第24話 これが魔王のレベ上げだ!4


 あれだけの魔法が直撃したからか、黒い鎧はボロボロに砕けていた。

 左手にあった盾は完全に消滅している。


 仰向けに倒れている騎士は雲一つ存在しない、紫の空を見上げていた。



 俺が近くに来ても、動く気配の無いハミルトン。

 HPバーも見えなくなっていることから倒した事には倒したのだろう。


 突然鼓膜が揺れる。


『私は 私の民を傷付けなくて済んだ、貴方に感謝を』


 泣いている様に見えた。


 理由はわからない、相手は感情の無い人工知能だ。

 それでも心の底から感謝されているのがわかる。


『魔王ベルゼブブに挑むのだろう?』


 それ以外にこんな場所に来る意味が無いのだから、と続けるハミルトン。

 彼の右手に握られていた長剣が粉々に砕ける。


 その瞬間、村の色んな方向から11の光が飛んでくる。

 騎士の左手に集まる光は真っ白だ。


『私は民を毒から守る為、ベルゼブブの配下になる契約を結んだ だが魔王は嘘をついた

奴は私を餌に民に死を選択されたのだ……』


 余程悔しかったのだろう噛み締めている唇から血が流れる。


 話についていけない……

 あくまで推測でしか無いが、やはりハミルトンは勇者だったのだろう。

 そして村の家で読んだあのノート。


 残りの4冊も読んでおけば、ハミルトンとその民に何が起こったのか理解出来たのかもしれない。


 結局ゴミ箱に入っていた鍵も使わず終いだ。


『貴方に、私の想いを託したい』


 いつの間にか光が収まり、

 騎士の左手には純白の剣が握られていた。


『これは聖剣グラントリノ

魔の属性を持つものに対して2倍以上のダメージを与えてくれる、私の相棒だ』


 どうかこの想いと共に受け取って欲しい。


 そう続けた騎士の左手から聖剣がフワフワと浮いて目の前に来る。


 ピコンッ

 電子的な音と共に目の前に情報が現れる。

 聖剣グラントリノ

 攻撃+100

 魔力+50

 対魔物(10)

 対魔王(20)

 受け取りますか?


 これが聖剣か……

 オンボロソードしか知らない俺はこの性能に驚く。


 武器単体で攻撃+100

 しかも魔王に20割、200%のダメージ補正付き


 今の俺がこの剣で攻撃されたら即ゲームオーバーだ。

 もしもこんな物をプレイヤーも持っているとしたら倒されない自信の方が無くなる。


 強いて言うなら他の奴に渡る前に回収出来て良かった。


 取り敢えず受け取るか……

 念願の武器だ、しかもレベル上げに最適な効果まで付いている。

 あぁ、この達成感と努力が報われた感覚、

 これもゲームが好きな理由の1つだ。


 ピコンッ

 魔王の心得Ⅰが魔王の心得Ⅱに進化しました


 このタイミングで?

 俺は勝手に表示されたスキルの詳細を確認する。


 魔王の心得Ⅱ 常時発動

 効果1 魔物と話せるようになる

 効果2 聖なる物には触れられなくなる


「我は魔王!聖なる物には触れぬ!触らぬ!近寄らぬー」


 なんだこれは?


「それ怒られるんじゃ無いですか?」


 久しぶりに聞こえた、

 暢気な声と真面目な声。


「やっぱり、裕くんに依頼して良かったよ!」

「攻略おめでとうございます」


 いつの間にか両隣には満面の笑みを浮かべる妖精が飛んでいた。


「どこ行ってたんだよ」


 素直な気持ちが口から溢れる。

 後、この聖剣は貰えないのだろうか?


「聖なる武器とか防具は基本的にユニーク装備なの!

ゲーム内にそれぞれ1個しか存在できないんだー

そんなの魔王側が持ってたらクレーム出そうじゃん!」


 何処かの勇者みたく、人の考えを読んだ様に学が喋る。


「まじかよ」


 だったらあの黒い長剣くれよ……

 俺はダメ元で目の前の聖剣に手を伸ばす。


 バチっ


 手が弾かれる


 バチっ


 やっぱり弾かれる


 魔王の心得……

 なんていらないスキルなんだ。


 仕方ないか、泣く泣く受け取らないを選択する。


『そうか、君には君の相棒がいるのだな

ならばこの聖剣は他の勇者に譲るとしよう』


 静かに笑うハミルトンの元へ聖剣が戻っていく。


 いや、、、めっちゃ欲しい……

 それ、かなり欲しい……

 俺の相棒はお前が折っただろうが。


 心の中で猛抗議する。


『ならばせめて情報を話そう』


 曰く、魔王ベルゼブブは毒と虫を使うらしい

 曰く、魔王ベルゼブブ本体にそれほどの強さはないらしい

 曰く、魔王ベルゼブブはこの村の先にある森の中に居るらしい


『私は民を救えなかった

 どうか変わりに奴を倒しくれ』


 最後に解毒剤を10個貰った。


 役目を終えたのだろう、

 騎士は聖剣と共に白い光となって空に登っていく。


 俺はステータスポイントを振り分ける事にする。

 あぁ、そういえば6→7になった時のポイントを振り忘れていた。

 あの時はハミルトンを倒す方法を思いついたばかりでテンションが上がりすぎていたのだ。


 さて、どうするか……

 表示されるステータスを見て考える。


佐藤 裕二 レベル21

魔王

HP90

攻撃35

防御19

速度10

技術10

魔力10

火球 水球 風球 土球

火球極広(m1000)

スキル

全武器(1)

魔法(1)

対複数人補正(人数×0.1)

魔王の心得Ⅱ

ステータスポイント36


「m1000は最低その魔力を込めないと発動しないって意味だよー」


 緑の妖精が口を出す。


 火球 極広は暫く使えないな。

 大体3しか増えないのにどうやって1000も貯めるのだろうか。


 先程の威力と殲滅力を思い出す。

 ゾンビ共もまとめて消していたしあれは仕方ないか……


 俺の仕事はプレイヤーを倒すことだ。

 だが、それ以上に倒されてはいけない。

 攻撃だけを上げれば良いと思ったが、

 ハミルトンとの戦いで防御の重要さを知った。

 広範囲の魔法が存在する以上、防御は優先すべきなのかもしれない。


 迷った結果、

 攻撃に10 防御に26振り分け、どちらも45にしておく。


 さて、魔王ベルゼブブを倒しに行きますか。

 3人に戻った俺たちは森を目指して村を出るのだった。

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