第2章ー2

八月三日 十六時 叶真澄


 佐光の言う、自然なシチュエーションについて議論を交わしていると気づけば二時間弱経っていた。二人を観察するつもりが、気づけば意見をどんどん出していってしまった。

 佐光が百本の薔薇をとか屋上から叫ぶとか、悪ふざけの提案をし、混乱して実行を考え始める須山を止めていたら巻き込まれてしまった。

 ふと周囲を見回すと、入った時から更に店が混んできた。一条がこれからバイトだと言うので佐光が策を考えるということで、今日は解散を告げた。

 須山はそのまま帰宅するといい、一条はバイト先向かっていった。

 俺と佐光は店を出た後、二人で街を歩く、風がでてきたので昼頃よりは過ごしやすい。

「どういうつもりだよ」

横を歩くやけに楽しげな男に不満たっぷりの言葉をぶつける。

「成沢から話聞いてな、面白そうだから俺も加わることにした。新会員も入ったし」

一条を会員として扱うのか、あれは中々役者なんだぞと言いたい。しかし佐光も大概曲者なので言っても無駄だ。

「それなら俺を巻き込むず、俺抜きで楽しんでくれ」

一条もそうだが、何故俺を巻き込もうとするのか。俺がいなければいけない理由もない。

「確かに目標がなきゃ、倶楽部をやる意味もないよな。中学の時も達成できなかったわけだし」

「何の話だ」

「何だろうな」

佐光も俺も足を止めて、二人の間に少しひりついた空気が流れる。

 少しすると何事もなかったかのように、佐光はまた歩き始める。佐光のこういう所が苦手だ。

「目標だけど作ろうと思えば作れるぞ」

「何だよ、目標って。写メなんて本当言うとそんなに気にしてないぞ」

そう写真があっても、俺には友達がいない。見られて困る相手なんてそういないのだから俺を参加させるには弱い。

 クラスで孤立なんて今更である、そんな当たり前のことに気づかずに一条の誘いに乗った自分が恨めしい。

「今回の依頼を果たすことができたら、一条がなんでお前を巻き込むのか教えてやるよ。それが分かれば今後も対策しやすいだろ?」

なるほど。これは思ったよりいい話だ、一条がなんで俺に絡むのかは謎であったし、この先巻き込まれない為にも、知っておきたい。

 一条の言っていた「叶君とはこんな形で---」と言っていた真偽が分かるかもしれない。

「わかった、最低限の協力はする。それで依頼は何をもって果たしたとするんだ。」

「須山は佐倉さんと付き合いたいって言ったぜ?」

佐光がこちらを試すように見る。

 こいつは知っているはずだ、倶楽部に持ち込まれる依頼は不可能と言わないが達成するのに難しいものがある。そういうものに対して全て達成してきたわけではない。

 端的に言えば、告白しても振られてしまうことだってあるのだ。

 今回の須山のような依頼も今までいくつかあったが、勝率は五分五分といった所だった。もちろん依頼者にもその旨を伝えている、だからか今までクレームがきたことはなかった。

「須山が振られたら駄目だとか言うなら俺は降りるぞ」

俺は無理な勝負はしない主義。それに倶楽部は絶対に告白を成功させるものじゃなく、あくまで補佐役なんだ。

「まぁそうだよな。須山には難しいよな。振られてもおかしくないよな」

よなよなうるさい。

「須山が上手くいくように努力はするさ。それでも上手くいかないことはある。そんなこと佐光も知ってるだろ?無駄な問答はやめよう」

佐光がつまらないと言いたげな顔になる。やはりこいつは意地が悪い。

「はいはい。それなら須山が告白できたらにしよう。結果はどうとかじゃなくそこまでいければ、依頼としては上々だろ?」

まぁそんなところだろう。

「そうだな。それでいい。忘れるなよ依頼が果たされたら、俺に教えること」

「数学でいいか?」

佐光の横腹を軽く殴る。殴ってから、それも有りだったと思う。

 気づけば俺は、二人の策略にはまっているような気がするが仕方がない。これを最後の依頼にしようと歩きながら心に誓った。


八月五日 十三時 須山省吾


 あの喫茶店での顔合わせから、二日経ち一条からまたしても呼び出された。

今回は駅から徒歩十五分ほどのショッピングモールに来いとのことだった。

 来るにあたって貯金もできるかぎり、降ろしてこいと言われたが、これは新手のカツアゲだろうか。怪しすぎる誘いに、少し迷ったが貯金の半分だけもって家を出た。

 最悪の場合、貯金を半分持っていかれるだけとポジティブに考え、嫌な想像を打ち消した。

 それにしても、カツアゲや僕の金で遊ばれる以外に、今回のお金の使い道はなんだろうか。

 駅からしばらく歩いていると、ショッピングモールが見えてきた、

 ここは昔どこかの会社の工場だったらしいが面影は全くない。衣料品に飲食店、雑貨を取り扱う店などがあり、ここなら大体の用事が済む。

 一条は三階の映画館にいるらしく、そこへエレベータで向かう。

 予告の映像が流れている画面の前に一条はいた。

隣には叶が立っている。

「あの、、?」

「ねぇ、なんでこのヒロインはミニスカで刑事やってんの?」

「ミニスカの方が、一部の人間から人気だから」

「一部って男性がほとんどを占めてる気がする」

「仕方ない世界の男女比は男性の方が多いから」

僕の声が聞こえてないのか、二人は振り向いてくれない。困り果てていると、僕の困惑を感じ取ったように、叶がこちらを向く。

「須山。話しかけるならハッキリと声出したほうがいい」

どうやら叶は僕が後ろで困惑していたことに気づいていたらしい。

「そうね。物事はハッキリ言えた方がいいわよ」

どうやら一条も気づいていたようだ。やけに気配に敏感だ、後ろに立つなと言われないだけマシかもしれない。

「分かった、気をつけるよ」

「まぁいいわ。人の性格は簡単には変わらないしね」

性格を変える。そう容易ではないけど今の僕には必要かもしれない。

「それより簡単に人の印象を変える方法があるわ」

印象を変える方法、前にそんな話をパドルでもしていた。

「外見よ。人は見た目が百%って聞いたことない?私はこれは真理だと思う。人間見た目で相手を見定めてるのは事実なのよ」

ずいぶんはっきりと言う。一条も見た目で周囲から色々言われているのかもしれない。

「確かに見た目は大事だと思うけど、僕が見た目を変えるなんて」

言い終える前に一条に阻まれる。

「そういう卑屈な考えは改めて欲しい。私たちはそんな自信のない人の背中を押すことができなくなる。僕なんかとか自分を貶めて安心するのは、今日で終わりにして。あなたにはあなたのいいところがある」

急にいいところがあると言われても照れてしまう。

 しかし前半部分はずいぶんきつい言葉だ。確かに僕は自分を低く見積もることで安心していた。でもそうじゃないと自分を保てないのだ

 はっきりいって自分の容姿を僕は好きじゃない。身長の低く貧弱な体形、鏡を見るたびに卑屈な気持ちになる。

 一条のような容姿の恵まれた人間には僕の気持ちなんてわかるわけがない。

「とにかく、今日はそんな外見を変えるべく、まず服装を矯正する。いい?」

一条は何も言わない僕を一瞥し、前へ進みだす。背中にはあなたがどう思うと私は進む、そんな意志が感じられた。


 何件か服を見て回ったが、服のことはよく分からずに眺めているばかりなってしまった。

 店を出て通路の端で一条と叶が話始める。僕は通路から階下で行われるヒーローショーをボーっと眺めていた。

「須山は好きな服装とかあるのか?」

突然聞かれて動揺して振り向くと、叶が僕の服装を眺めながら聞いてくる。

「特に・・。あんまり気にしたことなくて」

「その服はどこで買ってきたの?」

僕の服装はTシャツに薄手のチェックシャツを羽織って、ポケットの多いカーゴパンツとスニーカーを履いている。

「前に家族で出かけた時に母親に選んでもらった」

 言ってて急に恥ずかしくなってきた。一条も叶もシンプルな服装だが、それなりにオシャレに見える。それに比べて自分は親の選んだ服をそのまま外見にしている。

「お母さんはセンスがいいんだね。結構似合っている」

叶からの意外な一言で、心の中で母親に感謝した。

「須山が中学生なら、そのままでも良かったかもしれない」

母親への感謝を静かに取り消す、叶は結構厳しいことを言う。

「俺はオシャレって訳じゃないけど、服装には気を遣う。その方が目立たないから。無難な服装で大衆に溶け込みたい」

叶の服装はTシャツにジーンズとシンプルだが、周りを見渡せば似た服装の人を何人も見かける。大衆に溶け込むというのはこう言う事だろう。

「須山は今まで服装に気を遣ってこなかったのはわかった。でも今日からその意識を変えて欲しい。それに一条の言った外見も何も服装に限ったことじゃない」

「服装だけじゃない?」

僕が聞き返すと叶がちらりと一条を見ると、一条が話し始める。叶は話疲れたようだ。

「外見って言ったら、やっぱり人は顔をさすことが多い。顔で受ける印象でその人の印象が左右すると言ってもいい」

一条が言うと説得力がある。彼女は可愛い、それだけで今までどれだけ恩恵を受けてきたのだろう。

「結局は顔ってことじゃないか」

僕が自嘲気味に一条に言うと、彼女は馬鹿にしたように笑った。

「顔が全てなんて言ってないわ。モテない男性がよく言うけど、本当に顔だけが理由だと大間違いよ。それだからモテないのよ」

厳しい一言で心が折れそうになる。

 折れずに堪えられたのは横で悲しげな表情をしている叶がいたからだ。叶も中性的な顔立ちで整っているが、今の反応からするとモテていないのかもしれない。

「でも顔だけじゃないならどうするの?」

「顔だけじゃないけど、顔をないがしろにしていいわけじゃない。人の顔から受ける印象って不思議なの。女の子だとチーク塗るだけでも大分変わるの」

「僕は女じゃないんだけど」

「別に男だから化粧しないなんてことはないわ。ね、叶くん?」

一条は叶に振ると、叶が今までに見た事ないような表情になった。凄く怖い。一条も、しまったと思ったのか、話題を変えようとする。

「とにかく顔の印象はね、眉毛ひとつでも全然違うし。髪型も大事。今は伸びたら床屋さんで切ってもらうくらいでしょ?」

一条の言う通りなので頷く。

「つまり外見っていうのはね、そういうものを全てひっくるめて言ってるの。今回は手始めに服装から変えていくけど、いずれ全て変えていく」

一条が楽しそうに言う。多分プロデューサーの気分なんだろうな。

「一つ聞いてもいい?」

叶と一条が同時に何?と聞いてくる。

「今の僕じゃ彼女はできないかな」

二人は少し考えている。先に口火を切ったのは一条だった。

「今のままでも好きになってくれる人はいるとは思う。でも、あなたが彼女になって欲しい佐倉さんは、今まで接点もなかった。それなら何かを変える必要があると私は思う」

一条の言う通り、今までただ生活しているだけでは何も変わらなかったのは事実だ。

「佐倉さんが須山くんがタイプである可能性はなくはない。何せ接点がほとんどないんだから。でも、これから彼女にアプローチをかけるなら、外見を変えることはデメリットになるとは思えない」」

一条の言葉で決心がついた。今までの僕では何も変わらない、それならば変革が必要だ。

「一条さん、僕は変わりたい」

そう言うと一条が嬉しそうに言う。

「じゃ服いっぱい買っちゃおう!」

「いや、あのお手柔らかに」

少し笑って一条に言う。こんなことなら貯金を全て持ってきても良かったかもしれない。

その後はまたお店を巡りながら一条と叶の意見を聞きながら、何着か着まわせるものを購入した。

 服のついでに靴やアクセサリー等を、見て回った。改めて、僕は知らないことが多かったんだと驚く。二人がいて良かった、今までの僕だったらひのきのぼうに皮の装備で、戦うところだった。

 別れ際に一条は「本当に変わりたいなら、一番大事なのは変わりたいという意志だと思う」と言葉を残して去っていった。叶は「じゃまた」と簡単に挨拶し、一条に続いていった。夕焼けに二人の後ろ姿が照らされている。

 そういえば叶は一日難しい顔をしていた。何か考え事をしているようだった。


八月五日 十九時 一条真希


 須山と別れた後、叶に夕飯を食べて帰ろうと誘うと、叶から意外なこといいよと言われた。叶は付き合いが悪そうだし、何より私は嫌われていると思っていたので、少し驚いた。

 そもそも今日こうやってここに来ているから、付き合いはいい方なのかもしれない。

駅から出た後は、二人共徒歩なので、通り道にある気になっていたパスタ屋に入ることにする。帰りの電車ではあまり話すことができなかったが、ここでならゆっくり話すことができるだろう。

 店内はイタリアンチックで、程よくオシャレな内装をしていて、意図せずしてデートに向いた店を選んでしまった。

 案内された窓際の席に座り、メニュー表を眺める。私はトマトとナスのスパゲッティ、叶はカルボナーラを注文し水を一口のんだところで話をきりだした。

「それで、今日一日何を考えていたの?」

叶は今日須山の服の見立てなどを手伝ってもらったが、服を見る傍らでずっと何かを考えているようだった。

「須山はどうしたらいいかと思ってな。」

「どうしたらいいって?」

出された水を飲みながら、尋ねる。

「一条も言っていたが、人の見た目を変えるのは簡単で一番手っ取り早い。ただ内面は違う」

「須山くん恋愛に向いてなさそうだもんね」

「ああ。今まで実体験として恋愛してきていない人間が、いきなりうまく動けるかと言われたら、そんな訳がない」

「そうね。恋愛強者の叶君とは違うわよね」

叶が嫌そうな顔になる。正直この顔が見たくて冗談を言っている節はある。

「喧嘩なら買うぞ」

「売り切れです。冗談はさておき須山君は、恋愛経験少なそう」

須山の恋愛経験がないのは明白だ。私達に頼るくらいだから当たり前だが。

「それは確かにそうだが。俺が言ってるのはもっと根本的なところだ」

「というと?」

尋ねると同時にパスタが運ばれてきた。両手を合わせていただきますというと、叶も向かいの席で同じことをしている。

「須山は積極的に相手にアプローチをかけられるタイプでもないし、何よりコミュニケーション強者でもない。今回みたいに友達未満の相手を、彼女にまで関係性を変えるのに、あの消極的な姿勢ではかなり厳しい」

叶の言う通り、須山からアプローチしていくのにあの大人しさは致命的だ。場合によってはそれも魅力的に映るだろうが、今回は自分から動く必要がある。

「そうだね。でも須山くんが自分でガツガツいける肉食獣なら、そもそも私達に依頼してないよ」

「須山は自分一人じゃ無理だから、俺達を頼った。それなら難しいところサポートするのが俺達の役目でもある」

「それを考えてたわけね」

なるほど一日中考える訳だ。今回一番の難関かもしれない。

「それで策は浮かんだの?」

「浮かんでない。まだ考える余地ありだな、須山も変わる気はあるようだし」

叶は食べ終わったようで口拭きながら言う。確かに須山にやる気があるなら、変わる余地もある。

「じゃあ腕の見せ所、楽しみにしてるね」

「何言ってんだ?」叶が眉をひそめて言う。

「一条も、今回の依頼を受けた側だから考えるんだぞ」

「そうでした」

すっかり観客気分でいたが、自分は当事者だったっことを思い出す。もう一つの目的がメインの気持ちになっていた、危ない危ない。

「でも須山君の野暮ったい外見を変えるのは、簡単だから分かるけど、肝心の佐倉さんとの接点はどうするの?」

私も残りのパスタを飲み込んで言う。デザートが食べたい気分になってきた。

「それについては、佐光が任せろって言ってたから任せることにした。」

だから、今日は外見について考えることを、優先したのかと納得した。昨日急に叶から、外見を優先しようと言われたのだった。

「佐光君の任せろは大丈夫なの?」

佐光のことをよく知らないので少し不安になる。

「あいつはやる時はやる男だ。任せて大丈夫だろ」

なんだかんだ佐光のことは信頼しているようだ。仮にも倶楽部の初期メンバーなので当たり前と言えばそうだが。

「じゃあ任せよう。私達は須山君のメンタル増強プログラム考えないとね」

そう言うと、叶はハッと何かに気づいたようだ。

「考えたら、俺達より適任がいる」

「誰?成ちゃん?」

「違う。佐光なら忌憚のない意見で須山を変えられる」

「それ須山くん大丈夫?」

須山が泣きださないか心配だ。

「・・大丈夫だろ、多分」

叶の声は自信なさげだ。

「そうと決まったら、デザート食べよ」

「まだ食べるのかよ。じゃあミニパフェで」

なんやかんや言いながら付き合ってくれるらしい。

 私達はデザートを食べながら、また色々話しをして、なんだかデート中のカップルみたいな気分になった。


八月八日 十七時 須山省吾


 叶や一条と買い物をした日から三日後、部活が休みの日を一日使って、佐光から身嗜みから何気ない仕草、話し方に至るまで徹底的にアドバイスもとい指導が入った。

 佐光式メンタリティ矯正講座とでも言うのだろうか。佐光はドSであることを実感した日で、あんまり思い出したくない。

 ともあれ指導が入って、前のおどおどした喋り方や仕草が少しは改善された気もする。佐光曰く、ギリギリ及第点らしい。

 そして、佐光からの提案で佐倉さんをデートに誘うことになった。

 取り合えず、佐光には何を馬鹿なことを、と百の言葉を使って伝えたが、千の言葉で説得されてしまった。

 佐光曰く、みんなで遊びに行く体にしてしまえば難易度は低かろうという話だ。

 言う事はわかるが、問題はデートに誘うよりも、実際に佐倉と一緒に遊びに行くという点だ。

 同じ部活の仲間とはいえ、あまり面識のない人と佐倉が出かけるとは思えないが、複数で出かけるなら僕は紛れて参加するとができるという算段だ。そもそも、それをデート言うのかは僕には疑問なのだが。

 さらに佐光曰く、告白できるシチュエーションができればいいとのこと。

いきなり告白できるシチュエーションを与えるから、告白しろなんてなんとも無茶な話だ。

 僕が何か言う前に、またしても佐光に説得されたが、これも一理ある。

「須山、夏休み中に佐倉と、どうにかなるなら短期決戦が得策だ。これから知り合ってじっくり行く道もないわけではないが、そんなことやってたら夏休みが終わっちまう。まぁ今回告白して付き合えるなんて正直思ってない。要は相手の意識を変えれればいいんだ、告白の結果が付き合う振られるだけじゃないだろ?友達からスタートできれば、御の字だ。」

佐光のこういう恋愛観というものはいったいどこからくるのだろう?

 ともあれ、現状を変えられるなら佐光にの案に乗るのがいいとも思えた。叶や一条もそれに賛成と聞いている。

 遊びに行くメンバーは僕、佐光、佐光の友人森岡もりおか、吹奏楽部女子-ズ佐倉、瀬尾、小坂こさか

 吹奏楽部の女子は、多少なりとも話したことはあるが、森岡とは面識が全くない。佐光から人選理由を聞くと、辺り障りなく周囲とコミュニケーションを取れるやつだから、ということらしい。

 また、今回の主旨は森岡君には伝えない方向の様だ。女子達に不自然な態度で警戒されても困るので、あくまで自然体を装えるように投入されるのが森岡君である。

 姿を一度だけ見た事があるが、佐光にも引けを取らないイケメンだった。サッカー部はカッコいい人が多いイメージがある。

 女子グループでは、吹奏楽部の元気枠である小坂と佐倉とも仲の良い瀬尾が来ることになっている。この人選理由を聞いたが、適用と言われた。佐倉以外どうでもいいだろ、とのことだった。

 それにしても、接点のなさそうなメンバーをあっさり集める辺り、佐光の底知れぬコミュニケーション力が垣間見える。

 佐光に掛かればできないことはないのではないか、そう思えてしまう。それほどにメンバー人選に抜け目がなく、最良の人選と言えた。


だが、この時点でこの人選が誰にとっての最良かなんて気づきもしなかった。


八月八日 二十時 ???


「それであんたはあいつ付き合いたいって思ってんだ?」

 まぁあいつは今フリーだしいいんじゃない?

 でも、俺ができることなんて大してないぜ?紹介するだけして終わりだよ。

 あとは自分で頑張るしかないでしょ。

 え?倶楽部なんてどっから聞いたんだよ。

 確かに俺はそこのメンバーだったけど、他人の恋愛なんて興味なかったよ。

 俺は面白いやつがいたからそこにいただけ。

 あーいや、待て。

 今の話さ、俺のやりたいようにやらせてくれるなら、協力してもいいよ。

 久しぶりに会いたいやつがいるんだ。


八月二日 十一時 ???


「さっきの人と何の話ししてたの?」

「なんか凄い見てくるから注意したの」

「勇気あるね」

「まぁ気弱そうな人だったし。でも知り合いじゃないの?」

「え、どうして?」

「学校の人でしょ?知ってるみたいだったよ」

「なんか見たことあるような気がしたけど、、そうなのかな」

「本当に?」

「え、な、何で?どうしたの?」

「なんでもないことを隠そうとしている人は大概その先に何か隠してるものよ」

「それ誰の言葉?」

「私」


八月十日 十時 叶真澄


 はて、俺はなぜこんな所にいるのだろう。不機嫌な顔を隠さずにいたら、隣の一条君に小突かれた。

「ちょっともう少し楽しそうな顔したら?」

「来たくもないとは言わないけど、あまり好きじゃないんだ」

「遊園地なんてそう来る機会ないのに」

一条君はソフトクリームを食べながら、ふてくされた顔をしている。

「それより、その恰好何?」

「変装よ。私は瀬尾ちゃんに顔が割れてるから。」

一条は変装というよりも男装している。

 どこで借りたかわからないがシャツにズボン、キャップをつけて一見小柄な少年にしか見えない。

「張り込み中の刑事みたいだな。」

「間違いではないわよ。私たちは見届ける責任があるんだから。大体叶君も人のこと言えないでしょ」一条の言うように俺も普段、あまりしない恰好をしていた。

 今日は須山が佐光が遊びに来ている遊園地『ビックノイズ』に、後を追うように俺と一条がついて回っている。

 実際は先回りしているが。

 佐光には、俺と一条、二人必要ないだろと主張したが、千の言葉で言いくるめられてしまった。反論できないわけではないが、矢継ぎ早に言われて面倒になった。佐光はそこも計算済みで言いくるめようとしているのだが。

 結局俺は須山を見守る役割として、ついていくことになり一条もそれに倣った。

 ただ、佐光が何故俺をこの場に呼び出したのかが、イマイチ腑に落ちない。それに一条も来る必要があったのか。

 前方百メートルくらいには、佐光達のグループがパンフレットをみて話をしている。

須山も会話に参加しようとしているが、うまく輪の中にはいっていけないようだ。

 主に話しているのは佐光、森岡、小坂の三人と佐倉と瀬尾が二人で話をしていてあぶれて須山だ。佐倉と瀬尾の中に入れればと思うのだが、中々難しいらしい。

 さてこんな状況で今日で状況が好転するのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る