第56話 第1回イベント後半戦9
ぼんやりした意識の中で、ゆっくりと目蓋を開いていく。
肌色のカーテンを通り越してくる太陽の光を、眩しすぎると思いながら、大きく体を伸ばす。
視界に入る時計には15 sun 13:42の文字列。
どうやら設定したアラームの時間よりも早く起きてしまったらしい。
特に寝不足ってわけでも無いので問題はないが……
それに久しぶりの自然な起床はとても気持ちよかった。
使わなかった目覚ましを解除しようと携帯を開くとメールが1件届いている事に気付く。
差出人はわからないが多分学だろう。
'ヤッホー、イベントお疲れ様!
最終日の動きは知恵ちゃんから聞いたよー
色々大変だと思うけど頑張ってね!
あとあと、第2回イベントの方針が決まったからお知らせです。
次回はレアモンスターとしてプレイして貰うからねー!
ちなみに15日が給料日だから明日の9時までには口座にお金入ってると思うよ!
ちゃんとお母さんにゲーム代返すんだよ!
じゃあまた終わったら話そうねー '
うん、間違いなく学だ。
もう次回の役割が決定したみたいだ。
それに明日給料が貰えるらしく、少しテンションが上がる。
とはいえ、2月は全然働いてないのであまり期待はしないようにしよう。
ゲーム代くらいは返せるだろうか……
そうこうしている内に約束の時間が迫ってくる。
長かったイベントの最終決戦だ。
逸る気持ちを抑えながらマシンを起動させると、視界が流れ星で埋め尽くされる。
「準備はいいかい?」
俺がログインした事に気付いたのだろうか?
黒い魔王が手をグーにして突き出してくる。
眠気は無い、集中力も有る、やる気は最高潮。
「完璧です」
笑いながら拳を合わせる。
「行こうか」
赤と黒、2人の魔王が拠点を目指して歩き始める。
道中確認したのは魔王軍の現状と作戦。
やはり土日は参加者が多いのか、既に魔王以外のモンスターは全滅していた。
作戦は変わりなし、理想は極広を決めて拠点に侵入する、無理だったら各自でプレイヤーを出来るだけ倒す。
鈴木さんの提案でボスらしく真正面から歩いて行く事にした。
作戦開始1分前、ゆっくりと拠点の入り口に向かい始める。
「魔王が来たぞー」
俺達の存在に気付いた見張りのプレイヤーが大声を上げると、瞬く間に情報が伝わり、人が陣を作っていく。
作戦開始30秒前、最前列に居るプレイヤーが様々な盾を構えているのを確認する。
ここで1つ読み間違いが発生。
対複数人補正を警戒して100人程度のレイド戦を展開されると思ったが、敵として確認出来る相手の数は約2000人。
こちらにとっては嬉しい誤算だが、せっかく用意したアイテムが1つ無駄になってしまった。
こっちのステータスは全て20倍プラスされる。
このままでは極広を使えないので更に残しておいたステータスポイント18を全て魔力に振り分ける。
佐藤 裕二 レベル31
魔王
炎の魔剣 攻撃20
赤の鎧 防御60 速度-20
HP2268/108
攻撃45+20+900
防御45+60+900
速度10+50-30+200
技術10+200
魔力40+800
火球 火球速(10) 火球極広(1000)
スキル
体術(5)
全武器(1)
魔法(1)
対複数人補正(200)
魔王の心得ⅳ
炎の加護
これならいける、負ける要素がない。
でもどうしても違和感を覚えてしまう。
確かに戦闘に参加しなければ撃破の報酬は貰えないが……
鈴木さんも同じ考えなのだろう。
時間もあまり有るわけではないし、理由がわからない以上迷っても仕方ない。
「火球 極広」
炎の加護の効果で魔力500で発動出来るが、全ての魔力を込める。
目の前に現れた火の球は圧縮されていき、動きが止まると同時に前方を覆い隠す程の巨大なレーザーになる。
赤い光線は盾を持ったプレイヤーを飲み込むと、その後ろに隠れていた人々にも影響を与えていく。
レベルが31→36になりました
HPが108→118になりました
ステータスポイントを15獲得しました
プレイヤーを630人倒しました
所持金を合計で4.246.901w手に入れました
脳内にアナウンスが流れる。
倒したプレイヤーの数に驚いたが、それにしてはレベルの上がりが少な過ぎるか?
奪えた所持金も1人平均6000〜7000……
まぁいい、考えるのは後だ
目の前には爽やかな草原が広がっている。
フィールドも拠点も壊せないので焼け野原にはなっていないが、入り口まで邪魔をする者はいなくなった。
「今がチャンスだ」
黒の魔王と共に誰もいなくなった草原を走り出す。
「作戦通りです、全員プランBを実行」
聞き覚えのある配信者の声。
拠点から大きな盾を持ったプレイヤーがぞろぞろと出てくる。
さらに弓と杖を持った人間が2人の魔王を囲んでいく。
「裕二くん、こっちも作戦を遂行しよう」
その言葉に頷く事で返事をする。
やる事は変わらない。
多くの人間を倒して隙あれば拠点に侵入してやる。
赤と黒の魔王は包囲を突破する為に別々の方向に走り出す。
「うわっ、こっちきた」
わざわざ盾持ちに突っ込んでやる必要はない。
弓を持つ青年が慌てて反応するが、今の俺の速度には対応出来ないだろう。
炎の魔剣で一閃、それだけで相手は消滅する。
同時に俺の体が赤く光った。
脳内に2つのアナウンスが流れる。
ヒロを倒しました
所持金5280wを手に入れました
聖なる石(赤)をぶつけられました
10分間攻撃が10下がります
「ナイスだぁ、ぶつけまくれ」
包囲を抜けると黄金の鎧に身を包んだ勇者が立っているのを確認、槍の攻撃が来る前に魔剣で首を狙う。
「今の魔王に勝てるとは思ってねぇよ」
義晴は抵抗せずに右手を前に突き出す。
俺の肩に手が触れるのと勇者が消滅するのは同じタイミングだった。
義晴を倒しました
所持金16231wを手に入れました
聖なる石(青)をぶつけられました
10分間速度が30下がります
体が青く輝くと共に聞こえるアナウンス、
今の戦闘の最中にまた囲まれてしまう……
その後も1人倒すたびに石をぶつけられる。
脳内にはうるさい位にアナウンスが響く。
クソッ、埒が明かない
最初の選択をミスった、盾を無理やりにでも突破して拠点に侵入するべきだった。
いや、今からでも遅くない。
弓や杖を持つ相手を斬りながら拠点に向かうことにする。
「貴方ならそうすると思いましたよ」
武器の刀ではなく、両手に大きな石を持つ配信者リン
「いくで兄貴、正念場や」
赤い髪の毛に身軽な服装の男
「あぁ、ランキング上位の力見せてやろう」
真ん中に立つ指揮棒を持ったメガネ
盾の軍団の前に3人のプレイヤーが立ち塞がる。
邪魔だが、足を止めると石が飛んでくる……
言葉から察するに全員高レベルなのだろう。
まだ速度は130残っている、ここで時間を無駄にするわけにはいかない。
急いで方向展開、赤毛の男を回り込もうとするが
「わいのスピードを甘くみたな」
目の前に現れると同時に聖なる石をぶつけられた。
こいつ恐ろしく速い……
「今です」
リンの声が響くと、周りから一斉に石が飛んでくる。
距離がある為。狙いは荒いが数発は当たってしまう。
「リベンジする機会を待ってました」
白く輝く侍が石を両手に突進してくる。
「無手の構え 刹せつ」
2つの拳が目の前に迫る。
もう躱せない……
せめて炎の魔剣を突き出して抵抗する。
「今回は私の勝ちです」
目の前に表示されるリンのステータスは
HP1/101
神聖なる石(青)をぶつけられました
10分間速度が50下がります
神聖なる石(青)をぶつけられました
10分間速度が50下がります
「炎の魔王の速度は1になりました! プランCです! 回復する前に魔力を削ってください」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます