第23話 これが魔王のレベ上げだ!3


 黒い鎧の騎士はゆっくりと長剣を上段に持っていく。


 俺はそれを見ながらレベルアップで手に入れたステータスポイント9全てを防御に振り分ける。

 これで準備は整った。


『覚悟はいいかい?』


 騎士は問う。


 なんの覚悟だ?

 聞こえているのだろう。

 俺は敢えて口に出さない。


『暗黒剣』


 その言葉と同時に黒い剣に黒い稲妻が走る。


 俺に見えない速度で長剣が振り下ろされた。

 奴の攻撃速度が、俺の速度を上回っているのだろう。


 紫の世界に黒の線を描きながらそれは首筋で止まる。

 特に衝撃を受けた感覚はない。


『なっ』


 ステータスの差を考えれば判りそうなものだがな。

 そうか、考えは読めてもステータスは見れないんだな。


 爆音が遅れて聞こえた。

「これでスタートラインだ」


 自分のステータスを表示して奴に見せる。


佐藤 裕二 レベル10

魔王

体力 6868/68

攻撃35+3500

防御19+1900

速度10+1000

技術10+1000

魔力10+1000

スキル

全武器(1)

魔法(1)

対複数人補正(10001×0.1)

魔王の心得1



 HPは1も減っていない。


『なんなんだいそのステータスは?』

 僅かに声が震えていた。


「対複数人補正だよ 今の俺は元の能力を約1000倍した数値がプラスされてる」


 そう、相手の人数×0.1割ステータスに補正が掛かるこのスキルを最大限活かす為に俺は病院に通い詰めたのだ。


『なるほど 時間が経つと不利になるのは此方だったか

ならば私の選択肢はこれしかないな』


 冷静になるのが早い。

 やはり勇者と称される事だけはある、かなりの修羅場を潜ってきたのだろう。

 それとも人工知能と人間の差だろうか。

 ハミルトンは全身に黒い稲妻を纏うと俺の横をすり抜けて後ろのゾンビに突撃する。


『要は数が少なくなれば弱くなるのだろう?』


 迷いなく群に突っ込んでいく。

 そいつらは元々お前を慕っていた領民では無いのか?


『なんの話だ?私は真の魔王ベルゼブブ様の騎士

領地など持ったことはない』


 移動しながらも考えを読む事を辞めなかった騎士は反射的に返事をする。


 勇者ハミルトンはあいつではないのか?

 まぁいい、操られているにしろ、人違いにしろ、ゾンビを減らされるのは色んな意味で面白くない。


 ここで魔法のダメージについて遠藤さんの説明を思い出す。


 元々の魔力値×込めた魔力

 これが魔法の基本威力だ


 例えば基本魔力10の俺が1の魔力を使って火球を使うと10×1で10の攻撃力として計算される。

 基本魔力20でスタートする魔法使いは比べて2倍のダメージを出せるわけだ。


 AIがこの式をベースに後は魔法の届く範囲、速さ、大きさなど様々な条件を考慮して最終的な数値を出すらしい。


 全ての魔力を火球に込める。

 1010×1010がこの魔法の基本威力だ。

 条件によってどれくらいマイナスされるかは判らないが、あいつを倒す位の力は残るだろう。


 紫の世界に現れた赤い光はどんどん大きくなる。


 俺と同じ位まで大きくなった火の球は1度停止した。

 ゆっくりと形を変え始める。


 先程までとは逆に小さくなる様な動きだ。

 どんどん圧縮されて密度が濃くなっていく。


 俺が込めたイメージは全てを焼き尽くす光だ。


 今や屋敷の中は赤い光で満たされている。

 俺の魔法だからか熱は微塵も感じない。


 目の前の光に対し、

 名前は勝手に浮かんできた。


'火球 極広'


 命名と共に黒い騎士に向かう赤い光。


 それは直ぐに止まり球の前半全てを飲み込む程の巨大なレーザーとなる。


 放出は5秒程度続いたのだろうか。


 光が収まる。


 屋敷は半分焼失していた。


 家も、草も何もかも消え失せた一本の道に直撃したはずの黒い騎士が倒れていた。


 てれれーてれれてってれー

  レベルが10→21になりました

  HPが68→90になりました

 ステータスポイントを33獲得しました 

 魔法 '火球 極広'を習得しました


 俺はステータスを確認する前に黒い騎士の方へ歩いていく。

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