第11話 心と生きる難しさ

 もう1人の僕は小さなうめき声をあげる。まだ生きていると焦った僕は包丁をお腹から抜き、今度はみぞおちあたりを刺した。もう1人の僕はまた小さなうめき声をあげて床に倒れた。床にはもう1人の僕の血が広がっていく。


「終わった。これで生きられる」


 しかし僕の心の中は言葉に出した感情はなく、ただただ虚しさだけが残った。


 10分くらい経っただろうか。僕は血で赤く染まった手でポケットからスマホを取り出し母に電話を掛けた。


「もしもし!涼!どこにいるの!?」


「家にいる。見つかりそうになったから逃げてきた」


「ドッペルゲンガーからは逃げれたの!?」


「家まで入ってきたから包丁で刺した。僕……人を殺しちゃったよ…。これからどうすればいいかな」



 僕は考えていたセリフを悲しそうな演技を入れて母親に伝える。


「大丈夫よ。ドッペルゲンガーなんだから涼が警察に捕まることはないから。安心して。……ね!」


 母は自分の息子を殺した僕を慰めようとしている。


「今から家に帰るから待ってて」


 そう言って母は電話を切った。



 最初に帰ってきたのは父だった。


「涼!大丈夫か!」


「うん」

 父親は僕に駆け寄ろうとしたが、自分の息子の死体と血の広がる床を見て立ち止まる。


「僕は…殺す気は無かった。けど向こうが殺そうとしてくるから!」


「分かってる。大丈夫だ」


 そう言って父は僕を抱きしめてくれた。


 何分か経った後、母も家に帰ってきた。僕を見るや走って抱きついてきた。母の体はすごく熱くなっていた。おそらく急いで来てくれたのだろう。


「大丈夫だった?怪我はない?」


 母の目からは涙が出ていた。


「うん」



「よかった……」


 母はより一層力強く僕を抱きしめてきた。


「うぅ……」


 僕は泣いてしまった。ただこの涙は生きていけるという安堵感の涙ではなかった。



「笹木くん!おはよう!」


「おはようございます」


 僕は高山先生に挨拶を返す。この町では高山先生は高校の先生になっていた。


「涼!おはよう!」


「小林。おはよう」


「お前も大変だったな」


「まあね」


「元気出せよ!ドッペルゲンガーなんて死んで当たり前なんだから。あれは人間でもなんでもねぇ!」


「ありがとう」


 小林が人気なのはこういうところだろう。馬鹿なこともできるし、励ましてくれる優しさもある。僕はこういう人間になりたかった。


「そうよ。元気出して!」


「はい。ありがとうございます」


 高山先生も励ましてくれた。


 僕と小林と高山先生。3人で仲良く学校に向かう。元いた町ではありえなかった未来がここにはあった。今頃向こうの小林はどうしているだろう。僕を探してくれているのだろうか。両親は悲しんでいないだろうか。先生は向こうの町のことは忘れなと言ってくれたが、僕はなかなか忘れることが出来なかった。



 放課後、僕はホームセンターにいた。小林は「一緒に帰ろう」と言ってくれたが、僕はホームセンターに寄って買いたい物があったので断った。小林には悪いことをした。しかし、小林にはこれからもっと悪いことをするだろう。


 僕はあるものを買う為、店員さんを探す。ホームセンター内には背の高い商品棚が数多くあり、なかなか見つからない。奥の方まで行くと30代半ばであろう男性の店員さんが商品の陳列を行なっていた。


「すみません」


「はい!」


 店員さんにスマホの画像を見せる。


「これが欲しいのでお願いできますか?」


「かしこまりました。」


 店員さんは商品のところまで案内をしてもらい、僕はそれを受け取った。レジに並び商品を買うと意外と安い事が分かった。ニュースで度々見かけるが、これだけ安かったら買う人は多いだろう。僕は商品が入った袋を片手に持ち、家の方へと歩いて行く。



 家に帰った僕は袋から商品を取り出す。それは太く、ザラザラしていて僕の人生を終わらせるものでもあった。ネットに書いてある情報ではクレモナロープが良いとされていたので、僕はその情報通りのものを買った。


「これで死ねる」


 ネットに書いてある通りにロープを輪っかにして結ぶ。結び方もそれに適した方があるらしく、少し苦戦したが画像通りに結ぶ事ができた。


 そして椅子の上に立ち、ロープを電気が吊るされている部分に硬く結ぶ。そして輪っかになっているところに自分の首をかけた。


 僕は耐えきれなかったのだ。こんなにも両親から愛されている自分を殺したこと、生きるために嘘をつき続けることの罪悪感に。


「今までありがとう。もう1人の僕、ごめんね」


 そう呟いて僕は椅子を蹴った。ガタッ という音とともに僕の首は一気に締め上げられる。僕は必死に足をばたつかせるが食うを切るだけだった。苦しい。死にたくないという感情が一気に込み上げてくる。しかし、その感情は言葉にもならず、誰にも伝わらなかった。 




「ハァ……ハァ……」

 なんだあいつらは。なんで俺を殺そうとしてくる。しかも俺と見た目がそっくりな奴がいたぞ。一体どうなってる!


 男は住宅街の中にポツンとある公園のベンチに座った。目の前には一本の道を挟んで駐車場があり、周りはアパートなどで囲まれている。


 まずは頭の中を整理しよう。

 行方不明になっていた親友を探して俺は神隠しの森に入っていった。その後、一緒に探してた人たちが周りからいなくなった。焦った俺はみんなや親友を探しているうちにトンネルを見つけ、入ってみると高台のトンネルから出てきた。


 それから……


 頭の中を整理していると目の前の駐車場に一台の車が止まった。

 俺は見られないようにベンチの裏に隠れる。ベンチの裏から車を見ていると見知った顔の人が出てきた。


 そんな…… ありえない……


 あの人は中学の時に行方不明になったはずだ。

 俺はあの人が本物なのか知りたかった。もう殺されるかもしれないということは頭の中には無い。


「高山先生!」


 俺がベンチの裏から飛び出し、大声で叫ぶと車から出てきた女性はこちらを向いた。


「小林君?」


 俺は先生のところまで走った。もう会えないとずっと思ってたからすごく嬉しかった。


「小林君……。ごめんね……」


「えっ?」


 先生は俺にそう言うと腹部に痛みを感じた。俺は自分のお腹を見てみるとそこには高山先生がナイフを握っていて、俺のお腹に刺さっている。


「なんで……?」


「私は笹木くんがこっちにきた時に助けてあげたの。だけどそれは間違っていたわ。笹木くんもこっちの町の笹木くんも死んでしまった」


 涼もここにきていたのか。


「だから私はもう間違いは起こさない。この町ではドッペルゲンガーは殺されるべきなのよ」


 中学で話していた高山先生とは思えない発言だった。


「涼はこの町のおかしくなった人間に殺されたんですか?」


「いいえ。自殺よ」


「そっか……」


 だんだんと意識が遠くなる。もう痛みも感じなくなってきた。


「小林くん。本当にごめんね」


 最後にうっすらと見えた高山先生の目からは涙が溢れていた。


 



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最後まで読んでいただきありがとうございます。次回はもっと読みやすい文章を書けるようにレベルアップしていくので、今後もよろしくお願い致します。


最後になりますが、よかったらフォロー、★、評価、レビューをいただけると幸いです。どれかでも大丈夫です。次回作へのモチベーションに繋がりますのでよろしくお願い致します。




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トンネルの先にいる自分 村人マット @murabitom114

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