第57話 第1回イベント後半戦10


 やってくれたな……

 光となって消滅していく配信者を見ながら悪態を吐く。 

 残りの体力を削る前にもう1つ石をぶつけられた。


 状況は最悪だ、速度が無くなったせいですぐに取り囲まれてしまうし、石を避ける事が難しくなってしまった。


 逆に考えよう

 どうせ動けないなら仕方ない……

 1度立ち止まり魔剣と鎧を外してナックルを装着する。

 連続で鳴り響くアナウンスがその間にかなりの石をぶつけられた事を知らせてくれる。


 これはイジメじゃないか?


 速度が50増えた俺は、石を当てられながらも周りのプレイヤーを消滅させて包囲を抜け出す事に成功した。


 少し余裕が出来たので色々と確認する。


 まずはステータス、魔力が1、速度は51、攻撃は735、他の数値は変化無しだ。

 石の効果が10分で切れる事を考えれば、まだ勝負は出来るだろう。


 次にもう1人の魔王の場所を見る。

 同じ様に包囲されながら、金の勇者、さっき真ん中に立っていたメガネ、天使の様な女と戦っていた。

 彼女も苦戦しているのだろう、スピードがかなり遅くなっている。


 今がチャンスか? 

 俺はもう1度盾を構える集団に向かっていくが、思ったよりも速度が出ない。


「炎の魔王が来たぞ! バフを頼む!」


 先頭の大きな盾持ちが叫ぶ。

 彼等全員が様々な色に輝いていく光景は意外と綺麗だった。


 ようやく1人目に辿り着く。

 まだ攻撃は下げられていない、ならば押しきれる。


 盾にナックルを当てるも、相手は後ろに下がるだけで消滅はしない。

 すぐに緑の光に包まれるとHPが回復していく。

 わかってはいたが思ってしまう。

 プレイヤーずるい……


 連打する、ひたすらに連打する。

 回復が追いつかない様に、石を投げられる前に。

 盾がない所を殴れば一撃で倒す事も出来る。



「プランDです」


 今日だけで、何回も聞いた声。

 さっき倒したはずの相手はもう復活したらしい。

 倒した人間と同じ数が拠点から出てくる。


「勇者の皆よ、今こそ決戦の時なり、我に続けー」


 ルシファーが盾を持って突進してくる。

 ん、盾? 

 突進してくる勇者の軍勢は様々な盾を持っていた。


 面倒な……


 魔王の心得があるとはいえ、盾に防がれては一撃で消滅させる事は出来ない。

 そして時間を掛けてしまえば石をぶつけられ、さっき倒した本物の盾役達が帰ってきてしまう。


 クソッ、本日何回目の悪態だろうか。

 倒しても倒してもキリがない。

 ステータスは回復した瞬間に減っていく。

 これは無理ゲーだろ、後で学に文句を言おう。


 色々な意味で輝きながら勇者を倒していくが、間に合わなかったらしい。

 拠点からは大きな盾を持ったプレイヤーがどんどん溢れてくる。


 不意に後ろで爆音が発生。


「残り30分を切ってしまった、勝負を仕掛けよう」


 横に並ぶのはもう1人の魔王。 

 囲まれていたプレイヤーは全員倒したみたいだ。


「やっぱバケモンやな」


 噂をすれば赤毛の男が出てくる。


「後23分36秒だ、防ぎ切ろう」


 隣にはメガネの兄貴。


「石のストックはまだまだ余裕があります、無駄遣いしても問題ないでしょう」


 侍が大きな石を2人に渡す。


「あの3人をなんとか出来るかい?」


 凛とした声が聞こえる。


「任せてください」


 思考よりも先に言葉が出てしまった。

 口に出してしまった以上はやるしか無い。


 さて、どうするか……

 相手の性格と特徴を思い出せ。


「メガネの後ろを通ってください」


 俺はそう伝えるとリンに向かって走り出す。

 倒す事を目的としていない侍はもう1度石を当てにくるだろう。


 右手をメガネに向ける、今までの戦闘で結構レベルが上がっているはずだ……

 視線は向けずに、左手だけでステータスポイントを魔力に注ぎ込む。


 操作が終わった瞬間にそのまま突きの動作に入る。

 そしてナックルが侍のお腹に突き刺さり、俺の両肩には石が触れる。

 脳内にはプレイヤー撃破とステータスダウンのアナウンスが鳴り響く。


 その隙を狙ったのだろう、背中に衝撃がくる。

 振り返ると赤毛が手を前に出していた。

 相変わらずの超スピード。


「火球」


 量はわからないが、全ての魔力を込めて放つ。


「やはり、リンの想像通りだったね」


 言葉と同時に指揮棒を振るう。

 俺の放った火球はどんどん小さくなり消滅した。


「君たち2人はプレイヤーと同じ設定な


 メガネは言い切れないまま光となって退場する。

 その近くには黒の魔王。


「最高の仕事だったよ」


 振り上げた剣は黒く輝いていた。

 天まで届くかの様な黒い光の線に全員の視線が集まる。


「魔法剣 極」


 振り下ろされる魔王の剣。

 同じ軌道で黒い光が地上に近付いていく。

 そして剣先が地面に触れた。


 視界が真っ黒に染まる。

 すこし遅れて凄まじい音が鼓膜を揺らす。


 目が慣れてきた……


 鈴木さんが走っている


 拠点の入り口までに遮るものは何もない


 赤毛の男が慌てて戻ろうとするのがわかった


 空中で何かが輝く


 魔王が拠点に入るまで残り数メートル


 黒の魔王が数秒硬直した


 良く見ると足に矢の様なものが刺さっている


 あれは、1度不意打ちで喰らった矢とそっくりだ……


「流石ってところかぁ」


 その数秒は致命的だった。

 金の勇者を筆頭に盾を持った集団が拠点から出てくる。


「いい仕事するやないか」


 赤毛の男がこっちに戻ってくる。


 まだ時間はある!


 石に当たりながらも最短距離で拠点に向かう。

 邪魔する奴は殴って、蹴って消滅させる。


 拠点の入り口でも沢山の光が発生しては天に登っていく。


 鈴木さんも全力で戦っているはず。

 まだ負けてない。


 盾を持った敵を倒して進む。

 勇者を光に変えて前に行く。


 入り口まで後5メートルくらいまで来た。

 ゴールまで後何人倒せばいいんだ……



「チェックメイト」



 不意に聞こえた誰かの声。

 体が光に包まれると、視界がホワイトアウトしていく。

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