第4話 ヴァンパイアの少女、英雄擬きの少年


「レイナを返せ、か。無理な注文だな」

「ならば、奪うまでよ」

凛としたその動きは、見た者を魅了する。


突如として、教室が闇に包まれる。

「領域展開、〈今夜は月が綺麗ですねムーンライト・エンカウント〉」

霧が掛かった月夜のような領域。ヴァンパイアは日光が苦手、それを補う為の領域だ。

「さぁ、始めましょう」

彼女が構えるのは、一対の短剣ダガー。その刀身は血のように紅い。まるで鋭い歯が、血を吸ったかのように。

逆手で構え、脚を曲げる。

対するキバもウロボロスを構える。真っ直ぐに構え、手にはめた手袋には魔法陣が浮かびあがる。さらに自身の周囲に靄を広げ、いつでも防御ができるようにしておく。

静寂。止まった世界。流れる空気に、僅かな風が吹いた。


刹那、世界が加速する。

二人の中間地点で火花が散る。ぶつかり合った二つの刃が交錯し、力は拮抗する。擦れる度にバチバチと火花を散らす。

これ以上の鍔迫り合いは無駄、そう判断したキバは後ろへと跳ぶ。

(あの小枝みたいな細腕からどうやってあんな怪力を出してやがる・・・第三段階は最後まで残しておきたいな)

勝利を求めるキバの頭の中では、勝利への図式が組み立てられてゆく。

次の動きを足元、手元、関節や足の動きから判断、次に繰り出す行動の最適解を、見つけだす----!!

「〈失法黒剣術ロスト・ブラックセイヴァー低音震斬アルト・クエイク

まだ完全な形で技を繰り出せないので失法ロストのままだが、威力は十分。

揺れる刃は低音で唸り、手元を狙って襲い来る短剣を弾きとばす。

「お前らに、レイナは渡せない、渡さない」

決意の表情と共に言い放つ。再び先程と同じ姿勢に戻り、静寂が訪れる。

「私は、マスターの為に引き下がれないッ!!!」

ラミアが叫び、キバに向かって走り出す。小さな羽から生まれた加速は軽いラミアの体を易々と飛ばし、一瞬でキバの元へ訪れる。

「〈吸血刺突ヴァンプピアス〉!!!」

肩を狙った一撃。回避行動をとらないキバ。

肩に刃が突き刺さる。しかし、

「〈擬似プシドー〉・・・悪いな、俺も負ける訳にはいかない」

全身の神経が戦闘だと叩き起こされる感覚。閉じていた戦闘勘が、大きく開く。

(よし、開ききった・・・本気でいく)

正眼に剣を構え直し、体のバランスをあえて崩す。

変則的な軌道を描いて迫るキバ。短剣をひらりひらりと躱し、重心を前にした一撃をたたき込む。

一撃の威力を重視、その為反動は大きいが当たれば相手を沈めるのは容易。

一瞬世界が翳る。月に雲がかかり、真っ暗になる。

(・・・くそ、浅いか)

回避された事を手応えで感じたキバ。反撃されると困るという事で周囲に靄をかけ、攻撃を防ぐ手立てとする。

(ここは居合いで仕留めるか、はたまた連撃で追い詰めるか)

相手の出方が分からない以上、行動の手立ては未定。とりあえず居合いの体勢をとり、構える。

雲が退き、まず見えた物。

大量のコウモリ。コウモリの群れがキバの方へと向かってくる。

「ちっ・・・半端なく面倒だな!!」

コウモリの群れなど厄介以外の何者でもない。

無数の裂傷であろうと吸血であろうと<再生>で治せるが、何か病原菌でもあれば命取りに成りかねない。

(このまま突っ切ってしまいたい、しかし手立てが・・・)

八方塞がり、このままやられてもおかしくは無い。

キバは逃げ道を探す。より被害を最小限に、より体力を減らさず、一撃を。

考えろ、考え抜け。見ろ、見つければ何とかなる。

(側面、上方・・・全てコウモリに塞がれて・・・ならば、中心を攻めるのみッ!!)

魔力を刃に集中、両刃が青緑色に輝く。靴の魔法陣に魔力を注ぎ、駆け出す。

「ッ・・・無駄よ、じきに裂傷と雑菌で傷口から壊死して」

途端、コウモリの群れが弾けた。

スライドする程の余力を持って突き抜けてきたキバに驚きを隠せない。

「〈アサルトエッジ・奔流ドライブ〉・・・コウモリなんざ、余裕でいけたわ」

両刃で斬るだけに留まらず、剣を捻り、回転をかける事で破壊力を増幅、コウモリの群れを弾く威力を放つ。

「なかなか考えさせてくれるじゃねーの!!」

さらに斬りかかるキバ、しかし初動がラミアの方が速かった。

右のおでこを浅く切られる。

少し血が顔を伝う。

傷は塞がり、再び剣を構える。

「・・・ダガー、少し大きくなったか?」

「ええ、血を吸えば吸う程大きくなるこのダガー。あなたは耐えきれるかしら?」

幼女のようにけらけらと笑いながら、ラミアは言うのだった。



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