第6話 トンネルの先
トンネルに入ると気温が一気に下がり、寒くなった。
恐怖と寒さで体が震える。路面は少し濡れていて水が滴る音がする。
少し進むとこのトンネルが直角に曲がっていることに気づいた。
だから入り口から懐中電灯でトンネルのなかを照らした時出口が見えなかったのだろう。
その証拠に月明かりが正面の壁に照らされて少し明るくなっていた。
(外だ!やっとこの森から出れる!)
僕は嬉しさと安堵で走り出した。
この不気味さを感じるトンネルから早く出たかったのだ。
転びそうになるも必死に態勢を立て直す。
直角のカーブを曲がると外が見える。
「ハァ…ハァ…」
息を切らしながらも外に出ると僕の見知った光景が目の前に広がっていた。
高台の近くにあったトンネルから出てきたのであった。
昨日の体育でぶっ倒れてたあの高台だ。
普通なら逆側の高台に出てきたら混乱するところだが、恐怖の中にいた僕にとっては知っている場所に出られたことがただただ嬉しかった。不安から解放された僕は電灯の下に座り込んだ。
5分ぐらい経っただろう。
「帰ろう」
隣に人がいたらかろうじて聞こえるだろう小さな声で呟いた。僕はその場から立ち上がり、昨日何回もダッシュした坂を下る。
坂には10m置きに電灯が建っているので懐中電灯は必要ない。僕はバックに懐中電灯をしまった。坂の途中にある学校にもう明かりは点いていない。腕時計を見ると22時を過ぎていた。
(そりゃ誰もいないか…)
先生でもいいから誰かと一緒に帰りたかった。
僕はこんな夜遅くに帰るのは初めてだ。もしかしたら怒られるかもしれない。母は怒ると1時間は余裕で説教してくる。
(面倒臭いな。)
誰かの家に泊まろうと思うが、僕には泊まれるような親しい間柄の人はこの近くにいなかった。
両親の祖父母は飛行機に乗らないと行けないし、唯一の友達である小林も家に泊まるどころか遊びにも行ったことがない学校だけの仲だ。
「どうしよう…」
何もかも嫌になってきた。しかし、あんなことがあっては外で一晩明かすのは絶対に嫌だ。トボトボと歩いていると僕は森の入り口に自転車を置いているのを思い出した。
(流石に暗い中あの森に近づくのはごめんだ。)
僕は自転車を明日取りに行くことにした。
玄関の前に立ち尽くす。
この扉を開けると母がカンカンに怒って僕の目の前にやってくるだろう。
「ふぅ…」
僕は小さく息を吐いて家に入る決心をする。
「ただいま」
「あれー。どうしたの?」
リビングから母が答える。
少し前まで恐怖の中にいた僕は母の声に安心して泣きそうになる。
「遊んでたら遅くなった」
とりあえず適当なことを言っておく。
流石にこの歳で迷子になってたとは言えない。
「うん?今日は小林くんの家に泊まるんじゃなかったの?」
「は?小林の家に?泊まるわけないじゃん」
「いや、学校から帰ってきてすぐに「小林の家に泊まりに行く!」って嬉しそうに出ていったじゃん」
「そんなこと言ってないけど」
僕は今日、家から出た時のことを思い返す。
絶対にそんなこと言っていない。
そもそも小林の家にすら行ったことがない僕がそんなこと言うはずがない。
「あれー。聞き違いかなー」
「聞き違いだよ。小林の家に泊まるわけないでしょ」
「なに言ってんのよ。昔からよく泊まりにいってたじゃない」
「逆に何を言ってるの?小林の家になんて1度も泊まったことないよ?」
(この母親は何を言ってるんだ。もうボケが始まっているのか?)
少し母が心配になる。
「あなた頭おかしくなった?病院に行く?」
(それはこっちのセリフだ。)
「まあいいや。ご飯は食べたの?」
「食べてない」
「じゃあお腹すいたでしょ?残り物だけど冷蔵庫にオカズあるから食べな」
そう言って母は両親の寝室がある2階へと階段を上がっていった。
僕はリュックサックをテーブルの脇に置く。
そして冷蔵庫の中から野菜炒めを取り出してレンジに入れた。
今まで何も食べていなかったので残り物でも食べれるのは有難かった。
持って行ったシリアルバーも恐怖で食べ忘れていた。
レンジが止まるまで、僕は今日あった出来事について考えた。
この時、やっと不思議なことが起きたことに気づく。
(なぜ神隠しの森に入った僕が町の反対にある展望から出てきたのだろう。)
神隠しの森から高台に行くためには町を通らなくては行けない。
しかも僕は坂を登っていないにも関わらず、トンネルから出た場所は隣町まで見える高台だ。どう考えてもおかしい。
(ワープでもしたのか?)
そんな非現実的なことを考えてしまう。
チン
レンジの音がなった。
どうやら温め終わったようだ。レンジを開けると野菜炒めから湯気が出ている。
僕は野菜炒めを取り出そうとするがお皿が熱くなっていて取り出せない。
近くにあったタオルを使い、テーブルに運ぶ。
そのあと、お茶碗を食器棚から取り出してご飯を盛った。
席に着いて僕はご飯を食べ始める。
再び僕は高台から出てきた謎について考えてた。
しかし、いくら考えてもワープしたとしか考えられない。
非現実的な考えをしてしまうのは歩き疲れたせいだろう。
僕はご飯を食べたらシャワーを浴びてすぐに寝ようと思った。
シャワーを浴びてテーブルの横に置いてあるリュックサックを手に持つ。
湯船には浸かっていないがこの時期はシャワーだけでも汗をかきそうなくらい暑い。
自室に戻るため階段を上がる。
歩き疲れてる状況で階段は辛い。こういう時1階に部屋があったらいいなと感じる。
僕は扉を開けて自分の部屋に入るとリュックサックをベットの横に投げた。
「はぁー。疲れたー」
ベットに倒れこむとすぐに眠ってしまった。
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