第29話 魔王vs魔王5
高速回転している頭でも言葉の意味を理解するのに時間がかかった。
銀色の剣はまだ頭の上だ。
「はい?」
口から勝手に飛び出す疑問。
ようやく処理が追いついた頭が答えを出す。
このまま斬ってしまおうか
涙目のベルゼブブに向かい少し歩く。
『ひぃっ! 降参っす!無理っす!勝てないっす!
こっち来ないでっすぅ』
ゆっくりと近付く。
とうとう泣き出した魔王、
5本になった足で器用に後ずさる。
なんなんだコイツは……
上がっていたテンションが急下降した俺はシルバーソードを下ろして尋ねる。
「流石に説明してもらっていいか?」
2人の妖精は片手を目に当て顔を上げていた。
いつの間にか不気味な紫の空は、馴染みのある青い空に変わっている。
『自分雑魚っす!無理っす!痛いの嫌っす!」
「黙ってろ」
『はいっ!黙ってまっす!何でも言う事聞くっす!』
即答だ。
ペコペコしながら話しかけてきたハエは、俺の言葉に前足で敬礼しながら口を閉じる。
「えっとね、真由ちゃんお願いしていい?」
フラフラと学が肩に乗る。
疲れてる姿は珍しい。
「わかりました…… では僭越ながら
基本的なモンスターにはAIを活用しています
距離、時間、数、スキル等を判断材料に次の動きを決定してモンスターを行動させています」
スライムの跳ねるや、ウサギの突進もそうです
ゲームが好きな裕二さんなら多分知ってましたよね?
遠藤さんがフォローしてくれる。
「そこまでは理解出来る」
特に狩猟系のゲームでは相手の動きを覚えるのが1番重要なポイントだといっても過言ではない。
そう、例えば緑の竜は空に飛んだら火の玉を吐いてくるか、回転して尻尾で攻撃してくるか、とかだ。
「そこで私達は魔王と呼ばれるモンスターや、重要な役割を持つボスにだけ特別なAIを使う事にしました
10人の職員にそれぞれ、1000以上の様々な場面を想定し、その時にどう考え、どう動くかのアンケートに答えてもらい、そのデータを判断材料に1人分ずつ組み込んだのです
わかりやすく言うなら職員が操作してるのと変わらないように動ける様にしたって感じですね」
まさに分身だな。
なるほど、それなら戦闘中に感じた違和感も多少は納得出来る。
それでも言葉に出来ない、理由がわからないモヤモヤが残ってしまう。
「分身だねー ちなみにこの考えの延長戦で裕くんに魔王やって貰おうってなったんだよ!」
肩にいる妖精が耳元で囁く。
こいつのアンケート結果を参考にして作られた魔王が居るのなら相手の心を読めるのだろうか?
「で、これは?」
指を向けられてビクッと反応する虫を見る。
恐る恐るこっちを見上げるベルゼブブ。
「私達の中で1番臆病な人を参考にした魔王ですね……」
力なく答える妖精に対して、
『はいっ!自分臆病っす!痛いの嫌っす!
だからいっぱい魔蟲召喚してダメージ移して高みの見物出来る、この魔王選んだっす!
でもでも、ハミルトン戦覗けば馬鹿みたいな魔法使うじゃ無いっすか、蟲を呼ぶだけ強くなるんすよね?
なんなんすか?いじめっす!ずるいっす!相性悪過ぎるっす!』
我はどうした?
あの変な間は魔法を警戒していたのか?
というか、もっと手は有っただろう。
少しずつ召喚するとか……
『まぁ一応勝てるかも?って思って攻撃してみたっすけど、全然躱す気ないし、むしろ相打ち狙いで攻撃してくるし、足めっちゃ痛かったんすよ?
さっきだってダメージ喰らうのお構い無しに全力で斬る気満々だったし、こんな戦闘狂と戦うのはゴメンっす!』
とまらない愚痴。
しかも人の事を戦闘狂扱いしやがった……
たしかにバトル中はワクワクしてたし、楽しんでいたけれど。
いつの間にかHPバーは消えている。
もう目の前の魔王はただのハエにしか見えなかった。
ピコンッ
魔王の心得がⅡ→Ⅲに進化しました
魔王の心得Ⅲ 状態異常になりにくくなる
進化条件 状態異常になった戦闘で勝利する
脳内に流れるアナウンス、この戦闘でレベルは上がらなかったらしい。
ハミルトンの方が全然強かった。
なんなんだこの魔王は……
「帰ろうか、もう結構やってるし今日はここまでにしよう」
疲れたように緑の妖精が声を出す。
その提案に賛成した俺は何か物足りない気持ちを抱きつつもログアウトを選択する。
「ではまた明日の10時丁度にログインお願いします
何かありましたら私か学さんに連絡してください」
お疲れ様でしたと遠藤さんが光と共に消える。
それから数秒も経たないうちに俺の体も光と共に消えた。
こうして色々あった初日は幕を下ろす。
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