第35話 第1回イベント前半戦1


 暗闇の世界に星が流れる。

 もう見慣れたはずの景色だが、今日は何時もよりも綺麗に感じる。


 そして視界がホワイトアウトした。


 そこは森の中だった。

 ハミルトンの時のような紫一色では無い、本当の森。

 緑の木々は爽やかな風と共に揺れている。


 さて、イベントはもう始まっている筈だ。

 俺は会議を思い出しながら運営側のマップを開く。

 この地図は、プレイヤー側のマップとは違い、魔王がどこにいるかを青いマークで示してくれる機能がある。


 いきなりだが、この世界は東西南北4つの大きな大陸で構成されている。

 またそれぞれの大陸に拠点と呼ばれる大きな町があり、外には1層〜5層に分けられたフィールドが広がっている。


 勿論数字が大きくなるほど敵は強くなり、運営側も層を増やす為に日々努力している。

 ちなみに、前回ログインした紫の森は東の大陸の5層目にあるみたいだ。


 マップ上の魔王を示す青い点は4つ、流石は初日、平等に全ての大陸に配置されている様だ。

 俺が居るのは東の大陸の二層目、魔女の森という場所らしい。


 二層目の浅い所であり拠点から大分近い、このままだとプレイヤー達がたくさん湧いてくるだろう。


 どう動こうか……


 一層方面に行けば沢山のプレイヤーに会う事が出来るだろうが、協力されやすくなり、負けるリスクも出てくる。

 とはいえ、深い層に行けば強い人間に会う可能性が高くなり、これはこれでリスクが高くなる。


 迷った時は決まっている、俺は強いプレイヤーと戦いたい。

 決めた、三層に向かう事にしよう


「ファイヤーボール」


 突如聞こえた声と共に横から火の球が飛んでくる、

 残念ながら咄嗟に動ける程の反射神経を持っていない俺は、その攻撃をモロに喰らってしまった。


 球が当たった右手に痛みはない。

 魔法が飛んできた方を向きながら、ステータスを確認する。

 HP90/90、体力は減っていなかった、相手はそんなに強いプレイヤーではないのだろう。


 シルバーソードを左手に持ち、ゆっくりと歩いていく。


「アイスボール、ウィンドカッター、泥団子!」


 同じ場所から氷の球、風の刃、土の球が飛んでくる。

 必要がない事は知っているが、躱す事に慣れる為に俺は敢えて全てを避ける。


「クッソ、当たんねー」


 悪態と共に飛び出して来たプレイヤーは明らかに初心者だった。


 黒瀬 レベル7

騎士見習い 57/57


 ちなみにプレイヤーは魔王のステータスを全て見る事が出来るが、運営側は名前とジョブ、HPとレベルしかわからない。


 騎士見習い……

 初期ジョブは〜使いで固定されていた筈。

 銀色に輝く剣を構えた相手に少し警戒心を取り戻す。

 俺が負けると5千円のマイナスだ、給料も減るかもしれない、何よりゲームなのだ、全部勝ちたい。


 上段から、斬りかかってきた相手の動きは、リザードマンよりも遅い、わざわざシルバーソードで受ける必要もないだろう。

 紙一重で避ける力は無い、それでも余裕を持って躱せた俺はガラ空きになった脇腹に愛剣を叩き込む。  


 システムの仕様上、血は出ない。

 それでも、人を剣で斬るのはなかなか抵抗がある。

 相手に痛みがある訳でも無いし、何の問題もない、

 でも、これは慣れるまで頑張るしか無いか……


 騎士見習いは光と共に消滅した。

 今頃は東の拠点で目覚めているだろう。


 プレイヤー黒瀬を倒しました

 18000wを手に入れました


 アナウンスが脳内に響く。

 所持金の相場が分からない以上、この金額が多いか少ないかの判断は出来ない。


 それにしても、開始3分でエンカウントか……

 流石は大人気ゲームって所だな


 レベルの低い相手から稼ぐのもありだが、後に叩かれそうだしな……


 俺はそんな事を考えながら、最初の予定通りに三層目に向かい歩いていった。

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