第1章ー2
4
倶楽部の活動は大分久々で、中学生の自分は何をやっていたかを考える。
しかし、少し考えてから計画を立てるのは、元々自分の役割でないことを思い出して困り果てた。結局思いついたのは、取りあえず情報収集することだった。
一条にはサッカー部員から、俺はサッカー部員ではない人から、それぞれ鷹匠についての話を聞くことにした。二つの話に食い違いがあるかどうかを確かめたかったからだ。
それにしても、そもそも鷹匠に恋人がいた場合、一条はどうするのだろう。アッサリ諦めるのか、略奪愛を狙うのか。
それに夏休み前という期限も、鷹匠と夏を満喫するつもりだろうが、あっちは受験前でそれどころではないのではないか。
「叶!」声を掛けられて驚く。
目の前にボールが転がってきていた。全力で前に蹴り返す。
「ナイスクリア!」
近くにいた
一学期最後の体育は何の因果かサッカーだった。
元陸上部員なので、スポーツが苦手ではないが、そんなことを知っているクラスメイトはいない。適当にディフェンダーでもやっておいてという、ありがたいサッカー部の指示に従って、グラウンドの端でのんびり考え事をしていた。
ただ油断していると、さっきみたいにボールが飛んでくるので、その時は全力でクリアしておけば特に問題はなかった。
「はい、交代ー」
体育教師から合図が出て、俺達は下がってBチームがグラウンドに出ていく。
ニクラス合同体育で一クラス二十人余りの男子を適当にA,Bのチームに分けて、計四チームの総当たり戦。この暑い中、三試合もやったら一人くらい倒れそうなものだ。
「叶、意外と動けるな」
気づくと山中が横に座っていた。同じクラスのサッカー部員とは、チームが別れたようようで、たまたま近くにいた俺の所に来たようだ。
「前に思い切り蹴ってるだけだよ。山中はサッカー部だけあって上手いよな」
山中は少し驚いた表情をしている。
「俺がサッカー部ってよく知ってるな」
「いや上手かったから適当言った」
これは嘘だ。クラスの奴が何部に入っているのかは、大体把握している。
「適当かよ。それに俺なんかまだまだ」
「そうなのか、次期キャプテン候補かと思った」
ちょうどいい機会だ、鷹匠について何か聞けないか探りを入れる。
「適当言い過ぎ。それにキャプテンは上手くないとな」
「今のキャプテンってあの人だろ、鷹なんとか先輩」
「鷹匠先輩?いやいやあの人はキャプテンじゃないよ、今のキャプテンは
てっきりキャプテンとかの役職についていると思ったが、当てが外れたらしい。
「前に女子が話してるの聞こえたんだ、格好いいよねって言われてた。見た事あるけど、確かに格好いいよなあの人」
一条に写真を見せて貰ったが、贔屓目なしにイケメンだった。噂の真偽はともかくあれはモテるだろう。
「多分サッカー部で一番上手いよ。なんでこんな高校いるんだろってくらい」
浅ヶ丘は部活動に力を入れている高校でもないので、中学で名を馳せたような人が突出して上手く感じるのではないかと思ってしまう。
「凄いな。イケメンでサッカー上手いっていいな、モテそう」
「モテるよ、バレンタインとか凄かった」
「お返しが大変とか言ってみたいな」
「叶もモテるんじゃない?」
会話の軌道を間違えたのか、話題が自分に寄ってしまった。
「ないない」
そこから他愛もない話は続いたが、鷹匠についての話題はそれ以上でなかった。
一つ分かったことは、部員全員に嫌われている訳ではないだろうということ。
授業が終わって放課後、図書室で本を眺めながら考えを整理していた。
現状気になることは二つ、鷹匠の噂が本当なのか、一条の友達が見たというスーツの美女は何者なのか。
単純にスーツ美女が鷹匠の彼女の一人で、他にも年上の彼女がいるのであれば噂は本当になる。もしくは、噂もデタラメで一条の友達が見間違っている可能性もある。
一体何が本当なのか。過去の依頼者でも不確かな情報を俺達に伝えて、随分と手間取ったことがあった。
本人が絶対と思っていることが勘違いだったり、誰かが言ってるから私もそうだと思った、なんて言われたこともよくある。中学生だからかもしれないが、自分の発言に責任を持たないものだと、あの頃によく思い知った。
不確定な情報から、解決策を導きだすなら想像力を駆使する必要がある。何パターンか解決策を提示して、依頼者にとっての最善を選ぶ。
一条にとっての最善は何か、その為の解決策とはなんだろうか。
ふと時計を見ると図書室を出る時間だった。グラウンドを眺めると、陸上部はもう片付けを始めていた。
5
部活が終わり、駅に向かう後輩と別れて自転車を漕いでいると、目の前に見覚えのある後ろ姿が見えた。追い越して振り返ると、そこには思った通りの男がいた。
「よう、叶。久しぶり」
「あれ、久しぶりです。
叶は中学で一緒に陸上競技をやっていた後輩だ。
高校でもやらないかと、入学した時に勧誘したが断られて以来、会うたび勧誘しているが中々なびいてくれない。
「随分帰り遅いな。お前帰宅部だろ?」
「図書室で課題やってたら、遅くなっちゃって。先輩は部活終わりですか?」
「おう。毎日部活よ、叶のこともずっと待ってんだけどな」
叶は苦笑するだけだ。
「先輩受験勉強はいいんですか?夏期講習とか」
「俺は受験しないからな、専門に行く」
「何の専門ですか?」
「笑うなよ、調理学校行こうと思ってな」
「調理ですか、意外ですね」
帰りの遅い両親に代わって、食事をよく作っていたのがきっかけとなった。
「だろ?家では料理するんだぜ」
「料理男子ってやつですね。女子ウケ良さそう」
「いやそうでもないぞ、調理実習で上手く作っても、自信なくすとか女子に言われんだぜ?」
「それは酷いですね。やっぱり時代はサッカーじゃないですか?」
叶がこんなこと言うなんて珍しい。
「陸上一筋だったお前がそんなこと言うなんてな。サッカー始めるのか」
「いや始めないです。今日クラスのサッカー部に聞いたんですよ、鷹匠さんっていうサッカー部のエースが年上を侍らせてるって、だからサッカー部はモテるのかなって」
こんな俗なことを言うやつだったかなと思う。
「へー鷹匠がね。いかにもモテそうだからな」
鷹匠とは同じクラスだったが、少し会話した程度なので人柄をあまり知らない。ただクラス行事には協力的で、人望は厚かった。
「僻みだと思ってたんですけど、本当なんですかね」
「どうだろうな、あいつは普通にいい奴だけど。本人に聞いてみたらどうだ?」
「聞きませんよ、信じてないですし。山田先輩は彼女いましたっけ?」
「いるよ。他校だけどな」彼女とは短期バイトで出会った。自分には勿体ないような子だ。
「他校の人ですか。いいなぁ」
「なんだ彼女いないのか」
叶こそ女子ウケしそうな見た目をしてる、中性的でスカートも着こなしそうだ。
「いないです。夏休み前なんで欲しいところですが」
「なら夏休みに良い時間潰しがあるぞ」
「何ですか?」
「陸上部に入って、目一杯走る!」
なんでも言ってみることが大事だよな。
「じゃ僕こっちなんで、お疲れ様でーす」
そう言ってそそくさと去っていく後輩の背中へ、「いつでも来いよ!」と声を掛ける。 姿勢が良く、体幹のしっかりした後ろ姿見ると勿体無いなと思ってしまう。
あいつは一体何で陸上を辞めてしまったのだろうか。
6
夏の日の入りが長いのに比例して、部活の時間も長くなっていく。
気づけばもう十九時近くなっている。新体制になってから、主将の気合に顧問の熱心な指導が加わり、練習は激化する一方だった。
夏休みも練習漬けの毎日が決定していて、キャプテンや他の先輩部員への不満は下級生たちの中で静かに膨れ上がっていた。
いっそ辞めてしまおうかと考えるが、勇気がでずに悶々とする日々だった。
溜息まじりに自転車を漕いでいると、見覚えのある顔が横断歩道に立っていた。
「おっす一条、今帰り?」
クラスメイトの一条が私服で買い物袋を下げていた。彼女の私服を初めて見たが、とてもかわいい。
「うん、買い物帰り。
自転車から降りて並んで歩く。
「そうそう、もうヘトヘトだよ」
「大変そうだね、サッカー部」
「そうなんだよ、主将が最近気合い入ってて。大会までこの調子だろうな」
自分で言っていてうんざりする。
「大会は秋だもんね。林田はレギュラーになれそう?」
「うーん、このままじゃ難しいかも。フォワードは激戦区なんだよ」
本当はレギュラーなど程遠いが、見栄を張る。
「ああ、フォワードはあの人がいるもんね。鷹匠先輩だっけイケメンの人」
「鷹匠先輩はレギュラー確定だな。あの人には勝てない」
あの人だけ上手さが別次元である。ただ、尊敬はしない。何せあの人も部活が激化する要因でもあるからだ。
「イケメンでサッカーうまいなんて、完璧だね」
「そうなんだよ。でも女癖が悪いって話だよ、二股か三股してるらしいし」
サッカー部の中、特に下級生には定番の話題だった。
「え、最低じゃん。うちの学校にそんなに彼女がいるの?」
「いや同じ学校じゃ、修羅場になっちゃうよ。みんな他校らしい」
「爽やかで真面目なイメージがあったけど、裏があるもんだね」
「サッカー部では、みんなそんな話してるよ。鷹匠先輩は意外と黒いって」
腹黒いように見えないのが、余計にたちが悪い。
「そっか、女子は気を付けないとだね」
「一条も気を付けた方がいいよ。鷹匠先輩、見境いないから」
一条ほど可愛ければ、十分標的になる。
「忠告ありがと。変な男に引っかからないように気を付けます」
彼女は敬礼してこちらに微笑んで言った。あざと可愛い。
「じゃ私こっちだから」一条は左方向を指差した。
「乗ってく?」
自転車を向けて尋ねる。二人乗りで下校なんて青春を期待してしまう。
「ううん、大丈夫。すぐそこだから」
「そっか。じゃあ気を付けて」
残念な気持ちで自転車に跨り、一人分の重さで帰路を走る。
ふと彼女は家がこの辺だっただろうかと疑問が浮かんだが、家に着くまでには忘れていた。
7
読んでいた本から目を離し、時計を見ると待ち合わせの時間は過ぎていて、一条は何をしているのかと呆れる。
昨日の夜、夕飯を食べているとミッションコンプリートと書かれたメッセージが、一条から送られてきた。
お互いの聞き込み結果を、昨日の内に聞こうと思ったが、一条は直接話しをしたいとのことだった。
そんな訳で、放課後図書室に集合してから話そうと連絡したが本人は一向に現れない。
もう帰るかと、スマホを手に取るとメッセージを受信していた。
「待ち合わせ場所変更!パドルで成ちゃんと待ってるね」
メッセージ自体は三十分前にきていたが、本に夢中で気づかなかった。
パドルとは前回連れていかれた喫茶店だったなと思い、あまり遅れるとうるさそうなので小走りに図書室を出た。
パドルコーヒーに着き、二階席への階段を息を整えながら登る。階段を上りきると、目の前の席でパフェをつつく成沢と一条の姿が見えた。
「急に場所変更したと思ったら、パフェ食べたかっただけか」
走る必要なかったなと思いながら、成沢の隣に座る。
「頭を使うんなら糖分は必要でしょ?」
一条はスプーンを指揮棒のように振る。
「それなら、俺の分もあるんだよな?」
「コーンフレークあげる」
「底じゃねーか」
俺らのやり取りを成沢が楽しそうに見ている。
「ところで何で成沢がいるんだよ。部活はどうした」
成沢はパフェをつつきながら言う。
「これから病院行くから、お休み」
病院と聞いて、胸がざわつく。
「病院って、故障でもしたのか?」
「歯医者」
気が抜ける、少しでも心配した俺が馬鹿みたいだ。
「尚更、パフェくれよ」
「ちゃんと歯は磨いていくよ」
成沢の手は止まらない。そういう問題かと疑問に思いつつ、本題に入る。
「そんなことより、一条は昨日どうだった?」
聞きこみをするにあたって、一条には事前にポイントを伝えていた。
一つは対象者の名前は会話の中で自然に出すこと。
二つ目は追及しすぎないこと。
学校という狭い空間の中で、特定の誰かについて調べようとすると、下手をすれば誰かから調べていることが漏れる。
倶楽部の活動は、秘密裏に行うのが大原則なので、対象者はもちろん、その他の人間にも俺達が調べていることを知られてはいけない。
その為、調査時には自分達が聞き込みをしていると悟られないように、通常会話の中で何とか情報を引き出す話術が必要になる。
しかし、大前提は悟られないように、の部分なので難しいと感じたらすぐに手を引くことが重要である。
今回は手が足りないので、一条にも聞き込みをしてもらったのだが、これはかなりリスキーな点でもあった。聞き込みのポイントを守ってくれてだろうか。
「マリオネットのように従順に命令を実行いたしました」
一条はドヤ顔で言う。急に心配になってきたので、何かあったら無関係を貫こうと決めた。
「本当に大丈夫かよ。それで林田だっけ?何て言ってた?」
一条は昨日した会話をかいつまんで説明してくれた。
「何か前聞いた話と違うな」
前に一条から聞いたのは、年上を侍らせてるという話しだったが、今回は複数股疑惑。
「私が最初に聞いた年上の話は、サッカー部とは関係ない女の子から聞いたからズレはあるかも」一拍置いて補足する。「サッカー部の話とはね」
「やっぱり、本当にただの噂なのかもな。陸部の先輩は噂については知らなそうだし、いい奴だって言ってた」
「叶くん、帰宅部じゃなかったっけ」
「中学の時の先輩」
「山田先輩?」それまで黙っていた成沢が聞いてきた。
「そうそう。大会とかで会うだろ?」
成沢は首を振る。
「ウチとは支部が違うから、都大会とかじゃないと会わないかな。でも浅ヶ丘の人は誰も都大会出てなかった」
我が校の陸上部はそれほど強くないらしい。
「それより、その山田先輩は知ってて誤魔化してることはないの?鷹匠先輩を庇ったとか」
山田先輩を思い浮かべるが、あの人はそんな器用なことは出来なさそうだ。
「なくもないけど、確かめようがない」
山田先輩にこれ以上追及すると、怪しまれそうだ。いい奴という当たり障りの言葉は、鷹匠をあまり知らないから出てきたとも思っている。
「何もはっきりしないし、聞き込みの成果なしってこと?」
「そうなるな」
不満そうな一条を横目に、こんなものだろうと思っていた。
正確な情報を入手するなら、信頼できる人間に聞くか、複数の人間から集めた情報で信憑性の高いものを選ぶくらいしかできない。
今回は集めた情報が少ないので仕方がない。一条の指定した夏休みまでは残り一週間程あるが、これ以上聞き込みの効果は薄いような気がした。
「鷹匠先輩は女狂いなのか、誠実な好青年なのかどっちなの」
一条が名残り惜しそうにパフェの底をほじりながら言っている。残念なのは、鷹匠のことなのか、パフェがなくなったからなのかは見分けがつかない。
「それにしても、叶と真希ちゃんから聞く印象がずいぶん違うね。正確には、陸上部視点とサッカー部視点」
「真逆だよな」
「真希ちゃんのお友達はサッカー部と仲が良いの?」
「どうだろう。友達はいるだろうけど、どうして?」一条は不思議そうだ。
「鷹匠先輩は何が原因かわからないけど、部員達から嫌われている。不満を持った部員達は周囲にあることないこと噂を流して、先輩の評判を落とそうしている。とかじゃない?」
成沢に言われて、昨日のことを思い出した。
「いや、昨日クラスのサッカー部員と話したけど、鷹匠先輩が嫌われているような感じではなかった。もし嫌われていたとしても全員ではない」
「そっか。じゃあ一部に嫌われていて、その噂を聞いたのが真希ちゃんの友達」
「つまり、噂はあくまで噂で鷹匠先輩は誠実な好青年であると」
俺が言うと成沢はうなずいた。
「成ちゃん、もしかして天才?」
「やっぱり?自分でも薄々感づいてたんだよね」
ピノキオのように成沢の鼻が伸びているように見える。鼻高々。
「一条の友達は聞いたんじゃなくて、見たんだろ」
「叶君細かいなぁ」
「じゃあ問題解決でいいか?」
俺は呆れて一条へ言う。
「これで鷹匠先輩に告白していい返事貰えると思う?」
「俺は挑戦する意志が大事だと思うぞ」
一条は静かにスマホを取り出す。これだけで脅しになるのだから恐ろしい。
「気持ちは分かるが、これ以上聞き込み続けても」
その先は言わなかったが、成果は恐らくない。
あれだけ目立つ存在でありながら、彼女の存在が見え隠れしないのは、そもそもいないか、余程上手く隠しているかだと思われる。
それに噂のおかけで、余計に特定の彼女がいるのかも分かりづらい。鷹匠と仲の良い人物に話しを聞ければいいが、俺にも一条にもその伝手はない。
「一度整理するが、まず俺にできるのは鷹匠先輩と恋人同士にさせてやることじゃない。あくまで支援。鷹匠先輩への告白の成功率を、少しでもあげることぐらいだ。そして、現状不透明な先輩の女性関係がある中での告白は、成功するかもしれないが、もれなく別の女性が出てくる可能性もある。一条としてはそこをまずクリアにしたい」
「当然。もしかしたら普通に彼女が出てくるかもしれないし」
「だよな。だから確認しなきゃいけないのは、先輩の彼女の有無。噂のように複数の女性と関係があるかどうか。そこを超えない限り告白なんて二の次と言ったところ」
「そして、その為にした聞き込みでは有益な情報は出ていない」
一条は困った表情を見せる。手詰まり感が否めないからだろう。
「こういう時こそ、叶の出番じゃないの?」
油断していると、成沢から最悪のパスが飛んできた。
「いや俺は無力だよ」
言いながら、流石成沢と心の中で賞賛していた。
「そんなことない。叶君、お願い!私の夏休みの為に助けて!」
一条が手を合掌し祈るように頭を下げる。
「叶、何かあるんでしょ?」
成沢は俺の煮え切らない表情で察したらしい。俺は深く溜息をつく、覚悟を決める時だった。
「わかったよ。成沢、協力してくれ」
成沢は少し笑って、
「いいよ、任せな」
一条は何が起こるかわからないようだった。
成沢はどうやら俺が何故、怪人二十面相というコードネームだったのかまでは話していないようだった。
鷹匠2
買い物に出かけようと身支度を整えていると、リカから私も買い物について行きたいという連絡が来た。
先ほどまでプレゼントについて、相談していたが話している内にリカも出かけたくなったらしい。どう返事をするのか悩む。
先日もプレゼントを一緒に買い物に行ったが、リカはあれもこれも色んな物を見るので、全く買いたいものが決まらなかった。
リカ曰くプレゼントは、悩んだ時間=思いの強さだそうだ。そうは言うが、色々見すぎて見当もつけられず仕舞いだった。
悩んだ末リカには一人で行くよと連絡すると、すぐに返事が返ってきた。
『今日は時間あるから大丈夫でしょ』
なるほど、前回はお互い部活終わり、仕事終わりだから決まらなかったと言いたい訳か。
これ以上何か言っても押し問答な気がしたので、諦めてリカを連れていくことにした。
待ち合わせの駅前で立っていると、女子高生がこちらを見て何か話している。
たまに連絡先を聞かれたりするが、それを友人に言うと羨ましいとか、選び放題とか好き勝手言われる。
俺からすれば彼女達は外見だけで、勝手なイメージを作り出し、理想と違えば離れていく。
人間の外見を宝石箱とかゴミ袋に例えて、ゴミ袋の中身を見たいと思うかなんてことが、SNSで問われているのを見たが、その通りだ。
結局人は目に見えるものが、美しければいい。そんな事を自分で考えておいて、少し落ち込んでるとリカが近づいてくるのが見えた。
「康平お待たせ、待った?」
リカはナチュラルに腕を組もうとしてくる。
「いや、全然。それより腕組まないでよ」
「いいじゃん、減るものじゃないし。照れてるの?」
昔から変わらない、リカの態度に少し呆れる。
「もうなんでもいいよ」
「よし早く行こ。康平の方、優先で」
「当たり前でしょ、その為に来たんだから」
「
「美咲なら何あげても喜んでくれると思う。上げたいものは大体決まったけど」
「康平もすっかりオトコになっちゃって。美咲ちゃん誕生日いつだっけ?」
「八月一日」
「夏休み入ったぐらいだね。それまでに振られないといいけど」
リカは笑っているが、冗談じゃない。
駅から目当ての店に行くまでに歩いていると、道の端に背が高く帽子を被った女性が立っていた。
女性の中でもリカは背が高いが、それよりも大きくモデルのようだ。
「こんにちは、街頭アンケートにご協力頂けませんか?」
俺が眺めていたからか、声を掛けられた。
断って去ろうとしたが、リカが興味深そうに女性を眺めていて、離れようとしない。諦めて少しだけ話しを聞くことにした。
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