第51話 第1回イベント後半戦4
振り下ろされた剣を躱しながら懐に潜り込む。
目の前にはガラ空きになった緑色の脇腹、そこに指につけられたナックルが上手く当たるように左の拳を突き出す。
俺の両手に付いているメリケンサックとも呼ばれるこの武器は、指輪が大きくなったようなタイプで、先端が尖っている。
『流石兄貴っす』
肌に少し触れるか触れないかの距離で突きを止めた。
それを確認したリザードマンは両手を上げて降参する。
暇な時間をどうするか悩んだ結果、みんなと模擬戦をする事にした。
新しい武器の性能や、防具をつけた状態で、体の動きに慣れる為には実戦形式が1番だと思ったからだ。
最初はハミルトンと剣で試合をしていたのだが、流石に騎士と呼ばれているだけあって勝負にならなかった。
「次お願いできるか?」
もうどれだけ戦闘しただろうか?
3時を過ぎたあたりから時間を見るのを辞めた。
なるほど、確かに変わらない紫の景色は時間感覚を狂わせる。
どんどん楽しくなってきた俺は、もう1人の魔王に挑戦する事にした。
『私で良ければ相手になろう』
言葉と同時に黒い剣を抜く女性は、鈴木さんの思考パターンを組み込まれた強敵だ。
指に付けていたナックルを外し、刀身まで真っ赤な新しい相棒を装備する。
剣を前に構えた状態で黒の魔王は動かない、この隙に相手のステータスを表示する。
黒の魔王 レベル46
ブラックソード 攻撃40 魔力40
ダークアーマー 防御40
HP140
攻撃75+40
防御50+40
速度50
技術10
魔力10+40
火球 闇球 魔法剣(10)
スキル
剣術(4)
全武器(1)
魔法(1)
対複数人補正(人数×0.1)
前に見た時よりも強くなっている、もしも普通の戦闘ならば今の装備では、俺の攻撃は通らない可能性が高い。
だが、今は一撃寸止めで勝利だ。
何度も見た騎士の動きを真似する。
左足に力を入れて地面を蹴る、体勢は低く、剣を右下から相手の脇腹を目掛けて全力で振り抜く。
鈍い金属音と共に赤と黒、2つの剣が交わる。
鎧を装備した時の速度マイナスが地味に辛い……
特にナックルを使った後だと更に戦いづらくなる。
均衡は一瞬、力はボロ負け、押し切られた俺は後ろに吹き飛ばされる。
黒い剣が容赦なく追撃してくる、
全力で考えろ、迎撃しても反動が大きいのはこっちだ、ならば躱す事を最優先に隙を突くのが得策か?
『やるじゃないか』
必死に剣を避けていると彼女は小さく呟く。
その言葉に少しテンションが上がってしまう自分がいる。
このゲームは魔力や体力が自動回復しない為、使うのを辞めていたが、この機会を逃すのは勿体ないと思った。
「この模擬戦中、魔法の使用を許可する、即死でなければ相手にダメージを与える事も許可する」
アイテムは勿体無いが、死ななければ回復する手段はたくさんある。
なにより楽しくなってしまった。
どうせやるなら全力でやってみたい。
『了解したよ』
距離をとった女性の剣に黒いオーラが纏わり付く。
恐らく魔法剣、効果はわからないが警戒するに越したことはないだろう。
『覚悟はいいかい?』
どこかで聞いた言葉だ……
距離がある状態で黒い剣が振り下ろされた。
直後、三日月の形をした何かが飛んでくる、それを横に飛び込む形で回避に成功した。
立ち上がるまで待ってくれる筈もなく、彼女は走ってきた勢いのまま剣を振り下ろす。
転がりながら逃げる。
もっと格好良く戦えたらとも思うが、そんなスキルは持っていない。
追撃を阻止する為に最低限の魔力を込めて火球を3発放つ。
魔剣の効果で1の魔力で通常の2倍の威力が出てる筈だが、正面の球は軽く斬られて消滅、残りはどこかへ飛んでいった。
でも動きを止めることは出来た。
攻撃、防御、速度、全て負けている剣では分が悪すぎるので、急いでナックルに装備を切り替える。
これで速度だけは上回る事が出来た。
「なるほど、面白い」
鋭い視線と共に魔王が襲ってくる。
剣の軌道は左下からの斬り上げ。
躱してしまえば拳を当てることは容易だろう。
黒い斬撃をしゃがんで避ける、体勢は良くないが、1発お腹を殴るくらいの余裕はある。
「引き分けかな」
ルールの上では引き分けなのは間違いない。
左の拳は当たる寸前で止めていた。
そして俺の腰にも剣がふれている……
間違いなく避けたはずなのに……
もしも実際の戦闘ならば……
「さて、休憩ありがとう、次は君の番だよ」
優しい声で我に帰る。
いつの間にか鈴木さんが戻ってきたみたいだ。
「すいません、装備に慣れる為に模擬戦してました」
魔力とか体力が減っているかもしれない旨を伝えて魔力剤を渡す。
「あぁ、構わないよ、私も沢山持っている」
それに訓練は良い心掛けだ、と追加して魔王は笑う。
「じゃあ休憩貰います、ボタンいつでも押してください」
どうせ帰っても用事なんてない。
睡眠だけ取って早めに戻って来ようと決意した。
「ありがとう、その時はお願いするよ」
手を振ってくれる女性を見ながら俺の視界はいつもの暗闇の世界に変わっていく。
「じゃあ私も休憩頂きますね」
「あぁ、そういえば居たね」
「知恵ちゃん……」
目から流れる光と共に妖精もログアウトした。
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