第62話 第2回イベント 開始


 3月20日23時59分

 真っ暗な部屋で、俺は横になりながら目を閉じた。


 視界に広がるのは、いつもなら癒されるはずの星の輝き。

 なのに反射的に攻撃が来た、と思ってしまった自分に少しショックを受ける。


 参加プレイヤーが100人になりました

 これより転送を開始します


 脳内に流れるアナウンスがイベントが始まった事を教えてくれる。

 俺がレアモンスターとして働く場所は'第2回イベント 上級 wワールドの洞窟'

 参加費10万w、最低報酬50万wのハイリスク、ハイリターンなダンジョンだ。

 操るアバターは銀色のスライム。


 転送された先は、訓練で何度も消滅させられた洞窟なので、ある程度の構造は把握している。

 しかも運良く十字路の真ん中に転送されたらしい。

 これなら4方向から囲まれない限り逃げる事が出来る。


 少し余裕が出来たので、ステータスを確認する事にした。

 シャルとの訓練で何度も見ているが、もしかしたら変わっている所があるかもしれない。


 ロスチャイスライム

 HP6/6

 攻撃0

 防御-

 速度250

 技術0

 魔力0

 スキル

 スーパーダッシュ


 名前だけ変わっていた……

 流石にはぐれたスライムは使えなかったみたいだ。


 防御は特殊、どんな攻撃を受けてもHPは1しか減らない。

 攻撃は0、魔物はプレイヤーにダメージを与えられない。

 どちらも初心者に優しい仕様。


 スーパーダッシュは1度だけ使えるスキルで、効果は2秒間だけ速度が20倍になる。

 ただ、高確率でHPが1減るのであまり使わない方が良いらしい。

 実際に使ったことは無いが、新に忠告された事は記憶に残っていた。


「おっ、あれレアモンじゃね?」


 後ろから声が聞こえる。


「運が良いな、とりあえず元は取れそうだぜ」


 振り返るとパーティだろうか? 2人組の男が近付いてくるのが見えた。


 今回のイベントでは何人かで組んでの参加が可能だ。

 人数が多いほどレアモンスターを見つけやすくなったり、攻撃を当てやすくなるのは間違い無いだろう。


 勿論、全員分の参加費はかかるし、モンスターを倒しても取り分が減ってしまうので、メリットばかり有るわけではないが……


「楽に稼げて良いな」


 身長の高い方の男が弓を取り出して矢を放つ、しかし今の俺に、この程度の攻撃が届くはずもない。

 なぜなら、シャルの使う白い矢はもっと速くて、もっと多かったからだ。


 甘いな

『プププ』


 おかしい……攻撃を躱しながら口に出した言葉が、思っていたのと違う。


「テメッ、舐めた笑い方しやがって!」


 笑われた事に腹が立ったのか、矢がたくさん飛んでくる。


 違う、勘違いだ

『プププ、プギャー』


 訂正しようと、口に出した声はなぜか相手を煽ってしまう。


「イラつくやつだな」


 とうとう小さい方も青筋を浮かべて走ってくる。


 なぜだろう? 頭の中に緑の妖精がお腹を抱えて転がっている映像が浮かんできた……


 罪悪感はあるが、運営の資金と俺の歩合給のためにも、簡単に捕まることは出来ない。


 俺は怒鳴りながら攻撃してくる2人を尻目に全力で走り出す。


 ちなみに運営操作のレアモンスターが倒されると、最高報酬の250万wが報酬として奪われてしまう。


 現金にして25万だ。

 俺の基本給よりも多い金額が、たった1匹のモンスターを倒しただけで発生するのだ。


 そんなこと許せるわけがない。

 正直に、ズルい……


 逆に俺達は逃げ切ってしまえば歩合給で1万円貰える。

 リーダーからその事を聞いた新が、


「俺の時代っす! チョコ食べ放題っす! リーダー神っす! この仕事やってて良かったっす!」


 と、ずっと叫んでいたのを思い出す。


 そんな事を考えている内に一本道が終わり、大きな部屋のような場所に出た。


 後ろを振り返っても2人組の姿は見えない。

 どうやら完全に逃げ切る事が出来たみたいだ。


 少しゆっくりしようと、近くにあった窪みに身を隠してみる。

 これがなかなか快適だった。

 ゲームなので、匂いも、温度も感じる事は出来ないが、なんとなく落ち着く気がする。


 小さな身体がすっぽりとハマるその場所を堪能していると、不意に誰かの叫び声が聞こえて来た。

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