花を愛した木と鳥たち
Luvjoiners
花を愛した木と鳥たち
東の国と西の国の間に、
小さな島がありました。
天の川が綺麗な夜のこと。
一本の若い木が芽を出しました。
その様子を、1羽の美しい鳥が見守っていました。
「世界へようこそ、素敵な木よ
いつか私の止まり木になって。
私は花を運ぶ鳥。」
小さな木は言いました。
「まだまだ僕は小さな木
君の止まり木にはなれないよ。」
鳥は優しくさえずりました。
「あら、それならその時を
私はずっと待っているわ
綺麗な花の夢を見て。」
幾度もお日様が昇り、
幾度もお月さまが眠りました。
木はぐんぐんと成長し、
立派な枝をつけました。
鳥がやってきて言いました。
「大きくなったわ、素敵な木
私の羽を休ませて。
見て見て、綺麗な花でしょう
私がこれを植えるから
あなたは水と風をあげて。
一緒に花を咲かせましょう。」
木は枝をそよそよと揺らして言いました。
「ああ、なんて可愛い花だろう。
僕が風と水をあげるから
どうか綺麗に咲いておくれ。
鳥さん、鳥さん、ありがとう。
どうぞ枝の上で休んでほしい。」
鳥は枝にキスをして言いました。
「いいえ、私はもう行くわ
もっと花を運んでくるの。」
そうして鳥は飛んでいきました。
木は静かに待っていました。
ある時、風が強く吹いて、
枝が折れてしまいました。
それでも木は決して涙を流さず、
ただ、耐えていました。
鳥が心配そうな顔をしました。
「あら大変、枝が折れているわ。
痛くはないの?大丈夫?」
「ああ、確かに痛むんだ。
だけれどもっと気がかりなのは
君が休めなくなることだ。
鳥さん、その羽が疲れたら
どうぞ枝で休んでほしい。」
鳥は急いで飛び立ちました。
そして、何かをくわえて帰ってきました。
「見て、リボンを見つけたの
これで手当てをしてあげる。
痛みが消えるまで休みましょう。
綺麗な花を咲かすため。」
鳥は、折れた枝にリボンを巻きました。
その後も鳥はやってきて、
綺麗な花を植えていきました。
木はずっしりと根をはって、
大きな大きな枝を広げ、
鳥や花々をしっかりと支えていました。
「綺麗な花よ、花ざかり
私の好きな白い花。」
「僕の枝はよくしなり、
幹はきっと揺るがない。
それでも時々重いけど
花がそれを癒してくれる。」
冬の日も、木は寂しくありません。
雪の降る国から、蝶々がやってくるのです。
蝶々は綺麗な花を見て、
木に愛の詩を捧げました。
木は葉っぱを赤らめて、
蝶々の羽にキスをしました。
また次の冬も、蝶々がやってきては、
2人で愛を語りました。
おかげで、寒い雪の日も、
心は温かく過ごしました。
とある秋の日のことでした。
とても強い風が吹きました。
リボンで繋いだ枝が折れ、
幹も斜めに傾きました。
さすがに木も苦しくなって、
うめくように葉をざわめかせました。
風の中をくぐり抜け、
鳥が大慌てでやってきました。
「まあ、大変だわ、素敵な木!
これでは折れてしまうでしょう!
待っていて、手当をしてあげる。」
「いいや、鳥さん、もうだめだ
僕は倒れてしまうだろう。
枝もボロボロ、葉も落ちて、
君を支えることは出来ない。
花もすっかり散ってしまう。」
「諦めてはいけない、大丈夫よ
あなたは私の素敵な木
しっかり手当をしたならば
きっとまた花を咲かせるわ。
私がリボンを結ぶから
もう少しだけ、待っていて」
鳥は必死に羽ばたいて、
幾重にもリボンを巻きました。
すんでのところで木の幹は、
リボンでぎゅっと結ばれて
木は倒れずに済みました。
「鳥さん、鳥さん、ありがとう
まだまだ体は痛いけど
君がこんなに頑張って
僕を助けてくれたんだ。
泣いてなんかはいられない。
もう一度花を咲かせよう。
君と一緒に夢を見よう。」
すっかり元気になった木は、
より多くの花を咲かせました。
鳥もたいそう喜んで、
可愛い歌を口ずさみながら、
踊るように、花を植えていきました。
「ごらんよ、綺麗な花々を
僕と君とで咲かせた花を。」
「あなたのおかげよ、素敵な木
私の夢が叶ったわ。
花いっぱいの木の上で
羽を休めることが出来て。」
鳥は高く歌いました。
木は枝をそよそよと振りました。
ある日、鳥は言いました。
「私はあなたが小さい時から
すくすく育つのを見ていたわ。
時々心配したけれど、
あなたはこんなに大きくなった。
なんだか涙が出てくるわ。
素敵な木よ、ありがとう。」
「君のおかげだよ、鳥さんよ
痛い思いもしたけれど
何度も君に救われた。
君がいなければ僕は
あの晩倒れていただろう。
家族のような鳥さんよ、
これからも僕を見守って。」
花ざかりの日々は、しばらく続きましたが、
木は、鳥が徐々に疲れていくのを感じていました。
ある時、鳥に言いました。
「鳥さん、鳥さん、大丈夫?
羽が疲れているようだ
少し花を運ぶのをやめて
枝で休んでいかないかい。」
「いいえ、いいのよ、大丈夫
私はまだまだ空を越え……」
飛び上がったその瞬間、
鳥はふらふらと落ちてしまいました。
「ああ、本当にごめんなさい
もうあまり遠くに飛べないわ
最後に可憐な白い花
ここへ植えてもいいかしら。」
木は枝で風を起こし、
鳥をそっと運んであげました。
「ゆっくりお休み、鳥さんよ
僕はここに立ちながら
花咲く日々を待っている
心と体を癒したら
また僕のもとへ帰っておいで。」
鳥の目には、一筋の涙が光っていました。
少し休んで、鳥は自分の故郷へ帰っていきました。
木は少し寂しくなりました。
蝶々さんがやってきても、
見せてあげる花がありません。
それでも蝶々は変わらずに、
傷だらけの枝にキスをして、
優しく励ましてくれました。
ある春の日のことです。
一羽の元気な渡り鳥が、
桜の国からやって来ました。
木は顔をあげて言いました。
「やあ、愉快な渡り鳥よ
枝で休んでいっておくれ。」
渡り鳥は答えました。
「まあ、なんと素敵な木さん、
私も花を運ぶ鳥、
ここに止まってもいいかしら。」
再び、花を咲かせる日々が
ここから始まったのです。
渡り鳥が運ぶ花は、
彩りに満ちていました。
木はすっかり華やかになりました。
「渡り鳥よ、素敵な花を
運んでくれてありがとう。
また新しい香りを吸って
僕も楽しみでいっぱいだ。」
「それはとっても光栄よ。
私は遠い海の向こう、
あなたの花を眺めていた。
素敵な木さんにこうして出会え
花咲かすことが出来たのだから。」
木はもう一度輝きを取り戻し、
前よりも遠くへ枝を伸ばしました。
渡り鳥も、見たことのない花を、
踊るようにたくさん運んで来ました。
「これは桜という花よ。
私の故郷に綺麗に咲くの。
あなたにもきっと似合うはず。
綺麗な桜を咲かせましょう。」
そう言うと渡り鳥は、
愛らしい桃色の花びらを、
枝にたくさん置きました。
「とっても美しい花だ。
風に乗せて遠くへ飛ばせたら
なんと素晴らしいことだろう。」
そう言うと木は力を出して、
枝をいっぱいに振りました。
「そうよ、世界中の人に
私たちの花を届けましょう。」
何日も渡り鳥と木は、
桜をたくさん咲かせるために
エネルギーを注いでいきました。
そして、次の春がやって来た時。
桜は満開になっていました。
花びらが風に舞い、
辺り一面が桃色に染まりました。
「見て見て!なんて綺麗でしょう!
世界のみんなが見ているわ!
たくさん頑張った日々が
こうして報われたのね。」
「君が桜を運んで来て
僕はもう一度綺麗になれた。
あの時、鳥さんと見た夢の
続きを君と追いかけた。
こんなに美しい日を迎え
感謝いっぱいだ、渡り鳥よ」
それでも、桜という花は、
すぐに輝かしい日を終えてしまうのです。
それと共に、渡り鳥も、
故郷へ帰る日がやって来ました。
「そろそろ行かなきゃならないの。
別れはとっても辛いけど
あなたのことは忘れない。
素敵な木さん、さようなら
華やかな夢をありがとう。」
「もう行ってしまうのかい。
僕はここを動けないから
鳥たちと共には行けないんだ。
またここでその日を待ちながら
心と体を休めるよ。
来てくれてありがとう、渡り鳥よ
君との日々は宝物だ。」
幾日も、幾日も、
木は花をくれる鳥を待っていました。
愛する蝶々と語らいながらも、
木には花が必要だったのです。
時々、幼い小鳥が、
花の種をくわえてやって来ました。
木は優しく呼びかけて、
種の植え方を教えました。
「こうしているのも悪くはない。
世界でたくさんの鳥たちが
世界でたくさんの木たちが
花咲かせるのを待っている。
僕はその素晴らしさを
彼ら彼女らに伝えたい。
ああ、でもどうやって
それを教えて回ろうか」
木はため息をつきました。
何気に遠くの空を見ると、
なんと、親しいあの鳥が、
木のもとへ帰って来たのです!
「わあ、久しぶりだ、鳥さんよ!
また会いに来てくれたのかい。」
「そうよ、私はこれまで
たくさんの木や鳥に会い
花の素晴らしさを教えたわ。
あなたのことが懐かしい。」
木も鳥も、願いは同じでした。
2人は声をそろえて言いました。
「花咲く日々は夢のよう
2人で共に咲かせよう
世界の鳥と木々たちが
喜びに包まれますように」
ある晩、鳥は言いました。
「どんな花がいいかしら。
少し世界を見てくるわ。
いろんな花を知ったなら
より美しくなれるもの。」
「行っておいでよ、鳥さんよ
僕もそれが楽しみだ。
見つけたら、ぜひ見せておくれ。
ここできっと待っているから。」
鳥は優しく羽ばたいて
夜の空を飛びました。
たった3日後のことでした。
ひどい嵐がありました。
木は、はっと目を覚まします。
すると、大きな稲妻が、
木を目がけて落ちました。
木は自分が貫かれ、
芯が割れるのを感じました。
雨がさっと上がりました。
ゆっくり、ゆっくり、ゆっくりと、
木は静かに倒れました。
花びらがひとつ、落ちました。
親しい鳥と、渡り鳥と、蝶々は、
それぞれの故郷で、この音を聞きました。
涙が止まりませんでした。
木は空を見上げました。
星がいっぱいに広がります。
枝をそこまで伸ばすと、
天の川に触れることが出来ました。
「僕がここで芽を出した
あの時とおんなじ空なんだ。
どこにいるのかわからない
でもきっと一人じゃないんだ。
鳥さんも、渡り鳥も、蝶々も
星のようなきらめく声で
きっとどこかで笑っている。」
木は目を瞑りました。
星がひとつ、流れました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます