開店10周年記念のお祝い①

「開店記念のお祭り、ですか?」


 ある日の夜。他の店員達がほとんど帰った店で仕事を終えようとしていたところ、カミーラがウェイトレス統括役・レセカナに唐突に言い、彼女はその提案にやや驚きを見せた。


「ええ。再来月は開店して10年という節目だし、何かお店を挙げての大きな催し物をやってみたいって思ったんだけど……」

「……そうですね」


 つぶやきながら、う~んと考え込むレセカナ。


「今まで店を挙げて何かをやったってこともなかったし、今回は、やってみたいって思うんだけど……ダメ?」

「……そう、ですね。やってみてもいいと思います。ええ……」

「ありがとう。私はこのお店を愛してるわ。勿論、可愛いウェイトレス達も、ステキなお客様も、踊り子達も、そしてレセカナ、あなたのこともね❤」

「も、もうっ//////  カミーラさんったら//////」


 レセカナは照れて顔を隠した。


「でも、やるにしても色々と準備は必要よ。お酒に料理の食材に宣伝にと、あなた達がやらないといけないことが多くなるわ」

「ですね。それにこの案が受け入れられるかどうかも分からないですし」

「となると、踊り子統括役のミラと、踊り子教育主任のルチア、各ウェイトレス長にも相談しないとね」

「あらあら、なんのはなしをされてるのですかぁ~?」


 と、そこへ帰り支度を終えた踊り子統括役・ミラが上の控室から降りてきた。


「このお店がもうすぐ開店10周年を迎えるから、そのお祝いをやろうかなって話よ。カミーラさんの提案よ」

「あら~❤ それは素敵じゃない❤」


 レセカナの話を聞いて、ミラは嬉しそうな表情で豊満な胸をプルンっと震わせながら手を叩いた。


「正式なことは明日のミーティングで決めるつもりよ。それまでここでのお話は仮のことよ」

「「分かりました」」


 その日はそう言うことになり、解散することになった。



――――――――――――――


 翌日の夜になり、店長のカミーラ以下、踊り子統括役のミラと踊り子教育主任のルチア。ウェイトレス統括役のレセカナ以下、各ウェイトレス長が集うミーティングが行われた。


 そしてその中でカミーラが、10周年を記念した催しものを行いたいという旨を伝えた。


「やりましょうよっ! お祝い!」

「カミーラさんの意見に私も賛成です! うんと盛り上げましょうよ!」


 そう言いながら誰の目から見てもこの話題に食いつき、ウキウキしているのは第2ウェイトレス長のカレルと、第1ウェイトレス長のメルルだった。優秀とは言え、2人ともまだ20代という若年であり、あどけなさの残る彼女達のハキハキした態度は、酒場の経営陣にとっての清涼剤となった。


「そうですねぇ~。私もやってみたいと思いますわぁ~」

「ミラさんに私も賛成します。それに、私もこのお店が大好きです。その記念の年のお祝いは、私としてもやってみたいです」


 と、ミラの意見にルチアは微笑みながら賛同した。


「ダンサブルングの酒場の開店10周年記念フェスティバルと言うことで、盛大に行いたいと思ってるの。いつもいらっしゃってくださるお客様に対しても、今回のフェスティバルをきっかけに、来てみようと思って下さる新たなお客様に対しても、とってもいい機会だと思うわ」


 立ち上がってトレードマークの青銅色のパイプを吸いながら、カミーラは彼女達を見渡してそう言った。


「開店記念フェスティバルは再来月の11日からの1週間を予定してるわ。レセカナ。あなたには他のウェイトレス達に、食材やお酒の準備と手配をしてもらうように指示を出してもらうわ。財務処理も、あなた達にお願いするわ」

「畏まりました」


 と、レセカナは指示を出したカミーラに一礼した。


「カミーラさぁん。私も今回のフェスティバルを契機に、何か新しい踊りをあの子達に教えたいと思うんですけどぉ、いいですかぁ?」

「提案はあなたとルチアに任せてあるわ。10周年に相応しい踊りを考えてくれるのを期待してるわ」

「ありがとう~❤」


 そう言いながらカミーラはミラとルチアをゆっくりと、そして優しく抱きしめた。


「カ、カミーラさんっ//////」

「あらあら~❤ カミーラさんのハグは最高ですわぁ~❤」


 ルチアは照れながら、ミラは本心から嬉しそうにそう言った。



――――――――――――――


 ミーティング終了後、他の踊り子・ウェイトレスを帰宅させた踊り子統括役のミラ、ウェイトレス統括役のレセカナ、そして店長のカミーラは店に残り、その日の店の事務処理と簡単な掃除を行っていた。


「ねぇ、ミラ」

「なぁに? レセカナ」

「あなたは今回の提案を受けて新しい踊りを考えようって言ってたけど、不安はないの?」


 と、床に箒をかけながらミラに尋ねたレセカナは不安そうな表情をしていた。


「確かに私も今回のお話を受けてやってみたいと思ってるけど、成功するのかどうか不安だわぁ~」

「その割には、あんまり態度には見せないわね」

「これでも踊り子の統括役ですもの。簡単に不安なところを見せちゃったら、みんなに示しがつかないわよぉ~」

「そう言うとこ、本当に強いわね」


 と、レセカナは感嘆の声を漏らした。


「私は正直、ちょっとだけこういう大きな催し物をやるのは初めてで、成功できるのかどうか、自信が持てないの」


 普段は真面目なレセカナだが、少しばかり不安を感じないでもいた。無論、やりたい気持ちは非常に大きいのだが、それでも後ろ向きな気持ちが一点もないという訳にもいかないのが本音だった。


「じゃあ~❤」


 するとミラはササッとレセカナの背後に立ち、彼女をギュッと抱きしめた。


「ミ、ミラッ⁉」

「私からのおまじない~❤」


 と、レセカナに頬ずりするミラ。


「全く、あなたったら……」

「イヤだったのぉ~?」

「まさか、むしろ大歓迎よ❤」


 と、レセカナはミラの抱擁を解き、正面から彼女を抱きしめた。


「まぁ❤」

「大好きよ、ミラ……❤」

「あらあら~❤ 私も好きよぉ~❤」


 ミラは嬉しそうに彼女をハグし返した。


「どぉお~❤ 不安はちょっとはなくなったかしらぁ~?」

「えぇ……なくなったわ。あなたのお陰よ、ミラ」

「ふふっ、これが私のお・ま・じ・な・い・よ❤」

「相変わらず効果抜群ね❤ よしっ、明日から頑張らないといけないわねっ!」


 やる気を受け取り、不安を打ち消してくれたミラに感謝しつつ、レセカナはフェスティバルに向けての決意を新たにした。


 







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