私たち獣化研!!!

鷹角彰来(たかずみ・しょうき)

第1化 オオカミへの憧れは止まらない

 私は通学路の途中で、三毛猫を見つけてしまった。


「わぁ、かわいいー」


 スマホで写真を撮りまくる。


 毛づくろい、あくび、にらみ、どれも可愛いなぁ。猫ちゃん、ネコチャン、ねこちやん、ぬこ、にゃんこ、キャット、ニャンニャン!


 あれれ、私の熱気に押されたのか、どこか行っちゃった。もっと撮りたかったのに残念。


 ふと向こう側の歩道橋を見ると、金髪の女の子が身を乗り出している。えっ、これはヤバイと駆け出す。すると、女の子の顔から黄色い口ばしが生えて、大きな翼が生えて、飛んで行った。


「とっ、鳥人間?」


 この世界はヒロアカ(注1)じゃないから、空飛ぶ人がいるのはおかしい。目をこすって再び空を見たら、鳥人間のシルエットが段々と小さくなっていく。もしかして、あれがフライング・ヒューマノイドってやつかな。あーあ、写真か動画撮っておけば良かった。スマホの画面を開いてため息。


「って、ああああ! もうこんな時間!」


 走らないと遅刻だぁ。私はマラソン大会レベルで高校へ向かった。


☆☆☆


 今日から、十央高校一年生は仮入部が解禁される。


 私の場合、小学生の時はいきもの係、中学の時は生物部だったから、動物関係の部活がいいな。うーん、でも、部活紹介誌を見るかぎり、生き物系がうさんくさい同好会だけだ。



獣化研究会(3G教室)

活動内容:動物になりきれ!




 いかにも怪しげだけど、しゃあなしに確かめに行ってみるか。合わなかったら、別の部活に行けばいい。


 3G教室のドアを開けたら、二人の女生徒が迎えてくれた。


「いよっ! 待ってましたぁ!」


 黒髪のショートボブの女子が、くす玉を割って拍手する。顔は乃木坂46にいそうなキュートな感じだ。


「おめでとー。これで、あんたもリア獣間違いなし―」


 金髪のツインテールの女子が、スマホをいじりながらしゃべる。顔は名前にカタカナが入ってる系モデルに似てる。


「ちょっと、モフモ。スマホはそこまで」

「はぁーい。じゃ、定番の自己紹介やりましょー」


 ツインテールがスマホを置いて立ち上がる。私の真ん前で、二人が横並びになる。ツインテールからは桃の香りがただよってくる。いい香水つけてるー。


 ちなみに、私は茶髪のポニーテールで、顔が少しやつれた上白石萌音(かみしらいし・もね)に似てると言われる。歌はからっきしダメなんだけどね。


「獣化研究会部長の真弦 永美(まつる・ながみ)。今日はよろしく!」


 ショートボブ先輩が握手をうながす。握り返せば、まぁまぁ肉厚で温かい手だ。少しずんぐりむっくりした体型で、160㎝台の私より背が低い。


「うちは毛札 薫花(もふだ・くんか)。よろしくねー」


 毛札先輩は胸の前で両手を左右に振る。まるで子ども番組の体育のお姉さんだ。スラッとした体型で、私より背が高い。


「さっ! あんたの名前聞かせて」

「はい! 私は1年B組の仁久木 祐子(にくぎ・ゆうこ)です!」


 私が元気よく答えると、真弦先輩が指を鳴らしてニカっとする。


「いいねぇ、祐子ちゃん。そんじゃ、今日の獣化について話していこうか。座って、座ってぇ」


 真弦先輩が四つの机が固まってる所を指差す。先に私が座ると、先輩たちが私の正面に座る。何だか面接みたい。


「今日、我々が獣化する動物はオオカミ! じゃ、祐子ちゃん、オオカミについてどんなイメージ持ってる?」

「そうですね……。悪役のイメージかな。ブタやヤギを襲ったり、昔のプリキュアの敵(注2)だったり、良いイメージないです」

「なるほど。モフモはどう?」


 モフモこと毛札先輩はキーホルダーを回しながら答える。


「うーんとねー。やっぱ細マッチョかつもふもふかなー。ワーガルルモン(注3)とかガロン(注4)とか、かつ神のハンク隊長(注5)とかー。あと、BEASTARSのレゴシ(注6)

はしびれるよねー。普段はボーっとしてるけど、いざという時は戦うところすこ。草食男子じゃなくて、オオカミ男子が増えればいいのにねー」


 彼女が話したキャラの名に、全くピンとこない。もしかして、違う世界線で生きてるのだろうか。


「二人とも大体わかった。とりま、実際にオオカミTFしてみましょか。モフえもん、出してちょうだい」

「ハイ、動物変身ガム~」


 毛札先輩がひみつ道具を出す口調で、ポシェットからオオカミの顔写真つきパッケージのガムを取り出す。


「毛札のパパはお菓子会社の社長で、開発中の商品をプレゼントしてくれるの。そんで、これは噛むとオオカミに変身できるガム」

「えっ? それってホントですか?」


 にわかに信じがたい。二人して私をからかってるんじゃないのか?


「ホント、ホント、1000%ホント。このガム噛みながら、頭ん中で何かのオオカミの姿を想像すると、その通りの姿になれるんよー。ただし、前回噛んだ時から、6時間以上経ってから噛むこと。さもないと……」

「去年のあたいみたいに、100時間ずっとワニだかんな!」


 真弦先輩が両手でガシャンと、ワニの長いあごを表現する。100時間後に人に戻るワニって、結構大変そう。肉ばかり食べて、人に戻った時にものすごく太ってたんじゃないかな。


 それにしても、そんなノーベル賞級のお菓子を娘に与えるなんて、毛札先輩の父は甘々なのでは……?


「もしかして、今朝、鳥になって飛んでたのは、毛札先輩ですか?」

「おー、そうそう。遅刻しそうな時、鷲鳥人になって飛んでくよー。誰も見てないと思ってたんだけどねー」

「まーたパパに怒られるよ、あんた」

「てへぺろ!」


 毛札先輩が不二家のペコちゃん顔になる。


「さて、祐子ちゃんには、ケモノ娘になってもらおっか。ガム噛みながら、オオカミのケモノ娘を想像してね」

「けもの娘?」


真弦先輩の「けもの」の響きから、「けものはいてものけものはいない」(注7)のフレーズが浮かんだ。


 頭の上からオオカミ耳がニョキニョキ生え、もふもふ尻尾がスカートからピョコンと出てくる。指先からひじまでをオオカミの白毛で覆いつくしてみる。へー、本当に変身できるんだ。すっごーい!


「これでいいですか? アオ―ン」

「違う、違う、違う! それじゃ、ただのコスプレでしょ! せめて四つ耳じゃなくて、ケモ耳オンリーにしろや! あと、本物のオオカミの遠吠えはもっと長いし、ビブラート利かせて! あっ! 肉球忘れてやがる。こんガキャー!!」

「部長、落ち着いて。また逃げられちゃうよー」


 暴れ馬と化した真弦先輩を、毛札先輩が見えない手綱でなだめてくれる。何とか落ち着いたけど、ハシビロコウのようにずっと睨んできて怖い。


「チッ。しょうがないなぁ、新入生ちゃん。毛札君、典型的な例を見せてあげなさい」


 真弦先輩は笑っているけど、こめかみの血管が浮き出ている。私ってば、先輩の地雷を踏んでしまったようだ。


「はーい。ちょっくらオオカミ娘になりやーす」


 毛札先輩がガムを噛み始めると、口と鼻が一斉に前へ伸びる。唇が黒いゴム状のモノに変わる。両耳は頭の上部に移って、毛がびっしり生える。とび色の瞳が金色に変わって、ダイヤの輝きを放つ。


 体中に灰色の毛が生えて並んでいく。あごと首元と手先が白い毛でキレイ。先輩がブルンと体を震わせたら、人とオオカミが混じった生き物と化していた。金髪と灰色の毛がいいコントラストになってて美しいなー。


「さすがモフモ! オオカミお姉さんって感じね」

「ウフフフフフ。ちなみに腹筋も割れてるー」


 オオカミ人間が制服のボタンをはずし、下着を胸元まで上げれば、シックス・パッドが現れる。腹筋は首回りと違い、カーペットのように毛が短い。


「さわってもいいよー」

「わっ、すご! かったい!」


 鉄板みたく硬い。こんな腹筋だと、銃弾もはじいちゃうんじゃないかな。


「さぁ、部長も見せてやってよー。真のオオカミTFを!」


 真弦先輩は「任しとき」と腕まくりして、制服を脱ぎ捨てる。うわっ、全裸になって四つんばい!? 先生に見られたら、確実に生徒指導室行きですよ。


 真弦先輩がガムを噛めば、一気にオオカミの毛がボボボボーンと生える。全身が真っ黒で、悪いオオカミさんだ。後ろ足のかかとが上がって、四つの足から凶器にできそうな爪が出てくる。黒オオカミは歯茎むき出してうなり出す。


「グルルルル……」


 黒オオカミの目の焦点が合ってないし、よだれを垂らし続ける。まさか、本物のオオカミになってしまったの? すると、黒オオカミが毛札先輩に飛びかかる。


「ぶ、部長? うちを食べてもうま……、アーッ!」


 毛札先輩がのどをかまれて、気を失ってまう。おびただしい鮮血。黒オオカミは返り血を浴びた狂暴な顔で私を見て、地をはうように低くうなっている。どうしよう、このままじゃ、私殺されちゃうよ。


 幸か不幸か、私の口の中に、ガムが残っている。噛み直して、新たなイメージを思い描く。転スラのランガ(注8)のように強くて大きいオオカミになるんだ。


 私の制服が破れて、土管より太い腕が現れる。胴回りはビールたるになって、四つの足じゃないと支えきれない。私はムクムク大きくなって、教室を壊しそうなぐらいのサイズになった。窮屈キュークツ。


「うおおおおおおおおおおおおおおおん!」


 私の遠吠えで、黒オオカミが教室の隅っこにちぢこまる。目を伏せてクゥンと弱い鳴き声だ。やった! 私の勝利だ! 先輩を救うことが出来たぞー。この優越感たまんないっ!!


「いやぁ、やれば出来るじゃん、祐子ちゃん」

「ははーん。さては、巨ケモ好きだなー」


 黒オオカミと狼人間が、何事もなかったかのように私をほめる。


「あれ? 毛札先輩、さっきの傷は……?」

「あー。さっきのは演技で、血ノリつけただけー。どんな反応するか試したかったのよーん。だましてごめんメンゴ」


 マジかー。この人、いやオオカミ達にだまされちゃった大賞2020だわ。ある意味で、動物になりきってる真弦先輩ハンパないって。隅に堕ちてたリレーのバトンをかじり出したし。毛札先輩は舌で鼻をなめて可愛い。


「体全てを変身させるのは気持ちいでしょう。獣化の楽しさわかった?」

「はい! でも、私の制服が……」


 足元の布切れになった制服を潤んだ目で見る。母にめちゃんこ怒られるし、明日から体操服で登校しなきゃかな……。


「あっ、大丈夫よー。うちが新しいの買ったげるー」

「えっ? いいんですか?」

「うん。困ってる後輩を助けるのが、先輩の役目だし―」

「ありがとうござぁます!」


 私はでか鼻で毛札先輩に頬ずりする。


「大げさだなー、ニッキーは!」

「次はベロリとなめちゃいな!」


 何だか楽しそうな部活に入れて、とてもハッピーセット! 明日はどんな動物に変身するのかな? これから毎日獣化したいぞ。

(続)







注釈1 『僕のヒーローアカデミア』のこと。ホークスさんいいよね

注釈2 『スマイルプリキュア』のウルフルンのこと。女装、人間化、幼児化など様々な姿を見せた。

注釈3 デジモンアドベンチャー(新)、2020年4月からフジテレビ系で放送開始!

注釈4 格闘ゲーム『ヴァンパイア』シリーズの人狼キャラ。中々のマッチョなので画像検索推奨

注釈5 『かつて神だった獣たちへ』の人狼・ハンクのこと。アニメのハンク隊長は原作よりもゴリマッチョになり、変身シーンも増えるというサプライズがあった。

注釈6 ウサギに恋してしまったオオカミのレゴシのこと。来年にアニメ2期があるので楽しみ。

注釈7 今日もドッタンバッタン大騒ぎ

注釈8 転生したらスライムだった件のテンペストウルフ。主人公のリムルに服従後はわんこ中のわんこ。かわいいね。もふもふしたい。

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