疲れさま」
レイナに頭を撫でられた。それだけで、少し疲れが取れた気がする。
「ありがとうな」
少し照れくさいようn、くすぐったいような。初めての感覚に戸惑う。
「ロリコンだな」
「ぶち殺すぞコラ」
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