第9話 池袋へ
今日は休日だ。とは言っても特にやることはないけど。
洗濯物を洗い、部屋の掃除をして、とりあえず今日やりたいことは終わる。
コーヒーを淹れベランダに出てたばこをふかしながら静かな時間を……。
「前島さーん! おっはよー!」
静かな時間は過ごせそうにないなぁ。
シリラも洗濯物を干している最中だった。
彼女はユニフォームの他にいつもの退○忍みたいな服を多数干している。
っていうかそれが普段着なの?
可愛い猫のプリントをしたパンツも干していた。
へぇー、そんなのも穿くんだ。
「あー、パンツ見たでしょー。すっけべー」
なんてことを魔王の娘に言われてしまったんですけど。
しかしいつもハレンチな格好をしているシリラにそんなことを言われたくはないんだけど。
「うっさい。今日仕事は?」
「休みだよー。あのね、せっかくだしどこか遊びにいかない?」
「デート?」
「ちちち、違うわよ! か、勘違いしないでよね!」
これってツンっていうの?
よく分からんけど。
しかし今日は特にやることもないし、板○区に引っ越してきてから遊びにいくことってなかったな。
よし、たまには気晴らしにどこか行くとするか。
「いいよ。どこか行きたいところがあるのか?」
「え!? い、一緒に行ってくれるの!? すぐに準備してくるから!」
シリラはドタドタと部屋に戻っていく。
それじゃ俺も着替えるかね。
ジャケットをはおりジャージからジーンズに。
まぁこんなもんだろ。
――ドンドンッ
いつものようにドアを力強く叩く。
いい加減インターフォンを直さないと思いつつ、そのままにしている。
どうせ来客はシリラしかいないしな。
ドアを開けると……。
ん? いつもの格好じゃないぞ。
普通の服を着ているではないか。
可愛いワンピースだ。
「うふふ、似合うー?」
「うん。いつの間に買ったの?」
「ちょっと前にね。それと今日は幻術は解いてるから。近くに佐藤さんとか岡本君も住んでるし、見られたくないでしょ?」
なるほど、それは良い配慮だ。
俺はなるべくなら社内恋愛はしたくないタイプなのだ。
この会社……というか、外食って店長とバイトがくっつく率が高くてねぇ。
別に悪いことではないが、俺はあまり好きではないのだ。
それにシリラは変装……というか幻術を解けば外人さんに見えなくもない。
羽は体内にしまっているそうだ。
「でもちょっと窮屈なの。時々トイレで羽を伸ばすね」
羽を伸ばすって。
まぁ無理をさせるのもねえ。
人にばれないように注意させることにした。
シリラと二人で外に出る……んだけども、やっぱり世間って狭いんだよねー。
「あれー? 店長じゃないですか!? その子は? もしかして彼女さんですか!?」
あちゃー。佐藤さんに見つかってしまった。
そういえば近所に住んでるんだっけ。
うーん、下手に言い訳するのもどうかなって思ったので話をあわせておくことにした。
「う、うん。そうなんだ。この人は恋人のシリラだ」
「うわー、美人……。しかも外人さんだなんて。ハワーユー。マイネームイズカヨコー」
「はわわ、は、初めまして」
シリラは慌てながら日本語で挨拶をした。
ちょっと焦っていたのか、おでこからニョキニョキ臭い匂いを出す角が生えてきたんですけど。
ヤバイ。家の近くで異臭騒ぎを起こすわけにはいかん。
佐藤さんに見つからないようシリラのお尻に手を伸ばし……。
――ギュウゥゥッ
「い、痛ー!? な、何すんのよ!」
「あ、あはは。すごく日本語お上手なんですね」
「え? そ、そうなんです。むしろ日本産まれで……」
シリラも落ち着いたようで日本語で話しかけた。
とりあえず異臭騒ぎは防げたようだ。
「うふふー。みんなに言っちゃおー。店長の彼女見たよーって」
なんてことを言って佐藤さんは去っていった。
うーむ。特に問題無いとは思うがシリラが彼女かー。
人間じゃないんだけどなー。
そのシリラだが、なんか下を向いてブツブツ言っている。
「うふふ……。前島さんの彼女だって……」
「シリラ?」
「ふぁっ!? な、なんでもないんだから! 調子に乗らないで!」
「何が? っていうか角出そうとしたろ? 絶対に外で角は出すな。俺はテロリストにはなりたくないぞ」
シリラに注意しつつ先に進むことにした……んだけど、そもそもどこに行くか決めてなかったことに気づく。
「あ、あのね。池袋に行ってみたいの」
「池袋か。東○線ですぐだな」
電車で15分もかからんな。
近いし別にいいだろ。
バイクで行くことも考えたが、停めるところも無さそうだったので電車で行くことに。
駅に着いて切符を買い、シリラに渡す。
「え? 電車賃くらい払うよ。それにスマホにはスイカーの機能もついてるし」
「別にいいよ。あんまり金は持ってないんだろ?」
「あ、ありがと……」
そのまま電車に乗って池袋に向かう。
そして電車を降りたシリラは駅員さんを見つけなにやら話をしていた。
「どうした?」
「うふふ、秘密」
よく分からん。
シリラは改札を通らず、駅員さんがいる改札に向かう。
なるほど、切符をもらったんだな。
電車に乗るのは初めてだったのかもしれんな。
その記念に切符を取っておくことにしたのだろう。
それにしても人が多い。
これじゃ迷子になりそうだな。
もしシリラが迷子になって焦ったら臭い角を出すかもしれん。
池袋の皆様を守るためだ。
俺はシリラに手を差し出す。
「ほれ」
「ん? ほれって……」
「いや、繋げよ。迷子になるぞ」
「ち、ちょっと馬鹿にしないでよ! 迷子になってもスマホのマップ機能くらいあるよ! で、でも……」
――ギュッ
シリラは手を繋いできた。
「うふふ……」
「なんだよ、気持ち悪いな。それじゃどこに行きたいんだ?」
池袋に行きたいと言ったのはシリラだ。
どこか目的の場所があるのだろう。
「とらのあな!」
うん、別にいいけど……。
母さん、なんかシリラとデートすることになりました。
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