第7話 不信感
窓の外から刺す太陽の光で目を覚ました。
寝転びながらベットの淵にある目覚まし時計に手を伸ばす。
時間を見てみると12時を過ぎていた。
「寝過ぎた…」
日曜日で目覚ましが鳴らないとはいえ、流石にこの時間に起きるのは夜寝るのが遅くなるかもしれない。明日が休みの日であれば良いが学校がある。
(疲れていたからしょうがない。)
そう思い込む事にした。
起きたばかりでお腹は空いていない。
そのためベットから出ずにスマホをいじる。ゲームアプリを開いてログインボーナスだけ受け取る。スマホのゲームはあまりはまらないのだが、この牧場シミュレーションゲームだけは続いている。他のゲームと違ってあまり考えないでやれるからだろう。適当に餌をやっておけば動物たちが育つのだ。僕はいつも通り人参を動物たちにあげてアプリを閉じた。
(自転車取りに行かなきゃ。)
昨日僕は神隠しの森に自転車を置いて帰ってきた。まさか神隠しの森から真逆にある高台近くのトンネルから出てくるとは思わなかったのだ。高台から出ると分かっていれば自転車で神隠しの森には行かなかった。
僕はベットから立ち上がり自分の部屋を出る。
階段を降りるとニンニクのいい匂いがした。
「お昼ご飯出来てるよ!」
母にそう言われリビングに向かうとテーブルにはチャーハンと餃子が並んでいた。餃子の匂いが食欲をそそる。
お昼ご飯はいらないと思っていたがお腹がすいてくる。僕は席に着きチャーハンと餃子を食べる事にした。
お昼ご飯を食べ終え自転車を取りに行く。神隠しの森まで歩くと30分ぐらいかかるのではっきり言ってめんどくさい。しかし、自転車が無いと明日学校に行くのが辛くなる。さらに今日取りに行かないと平日に取りに行く事になるのでそれはそれでめんどくさい。僕は食器を片付けて家を出る。
僕は神隠しの森に行くため商店街を進む。商店街は休日とあって賑やかだ。
家族連れが子供と手を繋ぎながら歩いていたり、学生らしき人たちがコロッケを食べながら話している。お昼ご飯を食べたのにも関わらず、良い匂いが漂う飲食店を見つけてはそちらの方をジィーと見てしまう。
(友達がいたらあの学生らしき人たちのように青春していたのかな。)
少し寂しい気持ちになる。
なんとか食べ物の誘惑を耐え、商店街を抜ける。そのまま少し歩くと神隠しの森が見えてきた。正直に言うとこの森に近づくのは少し怖い。この日は少しでも森の中に足を踏み入れることはしないと決めていた。キノコやタケノコはあんな怖い思いをするなら買った方がマシだと感じる。
そして神隠しの森の入り口に近づくと僕は異変に気付く。
(あれっ⁉︎自転車がない‼︎)
僕は入り口まで走る。辺りを見渡してもどこにも無い。
入り口に置いていたはずの自転車が無くなっていた。
自転車の盗難なんてこの町では聞いたことがない。
(不法投棄と間違われたのかなぁ。)
とりあえず商店街の入り口に交番に聞いてみる事にした。
この平和な町で自転車の盗難は大事件だ。
交番の入り口には制服を着た若い男性がピシッと立っていた。おそらく出身はこの町ではないのだろう。その証拠に平和の町に染まりきったベテラン風の警官は交番の中で机に突っ伏している。この町ではあれが普通だろう。僕は外にいる警官に話しかける。
「すみません。少しお聞きしたいことがあるのですが……」
「どうしました?」
若い警官がはっきりした口調で答える。いつも暇だからかすごく目がキラキラしている気がした。やめてほしい。
「森の入り口にあった自転車知りませんか?」
「分からないなー。無くなったの?」
「今、見てきたんですけど無くて……」
「なるほど。とりあえず中に入ろうか」
若い警官が交番の扉を開けると嬉しそうに(田村さん!事件です!)と大声で言った。こっちは困ってるのに酷くないか?せめて嬉しそうな表情は隠してほしい
「この町に事件なんて無いだろ。どうしたの?財布でも落とした?」
田村さんと呼ばれるベテラン風の警官はだるそうに僕に聞いて聴いた。
「いえ、自転車が無くなっていて……」
「それはいつ頃?」
「先程見に行ったら無くなってました」
「見に行ったら?どこに停めてたの?」
「商店街の先にある森です」
「いつから停めてた?」
「昨日のお昼過ぎです」
僕がそう言うと警官同士が目を合わせる。
「あのね。警官をからかうのは駄目でしょ。俺たちもお昼から夕方まであの森の前に居たけど誰も来なかったんだから」
そう言うとベテラン風の警官はまた机に突っ伏してしまった。
「そう言う事だから。1回自宅の駐輪場を確認してみて。無かったらまたおいで」
ベテラン風の警官と違い若い警官は愛想が良い。
「わかりました」
不服ではあったが、これ以上ここに居ても時間の無駄だと思い交番から出る事にした。
(誰も来なかった?そんなはずないだろう。)
僕は不満を感じながら家へと歩いていた。
(現に僕が神隠しの森に行ってるわけだし誰も来なかったはずがない。)
そんなことを思いながら歩いていると十字路の左からふと見知った顔が目に入る。
中学の時の担任、高山先生だ。
高山先生は僕の存在に気づかず十字路を突っ切って僕の右にある道に入っていった。
見間違いだろうと思いながらも僕は高山先生の後ろ姿から目を離せないでいる。
(高山先生は行方不明になったはずだ。もし見つかったのであれば回覧板や噂で僕の耳にも入ってくるはず。)
僕は目を擦り、もう1度高山先生の方を見る。しかし高山先生の後ろ姿はもう見えなかった。
家に着くと僕は玄関の横にある庭へと続く道をみる。
やはり自転車は見つからない。庭にも置いていないか確認するが自転車は置いていなかった。
(自転車どこに行ったんだろう。)
ここからまた歩いて交番に行くのは面倒なのでとりあえず家に入る事にした。
「あれ!忘れ物ー?」
扉を開けた音が聞こえたのか奥の方から母の声がした。
父が釣りにでも出かけたのだろうか。多分父と勘違いしているのであろう。
「ただいま」
僕は母が聞こえているのか分からないような中途半端な声の大きさで返す。
僕が自分の部屋に戻ろうと階段を上ろうとすると
「忘れ物?何で帰ってきたの?」
「は?自分の家だからに決まってるじゃん」
「今日も小林君の家に泊まるからって言ってさっき着替えを取りに来てすぐ家を出たじゃない。」
「昨日も言ったけど俺が小林の家に泊まるわけないじゃん」
母は子供が泊まる友達がいないことくらい分かっていて欲しい。
惨めな気持ちになる。
「お父さんちょっと来てー!」
母がなぜか父を呼ぶ。
新聞を片手に父がリビングから出てきた。新聞を読んでいたのだろう。
「どうしたんだ?」
「涼が昨日からおかしいの。さっき小林の家に泊まりに行くって家を出たのにすぐ帰ってきて小林の家に泊まるわけないじゃんって言ってるし……」
「確かにさっき小林君の家に泊まりに行くって言ってたな」
「これってもしかして……」
「……涼。とりあえず自分の部屋に戻ってくれないか」
僕は両親がなぜこんな真剣に話しているか分からなかったがおとなしく頷いて自分の部屋に戻る事にした。
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