第64話 第2回イベント2


 目が覚めると、こんな表現は可笑しいのかもしれないが、気がついたらまた洞窟の中にいた。

 相変わらずの薄暗さが、少しだけ不安を煽ってくる。


 弾が当たった右のほっぺたを気にしながら現状を確認していく。

 HPが回復している事から、また新しいダンジョンのレアモンスターとして復活したのだろう。

 当たり前だが、体に不自由はないし、痛みも感じない。


 参加プレイヤーが100人になりました

 これより転送を開始します


 1度聞いたアナウンスが脳内に響き渡ると、すぐ真横に光が発生する。


 淡い輝きはだんだんと人の形を作り始めた。 

 様々な色の光が作り出すその現象は神秘的すぎて、ずっと眺めていたいとさえ思ってしまう。


 ダメだ……


 前回は好奇心を抑えきれなくて負けたんだ。

 しかもプレイヤーがいるかどうか確認することもなく、不用意に部屋に入ってしまった。

 その結果、不意打ちを喰らい、囲まれて、切り札を使って、動けない時に倒されてしまった。


 頭の中で反省を繰り返す。

 そのおかげか、なんとか自制心が働いてくれる。

 俺は後ろ髪を引かれる思いで、人間が現れる前に部屋から逃げることに成功した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 その後も第2回イベントは順調に進む。


 プレイヤーの行動やスキル、魔法に慣れてきた俺は10回に1回は退場せずに生き延びれる様に成長した。


 また、罠の仕掛けられていそうな場所、種類等もある程度把握することが出来た。

 俺の考えが正しければ、洞窟に設置されている罠のほとんどは足止め系で、速度が高いほど拘束時間は長くなる。

 あくまで予想だが、タンク役や、攻撃重視型のプレイヤーが不利にならない様に運営が考慮して出した案なのだろう。



 そして3日目の朝、自称親友から送られてきた時間通りにログインした俺はダンジョンではなく、いつもの会議室にいた。


「急に呼び出してしまってすまない」


 椅子に座りながら気遣ってくれた鈴木さんに大丈夫ですと言葉を返す。


 現在、会議室にいるのは俺を含めて5人。

 左から新、シャル、リーダー、遠藤さんの順番で席についている。


「今日は静ちゃんと学くんは居ないんですか?」


「2人はお客様からの問い合わせに対応して貰ってるっす」


 妖精の質問に白衣の男が答える。

 基本的に学の仕事はモンスター関連だが、対人関係の大きな問題もあいつに一任されているらしい。


 今日集まった理由もその問い合わせに関係しているのだろうか?


「今日は1つ、みんなと共有しておきたい事がある」


 黒髪を揺らしながら1人1人と目を合わせるリーダー。

 最後に顔を向けられた新が立ち上がると、


「1件大きなクレームが入ったっす」


 まるメガネの位置を直しながら苦虫を噛み潰したような顔で話しだす。


 クレームの内容はプレイヤー間のいざこざで、今回のイベントダンジョンで同じ人間にレアモンスターを何度も横取りされたらしい。


 今回のイベントはプレイヤー同士の競争だ。

 10体しか居ない魔物を他の人よりも早く見つけて倒すのが目的であり、運営は横取りも邪魔も禁止していない。


 勿論、その旨はイベントの詳細に書いてあるし、ダンジョンに参加する前の警告文にも1wワールドも獲得出来ずに終わる可能性が高いと表示される。


 とはいえ、人の感情はそんなに簡単では無い。

 なので運営側もある程度の文句が出ることは予想していたし、実際に八つ当たりの様なメールは少なからず届いていた。  


 どうして今回の事が大きくなってしまったのか、それは問い合わせをしてきた人が結構有名な配信者だった事、が大きな理由だろう。


 その時の動画が配信されていて、すでにかなりの再生数を叩き出している。

 その続きとして運営への問い合わせや、返答等の動画も次々に載せていくと宣言していた。


 会議室で問題の動画を再生、みんなで確認する。


 1度目の横取り、最初に配信者が魔物を見つけて攻撃、スライムのHPが1になった瞬間に後ろから火の球が飛んできて魔物にヒット。

 配信者は動画を撮っているからか、大袈裟に悔しがる。

 それでもゲームだから仕方ないと言いながら先に進んでいく姿はとても好感を持てた。

 この段階では、まだ怒っているような感じは見えない。


 2度目の横取り、内容はさっきと全く同じだった。

 今度は我慢出来なかったのか、トドメだけを奪われた配信者が杖を持った男に詰め寄る。


 話している間の映像はカットされていたため、会話の内容はわからないが、少し揉めたのだろう。

 息が少し乱れて、たびたび悪態が漏れていた。


 その直後からカメラが後ろを映しだす。

 さっきの杖を持った男が一定の距離を保ちながら歩いている。


 配信者の舌打ちが増えてきた。

 ここまで露骨に付いてこられたら仕方ないとも思ってしまう……


 そして3度目、とうとう我慢出来なくなったのだろう、後ろを振り返り男に詰め寄る。

 しかし更に後ろにスライムを見つけてしまった配信者は男を素通りして魔物に向かう。


 男への対策として、あらかじめ沢山の魔法を展開してからスライムに攻撃する。

 これなら後ろから横取りしようと魔法を放っても、先に攻撃出来るのは配信者の方だろう。


 モンスターのHPが1になる。


 その瞬間、スライムと配信者の間に土の壁が現れた。


 新の説明だとこれは杖の男が使った魔法らしい。


 展開していた魔法は土の壁に当たると消滅していく。


 壁を壊してからスライムに攻撃しようとするも、そこで全ての魔物が倒されたと、終了のアナウンスが流れてしまう。


 どうやらさっきのスライムが最後の1匹で、邪魔をされている間に他のプレイヤーに倒されてしまったらしい。


 動画は、配信者が光に包まれる所までで終わっていた。



 再生終了してから少し経つが、誰も喋らない……


 シャルは相変わらずの無表情だが、リーダーを含め残り全員が複雑な表情を浮かべている。


 確かに粘着されていた……


 話を聞いた時はゲームなんだし、横取り位でブーブー言ってんじゃねぇよ、と思っていた。


 でも流石にこれは腹が立つ。

 特に最後の土の壁による妨害はただの嫌がらせだろう。


「これーー


 誰かが沈黙を破ろうとした瞬間、会議室に光が発生する。

 それはだんだん人の形を作り出していき、メガネをかけた秘書のような女性が現れる。


「静? どうしたんだい?」


 リーダーの問いに答えが返ってくる。


「クレームの人に呼ばれて……えっと、今から学が生配信で話し合いをすることに……」


 その口調はいつもの彼女らしくなく、途切れ途切れでとても弱々しい声だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る