第47話 運営会議


 そこは会議室のような場所だった。

 集中力を高めると言われる青色の部屋。

 並べられた机に10脚のイス。

 扉や窓は一切無い、完全に閉ざされた空間。


「時間だ、始めようか」


 黒髪の女性が声を響かせる。


「今日は6人だ! 過去最低の人数だねー」


 使われていないイスを見ながら喋る緑の妖精。

 その隣には白い羽を持つ妖精も座っている。


「仕方ないっすよ、今メンテだったりで忙しいんすから」


 まるメガネと白衣が印象的な男性が言葉を返す。


「さっさと始めませんか? 時間が勿体無いので」


 言葉と同時にメガネの女性が右手を上げると、空中で不規則に指を動かす。

 その動作に白衣の青年はビクッと反応する。


「皆さんに資料を配布しました」


 全員の前に現れた紙には大きな文字で'第1回運営会議'と書かれていた。


「ありがとう、では最初の議題から、ゲームバランスの調整はどうする?」


 リーダーの問いかけに学が答える。


「お客様からの意見とネットの評価では、魔力が優遇されすぎてるって話が多いね、後は結構バランスとれてると思うよ」


 普段の飄々とした雰囲気を感じさせない緑の妖精に、金髪の妖精は少し緊張する。


「そうっすね、魔法のダメージ算出方法が基礎ステータス×込めた魔力っすからね

仮に魔力100のプレイヤーが居たら消費魔力10で1000ダメージっすよ」


「確かにほとんどのモンスターは即死でしょうね

でも、どんなに威力を込めてもプレイヤーに当たったら魔法は消えてしまうし、魔力に振っている分、防御は紙でしょう?」


「そうだね、まぁ広範囲の魔法は消えないけど威力はかなり落ちるし、使った魔力はアイテムなしでは回復しないし、今の所は様子見でいいかな?」


 喋った順番に、白衣の青年、スーツの女性、ランドセルの小学生がリーダーの方を向く。


「私もそれで良いと思う、では今回の調整はなしで

次に今の所の出費と交換率についてだが」


 5人の視線が今日1度も喋っていないチームメンバーに向けられる。


「イベント前半での出費 約1500万

現状現金交換券を使用したプレイヤー 約1万人

平均 10万wワールド 振り込んだ総額 約1億

出費約1億1500万 交換率1%未満」


 注目された黒い猫が、無機質な声で答える。


「補足します、今現在でイベント後半戦の難易度別参加人数を用意しました」


 白い羽の妖精が手を上げると、空中に文字が現れる。


'上級   6000人

中級 27万0000人

初級 53万0000人

無参加 4万3000人

操作なし30万0000人


最大出費=20億    '


「まだ選択を変えることが出来るので確定ではないですが、参考には出来ると思います」


 リーダーは大きく頷くと、ありがとうと答えて続ける。


「交換率についてはまだゲームが始まってから1ヶ月も経ってないことを考慮すれば問題ないな

後半戦は最大出費の場合でも粗利の10%で収まる範囲だ、今回のイベントで、このゲームは稼げると宣伝する為に多めに還元しても良いと思うがどうだろう?」


「賛成っす、配信者の動画でも現金交換券を使ってから振り込まれるまでの映像がかなり人気みたいっす」


「なるほど、実際に交換出来るかどうか不安なお客様もいるわけか……

ならばその心理を利用するのも面白そうだ」


 そう呟いたリーダーは黒猫を見る。


「了解」


「相変わらずリーダーとシャルは仲良いっすね」


 2人のやりとりを見て素直な感想を口から出す。


「他にお客様からの声や改善点はあるかい?」


「対人戦の要望は結構多いよ、黒の魔王と炎の魔王が強すぎるって問い合わせも少し」


 即答する学。


「対人戦は難しいっすね、現実世界で問題起こったら面倒っすよ?」


「新あらたに賛成 リスクが高い」


 白衣の青年にシャルが賛同する。


「例えば闘技場みたいなシステムを作るのはどうでしょうか?

負けてもペナルティ無しか、お互い同意の上で賭けるものを決めるか等で」


 白い羽の妖精が指を立てて提案する。


「悪くないと思うけど、もうちょっとプレイヤーが定着してからがいいと思うな」


「私も学に賛成します」


「静しずかが指示してくれるなんて珍しいね」


「真面目な時の貴方は尊敬しているもの」


「2人ともありがとう、対人戦はとりあえず見送りにしよう、次回のイベントで試してみるのも有りだろうし」


 リーダーの言葉に反対は出ない。


「知恵ちゃんと裕くんの操作してる魔王については仕方ないね、実際に2人とも負けてないし」


「わざと負けても楽しくないだろう

ステータス開示だったり、聖なる石だったり、協力プレイだったり、人間側に有利なシステムなのだから気にしなくても良いのではないか?」


「微妙っすね、勝てな過ぎるとプレイヤーが離れる可能性があるっす」


「僕は大丈夫だと思うよ、勝てないから楽しいって人も居ると思うし」


「とりあえず後半戦の結果次第という事にしませんか?」


「そうっすね、静さんに賛成っす」


「賛成」


「決まりだな、運営操作魔王については変更無しで後半戦に挑もう」


 それからも細かいことや、時にどうでも良い事を話しながら会議は進んだ。







「今日はこれで解散にしよう

これからも色々大変かもしれない

対応出来ない事も出るかもしれない

世間の評価は決して甘く無いだろう

もしかしたら嫌な思いをするかもしれない


でも、せっかく新しい物をみんなで作ったのだ

遊んでくれる人達に楽しんで貰えるように、何より私達が楽しいと思えるように全力を尽くそう」



 リーダーの強い声にみんなが笑う。


 明日からも楽しみだ


 そう思いながら緑の妖精は青い部屋から消える。

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