第32話 第1回イベント直前対策会議1


 そこは真っ白な空間だった。


 視界に入る情報は3つだけ、

 脚の付いた丸いテーブル

 それを囲むように置かれた4脚の椅子

 いずれの家具も部屋と同じ白色だ。

 最後にその内の1つに座っている黒髪の女性


 約束通り10時丁度にログインした俺は、2人の妖精に出会うと同時にこの部屋に移動させられた。


「はじめましてかな?

私は 鈴木 知恵 そこの妖精さん達と同じくこのゲームを作った人間の1人だよ」


 言葉と同時に女性が立ち上がる。

 身長は160くらいだろうか

 肩まで伸びた黒い髪が少し揺れた。


 不思議な感覚だ、この人の声は妙に落ち着く感じがする


「お疲れ様です」 

「久しぶりだねー、知恵ちゃんは元気だったー?」


 2人の妖精が順番に話す


「お疲れ様、全く君は……

知恵ちゃんは辞めろと言っているのに」


 呆れた様な声が響く。


「同い年なんだしいいじゃん!

あっ、裕くん、この人が僕たちのリーダーなんだよー」


 いつの間にか椅子に座っていた学が紹介してくれる。


 遠藤さんと俺も指定された椅子に着席した。


「さて、イベントがそろそろ開始する訳だが、裕二くんには内容を伝えているのかい?」


 向けられた言葉に2人の妖精は首を振る。


「一応公式サイトに載ってる情報は見ました」


 昨日の夜サイトで読んだ内容を思い出しながら報告する


「ありがとう、説明の手間が省けるよ

後、私にも砕けた口調で構わないよ」


 同い年だしね、と付け足して鈴木さんが言ってくれる。

 別に意識して敬語を使っていた訳では無いのだが……


「では、簡単にイベントの説明をお願いしていいかな?」


 鈴木さんの視線が金髪の妖精に向けられる。

 遠藤さんはどこからかA4サイズの紙を取り出すと全員に配った。

 紙に視線を落とす、1番上にはイベント概要と大きく書かれてあった。


「では説明させて頂きます、まず前半についてですが

6体の魔王を時間制でゲームの中に配置します

各魔王の配置時間についてはお配りした紙の上から2番目を見てください」


 言われた通りに紙を見る

 そこに自分の名前を見つけた



 魔王 佐藤裕二(プレイヤー操作)

  28日10時〜18時

  29日14時〜22時

  1日18時〜26時

  2日22時〜30時

  3日16時〜24時

  4日 6時〜14時

  5日 0時〜10時


 魔王 鈴木知恵(プレイヤー操作)

 28日10時〜14時

 29日 0時〜 8時

  1日 4時〜12時

  2日 8時〜16時

  3日12時〜20時

  4日14時〜22時

  5日 0時〜10時


 魔王 A.B(魔王用AI操作)

28日10時〜12時

29.1日0時〜12時

2.3.4日12時〜24時

5日0時〜10時


 魔王 C.D(魔王用AI操作)

28.29.1日12時〜24時

2.3.4.日0時〜12時

5日0時〜10時



 遠藤さんが読み上げてくれる。

 まるでバイトのシフトみたいだ


「魔王として戦って頂くお2人は不規則な生活になってしまいますが、イベント中この時間にログインをお願いします、知恵ちゃんは最終日キツイと思うけど頑張ってください」


「問題ないよ、気遣いありがとう」


 鈴木さんの黒い瞳が優しく妖精を見つめる。

 どうやら魔王として働くのは俺だけじゃないらしい


「AI操作の魔王とは違って2人の撃破報酬は高いからねー

なるべく負けないように頑張ってね!」


 学が楽しそうに話す。


「次は報酬についてですね、その下を見てください」



 撃破報酬について

 魔王A.B.C.D 敗北時点での所持金の半分を戦闘参加人数で割る※最低50000wで計算※+聖なる石 


 運営操作魔王 敗北時点での所持金の半分を戦闘参加人数で割る※最低50000wで計算※ +現金交換券


 魔王の所持金について

 倒したプレイヤーの所持金の半分を追加


「聖なる石はイベント専用アイテムで性能はランダムです、現金交換券はゲーム内マネー''w"を現金と交換したい時に使うアイテムです」


 全て読み上げてくれた妖精は一息つくとリーダーを見る。


「説明ありがとう、そして裕二くん

君の歩合給はこのイベントの前半で最終的に持っていた金額を参考にするからね、でも、もしも負けてばかりだと……」


 そこまで言って鈴木さんは笑った。

 倒したプレイヤーの所持金の半分を奪えるとはいえ、死んでしまえば一気に無くなってしまう

 少しワクワクしてきた

 自分の結果次第で給料が貰える

 これ程単純にやる気が上がる理由は無いだろう


「稼いでやるぜ」


 無意識のうちに俺は笑っていた。














「時に裕二くん、昨日私のメール無視しましたね?」


 光の無い瞳が俺を貫く。


「私、返信、お待ち、しています、と書きましたよね?

夜遅くまで、まだ、来ないなと、待ってたんですよ?」


 感情の抜けた声が部屋に響く。


 あぁ、1件目のメールは学じゃなかった……


 泣きそうな妖精にもう暫く怒られた俺は今度からアドレスをちゃんと登録しようと決意した

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