第3話 高台

クラスの男子全員が高台の広場に横たわっていた。


体育の時間。

クラスの男子は青色のジャージに着替えて

校庭に向かった。


校庭に行き授業が始まるチャイムを確認すると男子全員が先生の周りに集まった。


今日の授業は持久力をつけるため、

坂道ダッシュをすると先生が言う。


その発言に生徒全員からのブーイングをくらうも泣いたふりをしながら


「お前たちの為だ!分かってくれ!」


とおちゃらけた。


ふざけるな。

この暑さで坂道ダッシュは死人が出るぞ。


先生の言動も

普段なら笑えるがこれは笑えない。


一番下から高台までは約3kmあり、

普段運動しない僕はこの距離に殺されると感じた。


しかも3kmはダッシュじゃない。

持久走だ。


そう感じながらも先生は

早く坂を降りて行けと急かすため

発言できないでいる。


しょうがないので、

僕たちは学校の前にある坂を

ぶつぶつ文句を言いながら降りていった。



授業が終わる5分前。

先生は坂を上がってきた生徒に

高台の広場に待ってるよう伝えていく。


次々と走り終えた生徒たちが広場で倒れていく。

広場の近くにある小さなトンネルの日陰で倒れている人もいた。


そして僕も同じように広場に倒れ込んだ。

脳が働かずもう何本走ったかは覚えていない。


生徒が全員揃ったかを確認した後

先生が何かを話していた。


おそらく、お疲れとか次の授業について話していたのだろう。


しかし先生の話を聞く余裕がなかった。

僕だけでなくほとんどの人が聞いていなかっただろう。


授業の終わりになるチャイムだけはしっかりと確認できた。



教室に戻り制服に着替えると

次の授業である美術のために美術室に向かう。


体育の時間の後は

移動と着替えで休み時間が短くなる。


さらに移動しなければいけないので

ただでさえ短い休み時間がもっと短くなる。


坂道ダッシュで疲れた体に鞭を打って

僕は急ぐ。


美術室に入って自分の席に着く。

疲れてうなだれていると

美術の先生から絶望の一言が告げられた。



僕は今日で2回目の高台にいた。

高台から見える景色を描く授業だ。


ここまで来るのに山の中腹にある学校から

頂上まで登らなくてはいけない。


普段であればたいしたことはないが、

地獄の体育が終わった直後だ。


体育の先生と同じように美術の先生にも

殺意が湧いた。


座ってキャンパスに風景を描いていると

小林が声をかけてきた。


「体育からそのまま高台にいたらよかったな」


「そうだね」


「よりによって体育の後だし俺らに休憩の2文字はないのか!」


「着替えなくてもいいから高台に居たかったね」


小林が若干イライラしているのが分かった。

しかし男子全員がイライラしているのだろう。周りにいる男子からは文句しか聞こえない。



お昼休み。

僕は教室で小林とお弁当を食べていた。


お弁当には昨日食べた晩御飯の残り物である

ハンバーグとポテトサラダが入っている。


小林は購買で買ってきたパンを食べていた。

両親が朝早く仕事に行ってしまうため、

弁当を作れないらしい。


毎日お弁当を作ってくれる母と

裕福ではないが父の稼ぎだけで暮らせる僕は

幸せなんだなと感じる。





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