第49話 第1回イベント後半戦2


「リーダーはどこで装備を手に入れたんですか?」


 視界に入る黒い鎧と黒い剣を見つめながら質問する。


「ん? 私の装備はダンジョンで拾ったものだが」


 肩に乗っている妖精を撫でながら黒髪の女性が答えてくれた。


「裕二さんの場合は聖剣が報酬でしたからね、イベント中はダンジョンに入る事が出来ないので、どうしましょうか……」


 どうやら遠藤さんの機嫌は良くなったらしい。

 さっきまで唇を尖らせていたのに、今は装備の事を真剣に考えてくれている。

 ついでに、本来なら手に入る筈だった高性能武器を思い出してしまう。


「あぁ、ハミルトン領地を特殊ルートでクリアしていたな、普通に攻略すれば暗闇の剣が報酬だったのに」


「あっ、そういえば、あそこは知恵ちゃんの担当地域でしたね」


「そうだね、力技じゃ突破出来ないように色々考えていたんだがな……」


 2人の会話でなんとなくわかってしまった……

 凄くもったいない事をした気がする。


「暗黒の剣欲しかった……」


 聖剣も欲しかったが、あの黒い剣もかなり強かった記憶がある。

 あぁ、もの凄く時間を戻したい……


「君なら何度でも攻略出来るだろう、それよりも高確率で装備を拾える場所がある」


 先頭を歩くリーダーが自信満々に宣言する。

 目の前には大きな池があった。

 紫に染まった水はどう考えても有害だろう。

 さっきまで遭遇することのなかったリザードマンが、そこかしこに歩いているのが確認できる。


 ハミルトンやベルゼブブを含め、イベント後半戦中は魔物が魔王の配下になる。

 3人で装備を探している間、特にプレイヤーも来ない筈なので、他のモンスターには待機を指示してある。

 注意点として、モンスター同士の攻撃はお互いにダメージを与える事が出来るので、集団戦闘には気を付けなければならない。


『魔王様、こんちゃーす』『兄貴、肩揉みやす』

『姉御、ちっす』『誰の肩に座っとんのや、どチビが』


 すれ違うたびにリザードマン達が挨拶をしてくれる。

 どこかズレた言葉使いに俺は初日のレベ上げを思い出した……


「ここに装備があるんですか?」


「リザードマンには、フィールドに落ちているアイテムを集める、って特性があるんだ、

元々魔物が持っているアイテムや装備は無理だが、彼等が拾った物なら私達も貰うことが出来る」


 もちろんプレイヤーも同様に、と付け加えて鈴木さんが教えてくれる。

 これで初日の謎が解けた。

 俺が奪ったシルバーソードはあのリザードマンがどこかで拾った物だったのだろう。


「なるほど、ここはリザードマンの巣、ですか」


 確信を持って言葉に出す。


「その通りだよ、ここは 'リザードマンの池' 捻りのない名前なのは触れないでくれると嬉しい

本当なら池に潜らないとアイテムをゲット出来ないのだが、今は言う事を聞いて貰える権利があるからな」


 前を向いている彼女の表情は見えない。

 たまに思う、この人は怖いと。

 理由はわからない……

 普段は優しいし、他人に対しても良く考えてくれているし、一緒に居て安心感もある。

 だが、なぜかそう思ってしまう時があるのだ。


「やぁ、炎の魔王用に武器と防具が欲しいのだが」

『ヘイッ! 任せてくだせぇ!』


 黒の魔王のお願いに答えるのは、金色に輝く王冠を頭につけた、ひときわ大きなリザードマンだ。

 素早く返事をしたキングの名を持つ魔物は、部下に号令をかける。


『はやく最高級の物を持ってこいやぁ』


 言葉を聞くや否や、池の周りに居たリザードマン達は、我先にと大きな音をたてて池に潜っていく。


『『『お持ちしやした!』』』


 水飛沫と共に何かを持ったトカゲが何体も現れてはこっちに歩いてくる。


 気が付けば目の前には50を超える宝箱が積み重ねられた、その全てに武器か防具が入っているらしい。


『炎の魔王様、どんな物を御所望でしょうか?』


 集められた箱を満足した目で見ながらキングが聞いてくる。

 改めて聞かれると難しいな……

 それにゲーマーとしては全部の装備を詳細までしっかり調べてから選別したい。


「とりあえず武器を全部見せてくれないか?」


 この際、時間はかかってしまっても良い、全て見てから決めよう。

 なんか、ガチャみたいで楽しくなってきた。


『これっす』『これもっす』『ディっす』


 武器を持ったトカゲが1列に並ぶ。

 1番前に居る奴が持っているのは弓だった。


 水神の弓

 技術40 魔力40


 名前が強すぎる……

 恐らくかなりのレアアイテムだろうが、弓を扱うには矢が必要になる。

 それに俺は弓矢でダメージを出す為の技術を全く上げていない。


「保留」


 アイッ! と答えて弓を持ったリザードマンが俺の後ろで待機する。

 なぜか、物凄いドヤ顔で他の仲間を見ていた。


『次は俺の番っす』


 今度はハンマーを持ったトカゲがやってくる。


 鉄の金槌

 攻撃50


 うん、多分弱い……

 他のハンマーを知ってるわけでは無いが、名前的に弱い。


「これは要らない」

『チキショーーー』


 返事を聞いたリザードマンが大声で叫びながらハンマーを池に投げる。

 飛んで行った武器は周囲に紫の雨を降らせながら沈んでいく。


『役立たずめぇ、引っ込んでろや』


 光の杖

 魔力30 魔法(1)


 これは悪くないのか?

 ステータス以外にもスキルが付いてくる装備もあるみたいだ。

 でも魔法より近接戦が好きなんだよなぁ


「要らない」

『クソガッーーー』


 光の速さで杖を投げる。

 鋭い音と共に水面を2、3回跳ねた後にやはり沈んでいく。


 この調子で全ての武器や防具を見ていく。

『なんやてーー』『くやちーー』『アァァーー』


 その後も多くの剣や盾が投げ捨てられた。

 選ばれなかった防具は池に蹴り飛ばされた。


 最終的に気になったのは4つ


 水神の弓

 技術40 魔法40


 炎の魔剣

 攻撃20 炎の加護(火球系統の魔法使用時、消費魔力半減)


 スピードナックル

 攻撃20 速度30


 赤の鎧

 防御60 速度-20


「この4つ貰っても良いか?」


 武器は1つしか装備出来ないが、アイテムポーチに入れておけばいつでも変更できる。

 鎧に関しては、これが1番マシだったのだ……

 他のはオンボロアーマーとか、防御100速度-100とか、使いこなせる気がしない物しかなかった。


『勿論でさぁ! 遠慮せずに持っていってくだせぇ』


 気前のいいキングの前で、貰った装備を付けてみる。


 佐藤 裕二 レベル27

 魔王

 炎の魔剣 攻撃20

 赤の鎧  防御60 速度-20

 HP102

 攻撃45+20

 防御45+60

 速度10+50-30

 技術10

 魔力22

 火球 火球速(10) 火球極広(1000)

 スキル

 体術(5)

 全武器(1)

 魔法(1)

 対複数人補正(人数×0.1)

 魔王の心得ⅳ

 炎の加護

 ステータスポイント6



 どのスタイルが強いのかわからない為、まだポイントは振り分けない。

 オレンジと赤が混じった様な剣と真っ赤な鎧を着た姿は結構、炎の魔王に相応しいのかもしれない。


 なんでだろう、防御が上がったくらいなのに凄く強くなれた気がする。

 あぁ、ワクワクしてきた

 早く戦闘で試してみたい。

 俺は無意識の内に、手に入れた剣で素振りをしていた。

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