第63話 第2回イベント1


 継続的に聞こえる叫び声が、俺の好奇心を刺激してくる。

 音の発生源に行きたくなる心を頑張って抑えようとするが、銀色の身体は勝手に進んでしまう。


 頭ではわかってる、こんな場所で叫びをあげるのはプレイヤーしかいないと。

 それに近付くのは倒されるリスクが上がるだけだと。


 身体の制御を取り戻そうと、それらしい理由を考えてみるも、全て好奇心の前では役に立たなかったらしい。

 気付いたら部屋を横断していた。


 この空間に来た時とは反対の位置にある出口。

 さっきよりも、鮮明に、大きく、声が聞こえる。

 薄暗いせいで見通す事は出来ないが、どうやら叫び声の発生源はこの先で間違いないみたいだ。


 人が2人通れるかどうかの一本道を、慎重に、恐る恐る前に進む。


 なんだろう? 心霊スポットや、お化け屋敷に来ているみたいな感覚。

 鼓膜が揺れる度に心臓が大きく跳ねるが、それ以上に知りたい欲求がどんどん溢れてくる。


 そして見つける曲がり角。

 聞こえる声は近い。


 壁に体を隠すように、少しずつ先を覗き込む。


 ゆっくりとズレていく視界から入ってくるのは花火のような光景だった。


 まず最初に目に入ったのは鋭く光る青い稲妻、薄暗い洞窟の中で余計に目立つそれが縦横無尽に暴れまわっている。


 稲妻の光に慣れると、その中央に手を広げて立っている女の人が見えてきた。

 痺れているのか、遠目からでもプルプル震えているのがよくわかる。


 お団子頭の上には、カウントダウンタイマーのように大きく数字が表示されていて、49、48、47、と今もどんどん減り続けていた。


『プップップル』

『プププール』

『ププ、プギャー』


 さらに慣れて来た目に入って来たのは、大の字で痙攣している女性の周りを、銀色のスライムが楽しそうに跳ねている景色だった。


「このっ、クソスライムガァァ」


 叫び声の正体はこの人の怒鳴り声だったらしい。


 それを聞いたスライムは、馬鹿にしたように笑いながら周囲を跳ねる、そしてまた女性が怒るの繰り返し。


 動けないプレイヤーに対して、あえて頭を踏んだり、腕に乗ったり、脚を蹴ったりしている魔物が俺に気付く。


 感情の無いはずの銀色スライムはピースサインをするかの様に体をV字に変形させた。


「うわっ、レアモンスターが2匹も目の前にいるのに!」


 それで気付いたのか、シビレ罠みたいな物に引っ掛かったであろう女性も、こっちを見ると心底悔しそうに言葉を零す。


 俺は何も見なかった……

 そう自分に言い聞かせて道を引き返した。


 たとえあのスライムに自称親友の面影をみても気にしたら負けだ。


 狩るはずのモンスターに馬鹿にされるプレイヤー。

 一体どんな気持ちになるのだろう?


 いたたまれない気持ちで部屋まで戻る。

 中に入った瞬間に異変を感じるが、どうやら遅かったらしい。


 空中に浮く自分の体が、別の方向に吹き飛んでいく。

 壁にぶつかってから地面に落ちた俺は、ようやく攻撃を喰らってしまったと認識する事が出来た。


 HP4/6


 大丈夫、まだ2発喰らっただけ。


 素早く周囲を確認すると、3人のプレイヤーに囲まれている。


 俺が出てきた道の前には格闘家っぽいのが1人。

 さっきのは、こいつにやられたらしい。


 反対側の出口を塞ぐように盾を持ったプレイヤーと、杖を持ったプレイヤーが立っている。


「相性最高かよ」


 杖を持った男が何か魔法を唱えた。

 迫ってくるのは無数の弾丸。


 やばい、頭を切り替えろ。


 格闘家のせいで引き返して逃げる事は難しい。

 ならば向かうはもう片方の逃げ道。

 魔法の弾を避けて、2人の間を突っ切るしか生き残る方法はない。


 使うなら、今でしょ。


 スーパーダッシュ


 選択肢は1つ、前に向かって全力疾走


 走り出す前に弾丸が2発かすった


 覚えているのはそこまで。


 今、壁に衝突している。


 残りHPが1になりました。

 脳内にイベント専用のアナウンスが流れる。


 あぁ、あまり使わない方が良いってこうゆう事か……

 スピード20倍、速度5000、全く制御できない。

 しかも壁にぶつかったのが理由か、あの速さで動いたのが理由か判断出来ないが、体力が1減ってしまった。


 これであと一撃受けたらゲームオーバーだ。


 変な音と共に壁から剥がれると、重力に従って地面に落ちていく。


 結局俺は、大地に触れる事が出来なかった。

 大きな発砲音と共に、ボーリング玉みたいな弾が飛んでくる。


 自由落下しているスライムに動く術はなく、ピンのように弾き飛ばされると同時に俺の視界は真っ白になっていった。

 

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