第33話 第1回イベント直前対策会議2


 あれから暫く怒られた。

 すこし落ち着いたのか、咳払いをした遠藤さんは次の説明に行きます、とプリントの真ん中あたりを指差す。


「えー、次に今回のイベントで還元する金額の予想なのですが……」


 言葉が弱くなっていく。


「まぁ分からないよねー」


 学が正直な感想を放ち、


「難しいな」


 鈴木さんもそれに賛同する。

 ゲーム内マネーが、現金と交換出来る以上あまり簡単に稼がれる訳にはいかないのだ。

 しかし、稼げなすぎてもプレイヤーから不満が出るだろう。


「わかってる範囲から推測しようか」


 そう言った鈴木さんは指を3番たてた、


「まずは私達の収入と収入源、次に魔王が倒された時の損失、最後に現金交換券を使われる可能性

この3つを考えればある程度の放出金額がわかると思うのだが?」


 鈴木さんの提案に学が賛成と手をあげる。


 曰く、スタート特典で、配布した自分専用現金交換券は、今のところ5%しか使われていないらしい。

 運営側はこの理由に対して、少ない金額で使うのが勿体無いというよりは、1枚しか無い交換券に対して慎重になっていると推測している。


「それからー、収入に関しては分かりやすく纏めといたよ! 収入源に関しては来月からどうなるかだねー」


 緑の妖精が指を振ると全員の前に紙が出現する。


「まず、最初の販売予定数のゲームチップ100万枚が予約の時点で完売、それからもどんどん売れ続けてるからこの収入が1番でかいね」


 ゲームチップ1枚の値段は2万円だ。

 しかも元々ダウンロード制でも問題無い作りの為、1枚当たりの制作コストは数百円だ。

 とはいえ、この収入は時間と共に減っていく。

 これからもゲームを運営していくことを考えるならば安易に減らしていい貯金ではないだろう。


「流石裕くんだね!意外と頭もいいよねー」

 喋ってはいないんだが……

 妖精はこっちを見て笑うと話を続けた。


「後は配信者から回収出来るロイヤルティーが、来月から入ってくるのと、徐々に増えてる課金の収入だねー」


 ちなみに配信者とはネットでプレイ動画や配信したり、ブログに攻略を書いたりして、広告費を稼ぐ人の事だ。


 The 2nd worldは無断で動画や内部の情報をネットに載せる事を禁止している。

 また、載せる際にはそれによって得た収益の2割を自動的に運営に振り込むシステムを使う事を強制される。


 それでも一定数の配信者がいるのは、このゲームがかなり売れている事、無断で載せられないので競争率が他のゲーム配信に比べて格段に少ない事が大きいだろう。


「ありがとう、次に魔王が倒された場合だが、AIの魔王なら最高でも一回の死亡で5千円、私と裕二くんの場合はそれに追加で現金交換券だね」


 魔王が一回死ぬたびに5千円減っていくと考えれば簡単だな


「理想は倒される前にプレイヤーから50000w集める事だよねー」


 学の言う通りだ、プレイヤーにはデスペナルティの所持金半分没収がある。

 それを集めて50000w以上所持出来ていれば運営側の損失は1円もなくなるのだ。

 そして俺の報酬もあがっていく


「まぁ難しいでょうね、プレイヤー側もその場にいる人達で協力するでしょうし、応援も呼ばれる事は間違い無いでしょう」


 mmoである以上、プレイヤー間の協力は間違い無いだろう、しかもこのゲームは現実世界での争いが起きないようにプレイヤーキルが出来ない仕様になっている、その為、少し複雑だがプレイヤー同士の攻撃でHPが減ることもない。


 また、時間が経てば経つほど魔王の動きが攻略されていく筈だ、1回完全に攻略されてしまえば、それ以降は勝負にならないだろう。

 ネットが普及してしまっている以上、ゴキブリよりも早く攻略者が増えていくのは間違いない。


 それに、俺と鈴木さんの動きも勿論研究される事になる。

 人が動かしている、とはいえ、パターンを変えたりしなければすぐに捕まるだろう。

 これはこれで中々楽しそうだが





 それからも色々な話をした。


 また、イベント後半戦は魔王vsプレイヤーの大規模戦闘の予定らしい、これについてはもう一度作戦会議を開くとの事だ。


「さて、今回のイベントは裕二くんにとっては勿論、私達にとっても初めてのイベントだ

予想外な事も多々起こるだろうが、皆で協力して成功させよう」


 リーダーの言葉に皆が返事をする。

 俺もやる気は充分だ

 プレイヤー全員を俺の給料にしてやる


 労働なんちゃらの決まりで明日は休みだと告げられた俺は気分が高まったまま、ログアウトを選択した。

 

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