第5話 美少女には裏があるものである
「あーあ、ほんとに帰っちゃった〜……」
斗真が去ったあと――
教室では、
彼女に声をかけるチャンスなのではと教室中の男子がそわそわしはじめるが、相手は“万年に一人の美少女”。みな尻ごみしてすぐには動けない。
そんななか最初に声をかけたのは、長身の男子だった。
「いるよなあ、ああいう空気読めねえやつ。まあ、いいじゃん。あれだけ誘ったんだし、実際あんなノリ悪い陰キャ一人いなくても変わらないっしょ」
言いながら、来未をなぐさめるようにポンと肩に手をおく。
全世界のくるみん王国民が見れば「姫に気安く触れるな下郎」という破廉恥な行動ではあるし、それに近いことを思うものもなかにはいるのだろうが、それを表立って指摘するものは教室にはいなかった。
なにしろその行動をしたのは、
クラスのカースト最上位に君臨する陽キャ男子なのだから。
侑李はサッカー部の不動のエースであり、長身で甘いマスクも兼ねそなえていることもあり、クラス内外問わず女子人気が高いイケメンである。
同じ最上位カーストということで来未と話すことも多く、以前「二人は付きあっているのでは?」との噂が流れたのは皆の知るところだった。
来未ほどの美少女に見合う男はこの世に存在しないものの、付き合っていてもおかしくないと思わせるハイスペック男子なのだ。
「もう、侑李はまたそんなこと言って〜! みんなで打ちあげしたほうが絶対楽しいし、斗真くんって仲良くなったらおもしろい人な感じするよ?」
「だとしても、俺らと仲良くする気なさげじゃん。今日も結局帰っちまったし」
来未はフォローするが、侑李は肩をすくめてやれやれと首を振る。
「しかたないよ、ほんとに大事な用があったんだと思うよ〜?」
「そうか? 単にめんどくさかっただけだと思うが。どうせ家帰ってゲームでもするんだろ。休み時間もずっとなんかやってんじゃん」
というやりとりを二人がしていたときだった。
銀太がハッとした顔で「ああ、そうかゲームか!」と声をあげる。
「ん、ゲームがどうかしたの銀さん?」
「うむ、緑川の大事な用じゃがたぶんPUBDじゃな」
「え、どゆこと〜? PUBDってバトロワのあれだよね?」
来未がひょこと小首をかしげると、銀太はうなずいて補足する。
「今日からPUBDで期間限定イベが始まったんじゃよ。たぶん緑川の用ってのは十中八九それじゃろう。昨日トイレで
「え……ゲームのイベントが大事な用?」
来未は理解できないというように眉をひそめる。
「うむ、ランキングに載って限定スキンもらうんだと息巻いておったからのう。やりこまねばならぬから、打ちあげに行っとる場合ではないのだろう」
その気持ちわしにもわかるぞ、と。
オタクとして共感できるところがあるのか、うんうんとうなずく銀太。
「そらみろ、やっぱりそんなことだろうと思ったよ」
侑李がすぐに勝ちほこったように言う。
だがそれに来未はすぐには反応を見せず、じっとうつむいていた。
その肩は心なしか、ぷるぷると震えていた。
どうかしたか? と侑李が首をかしげると――
「……へえ、わたしよりゲームなんだ」
陰キャのくせにすんごい生意気、と。
来未は消えいるような声でそんなことをボソッとささやく。
それは侑李や銀太にも、教室の誰にも届かぬほどの小さな声だった。
そしてその顔にはふだんの“万年に一人の美少女”の天使スマイルは影も形もなく、小悪魔めいた薄暗い微笑がうかんでいた。
「え、なんだって……?」
「ううん、なんでもな〜い♡」
しかし顔をあげたときにはその微笑はすでに幻のように消え、代わりにその顔にはいつもどおりの天使スマイルがうかんでいた。
「ならいいけどさ、まあ俺らだけで楽しもうぜ」
「うん、そだね〜♡ 楽しもうね、侑李♡」
破滅的な攻撃力を持つ天使スマイルを至近距離で向けられ、イケメンで女子に免疫があるはずの侑李も「お、おう」と頰をそめる。
その後ほどなくして――
来未と侑李主導のもと、斗真のぞくクラスの面々は焼肉屋へと移動するのだった。
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