第48話 第1回イベント後半戦1
ピロピロピロピロピー
ピロピロピロピロピー
部屋に着信音が鳴り響く。
そのせいで夢の中にいた俺は現実に引き戻される。
昔とは違い、ここ最近良く聞くようになった音だ。
画面には、なんとなく見覚えのある番号が表示されている。
「もしもし?」
「あっ! 裕くんおはよー」
「よく寝てるってわかったな」
「わかるよー、いつもそうじゃん!」
携帯越しに自称親友が笑う。
「今何時だ?」
起きたばかりだからか、まだ少しボーッとする。
「17時50分だよー、もうそろそろ始まるねー」
「そうだな、昨日の会議で仕様変更とかって決まったのか?」
「特に変更はないよー、後、イベント開始から4日間は暇だと思うよ!」
あくまで推測だけどねー、と続ける学。
55分に設定したアラームで携帯が震えた。
「まぁ、そうなるよな」
魔王軍のスタートは第五層からだ。
そもそも辿り着けるプレイヤーが少な過ぎる。
「向こうに行けば知恵ちゃんと真由ちゃんも居るから、イベント期間中の休み方とか色々聞いてねー」
そういえば休みの事を考えていなかった……
最高で3日間やり続けた事はあるが、それはちゃんと休憩を入れて体調を確認しながらの話だ。
前に聞いたイベントの説明で、鈴木さんと組む事は知っていたが、後半戦は遠藤さんも居るらしい。
「わかった」
「うん、じゃあ頑張ってね!」
通話が終わり、切り替わった画面には17時59分と表示されている。
そろそろ行くか
俺はゲームにログインする。
いつも通りに視界が暗くなっていく。
暗闇の世界に流れる星は相変わらず綺麗だ。
そして何秒かすると、今度は真っ白に染まっていく。
瞳を開けば、懐かしの紫の森が広がっていた。
「久しぶりだね、佐藤 裕二くん」
目の前に居たのは女神だった。
いや、実際に女神なんて見たことなんてない、だから、この感想はおかしいのかも知れない。
でも、そう思った。
髪と同じ色の鎧は首から足まで繋がっている。
後ろに背負っている剣を使うからか、肩から腕にかけては肌を守るものは何も無い。
「お久しぶりです」
なんとか返事をする事に成功した。
気を抜くと、彼女の黒に吸い込まれそうになる。
「前にも言ったが、私と君は同い年だ、敬語は必要ないよ」
黒い瞳が優しく見つめてくる。
「わかりました、頑張ってみます」
結局敬語で答えてしまったと思いながら、俺は周りを見回す。
そこには色々なモンスターが居た。
目に映る範囲だけでもスライム、リザードマン、ワニ、鳥、妖精、犬、猫、そして見覚えのある騎士とハエ。
「久しぶりだな、ハミルトン」
リーダーとは違う、黒い鎧を纏った因縁の相手、勝つ為とはいえ、1度逃げる選択肢を強いられた相手が居る。
戦闘の記憶を思い出してテンションが上がる。
「お久しぶりです、炎の魔王よ、我が剣、魔王軍の勝利の為に振るうとここに誓います」
期待していた答えは返ってこなかった。
それでも、片膝をついて、純白の剣を地面に刺しながら頭を下げる姿は、まるで本物の騎士みたいで……
心の底から格好良いと思ってしまった俺の、テンションをさらに上昇させる。
「覚えてないよ、君が戦ったハミルトンは既に消滅している」
まぁ、そうだろうな……
何度でも蘇るNPCのボス、高度なAIでも全ての記録を記憶しておく事は出来ないみたいだ。
「我が騎士よ、我の期待を裏切らぬ事だな」
不意に飛んできたハエが威厳に満ちた声を響かせる。
そしてリーダーが優しく剣を向けた。
「はいっ! 魔王の期待を裏切らない様に働くっす! 頑張るっす! 役に立つっす!」
「うん、こっちの方が落ち着くな」
笑顔で頷く女性を見て、女神じゃなくて魔王だったと思い出す。
「さて、お遊びもここまでにして本題に入ろうか」
「お遊びで剣を向けられたっすか? いじめっすか? 嫌がらせっすか?」
涙目の魔王を無視して、リーダーの手が空中で動き、縦長のリストが表示される。
'黒の魔王0/2 炎の魔王0/2 ベルゼブブ0/2 騎士ハミルトン0/2
キングスライム0/5 スーパーリザードマン0/5…… '
そこには名前と数字が書かれていた。
少し名前が変わっている気がする……
「これはプレイヤーも見れる情報だよ、名前の横の数字が倒された回数と上限を示している」
これは簡単に理解できた。
つまり、俺たちは1回しか負けられない。
黒の魔王と炎の魔王を2回ずつ倒す事はプレイヤー側の勝利条件の1つだ。
このリストの数字を全てカンストさせる事が出来た時点で防衛側の勝利が確定する。
「ボス級のモンスターは倒されると第五層で、それ以外の魔物は侵略した層のどこかに復活する仕組みだよ」
黒の魔王は指で0/2と0/5のモンスターを指しながら続ける。
ちなみにプレイヤーは体力が0になってから10分後に拠点で復活するみたいだ。
拠点に近づけば近づく程向こうに有利になる。
デスペナルティーは変わらず所持金半分で、倒した人間から奪えるシステムも一緒だ。
「わかりました、休憩とかはどうすればいいんですか?」
学との会話を思い出しながら質問する。
「うーん……
まだどうすれば良いか迷っている状態でね、君さえ良ければ12時間ずつでお願いしたいのだけれど……」
珍しく鈴木さんがいいよどむ。
前半戦のシフトも8時間だったし、そうゆう所に結構気を使う人なのかもしれないな……
「構いませんよ、休んでる間は炎の魔王はどうなるんですか?」
「君の今までの行動や、君の変わりに学が答えたアンケートを組み込んだAIを用意しているよ
勿論、私がログアウトしている最中も同様にね」
「はい?」
少し…… いや、かなり聞き逃さない言葉があった。
「そうだな、限りなく君の考えと同じ様にAIが炎の魔王を操作すると思ってくれれば良いかな」
噛み砕いで説明してくれるこの人はやはり優しいのだろう。
でも、そこじゃない。
「いや、そこは大丈夫です、学が変わりに答えたって所が……」
「あぁ、なんか裕くんの心理なら楽勝だよー、とか言って書いてたよ?」
自称親友の物真似をしながら答えてくれる魔王の言葉を聞きながら、軽く決意する。
後で文句を言おう、そしてなんて答えたか見せてもらおう。
「とはいえ、後2日はここから動けないし、プレイヤーも辿り着けないだろう、だから、一緒にレベル上げと君の装備でも見つけに行こうか」
黒髪の魔王は、そう笑って手を差し出す。
「お願いします」
手をとった俺の視線は白い羽の妖精を見つけてしまった。
「リーダーぁ、それ私が説明する予定でしたよねぇ」
金髪の妖精の声に元気は無い。
「裕二さぁん、さっき私の事見ましたよねぇ?」
「「……」」
答えを返せないまま上を向くリーダー。
「いいんです、私はどうせ無視されるんです、無視です、無視なんです」
なんか前にもあったな……
どうやって慰めようか考えながら俺も空を見る。
そして、恐らく違う理由で妖精も空を見上げた。
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