第36話 第1回イベント前半戦2


 マップを見ながら三層目を目指す。


 しかし予想外なのはプレイヤーとのエンカウント率だ、少なくとも5分に1回は人間と遭遇してしまう。

 俺の見た目は他のプレイヤーと変わりないはず、装備はシルバーソードしか持っていないので、黒いシャツに黒いズボンが今の服装だ。


 それなのにすぐに魔王だとバレる、もしかしたらプレイヤー側には魔王を判断できる何かがあるのかもしれない。


 初心者エリアという事もあり、出てくる相手のレベルがそんなに高く無いのが救いだ。


 そしてこの日、1番の難関が俺に襲いかかって来た。



「クハハ、やはり勇者の中でも、我の運は最強のようだな」


 幻聴だろうか……

 背後から変な言葉を聴いた気がする……


「ここであったが100年目、我が名誉の為朽ち果てるといい」


 残念な声がまた聴こえる、もう気のせい、では済まされないだろう。

 俺は恐る恐る後ろを振り向いた、

 そこに居たのは全身が銀色装備のプレイヤー、さらには光り輝く大剣を両手で持っている。


 ルシファー レベル35

 勇者 

 銀の大剣

 銀の鎧

 HP 120/90


 ステータスを見て少し驚いた

 コイツ……地味に強い……

 すぐに思考を切り替える、甘く見るな、金がかかっているんだ

 俺は1度深呼吸して気持ちを落ち着かせる。

 それに、待ちに待った強敵との戦いだ、集中しろ、頭を働かせろ、でも熱くなりすぎるな、


「我は聖なる勇者ルシファーである、炎の魔王よ、いざ、尋常に勝負」


 とりあえず名前変更する所から始めて欲しいものだ


 しかも言葉とは裏腹にその場から動こうとしない、このタイプのプレイヤーなら迷わず突っ込んで来ると思っていたが……


 ヒリヒリする


 腐っても現段階でレベル35まで上げている事はあるみたいだ、自分の戦闘スタイルを既に完成させているのだろう。


 ワクワクする


 間違いなくカウンター狙い、こっちから攻撃するのは上手い方法とは言えない。


 だが、今の俺は魔王だ。


 どうせ逃げるなんて選択肢は無いのだ、ならば罠にハマりに行くのもアリなのかも知れない。


 数瞬悩んだ結果、シルバーソードの剣先を相手に向けて少し引く、そのまま、いつでも緊急回避が出来る様に小さい歩幅で勇者に向かって走る。


「我が剣に斬れないものはない」


 ルシファーは俺の動きに合わせて大剣を後ろに引く、

 お互いに突き攻撃をする動作だ。


 魔法や罠を使うタイミングはもうないだろう。


 俺は勇者の心臓めがけて愛剣を突き出す。


 ルシファーもまた俺に向けて大剣を突き出して来た、もしかしたらミスったかもしれない、攻撃にステータスを振っていて相討ち狙いの可能性を考慮していなかった。


 赤い光と共に、狙った場所に剣が刺さる、

 銀の輝きと共に、左の脇腹に大剣がぶつかってくる。


 俺は今までで1番の衝撃と共に大きく吹き飛ばされた。

 視界がグチャグチャに回る。


 何回転しただろうか?

 なんとか起き上がれた俺はすぐに相手を確認する。

 勇者はまださっきの位置から動いていない、

 HPは8/90と赤い文字で表示されていた。

 クソッ、クリティカルヒットを出しても削り斬れなかった……


 次いで自分のステータスを確認する。

 HP 54/90

 こっちは案外余裕だった。

 なんならもう1度同じ事をしても問題ない。

 もしかしたら防御もそれなりに上げているのかもしれない。

 どんなに予想しても答えは絶対にわからない、それでも頭が勝手に考えてしまう。

 この感覚がとても好きだ。

 あぁ、今、俺は生きてる



「クッ、流石は魔王、我が一撃でもHPを削り斬れないとは、それにこの威力っ、作るのが大変だった銀シリーズの鎧の耐久値がぁ」


 同じくステータスを見ていたらしい勇者は途中で涙目になる。


 マズイ、奴らには回復薬がある。

 俺は咄嗟に全ての魔力を込めて火球を放った。

 念じたのはとにかく速さ、火の球はいつもより小さくなり、スピードを上げて勇者に直撃する。


「なっ、そんな魔法っ、攻略情報には無……


 自分の体が光り出してから現状を把握できたのか、言葉を言い切る前に勇者は消滅した。


 今日初めてダメージを受けた戦闘、俺は達成感に包まれる

 あぁ、楽しかった


 ピコンッ

 レベルが21→22になりました

 HPが54/90→56/92になりました

 ステータスポイントを3獲得しました

 魔王の心得Ⅲが魔王の心得Ⅳに進化しました


 魔王の心得Ⅳ 聖属性の敵に与えるダメージ2倍

 進化条件  勇者を倒す


 今更かよ、と思いながらも勝利を実感出来て少しにやけてしまう。

 まだイベントは初日、もう1度戦う事もあるだろう。

 次はワンキルしてやるぜ


 高揚した気分のまま、俺は森を進むのであった。

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