第7話 金縛り

 ――ズシッ


 んん? なんか体に異変を感じて目が覚める。

 目を開けるとまだ夜中であった。

 しかも体が動かないぞ。

 あーぁ、また金縛りかよ。


 俺は霊媒体質なのか、よく幽霊とか妖怪の類いは見かける。

 なのでこの金縛りが科学的に解明されているような寝ているのに脳が覚醒しているのか、それとも心霊現象なのか判別出来るのだ。


 まぁ今回は後者だったようだね。

 だって胸の上には血塗れの女性が立ってるし。

 

「あのー。重いんですけど。ちょっと退いてくれませんかねぇ」

『…………!?』


 幽霊は俺が怖がっていないことに驚いているようだ。

 幽霊くらい見慣れてるし、なおかつ俺のお隣さんは魔王の娘だし。

 

『ちっ……』


 うわ、舌打ちされたんですけど。

 俺が怖がっていないのでムカついたのだろう。

 しかしだな、あの手の浮遊霊というのは基本的に力が弱い。

 ああやって人を驚かすのが好きなだけなのだ。

 

 幽霊はちょっと俺を睨み付けてから壁の中に消えていった。

 そして今度聞こえてきたのは。


『ぎょえー!? おばけー!?』


 隣の部屋からシリラの叫び声がしたんですけど。


 ――ドンドンッ! ドンドンッ!


 俺の部屋をノック……っていうか全力で叩く奴がいる。

 こら、こんな夜中に近所迷惑になるだろ。


 ドアを開けると、幽霊にがっちり抱きつかれたシリラが泣きながら立っていた。


「前島さ~ん、助けて~」

「いやいや、お前は魔王の娘だろ。そんな幽霊くらいやっつけられるんじゃないの?」


 しかしシリラはガタガタと震えつつ青い顔をしている。


「無理だよぅ。だって私、魔法は使えないし……」

「あー、そうだったな」


 たしか魔力供給を止められたとか何とかでシリラは魔法がほとんど使えないらしい。

 唯一使えるのは自分の姿を吉田さんに見せる幻術だけだとか。


 仕方ねえなー。

 俺はシリラの背中にしがみつく幽霊に向かって。


「ごめんな。オンキリキリオンキリキリ。せいっ!」


 ――ビシッ


『ぎょえー……』


 幽霊にデコピンをかますと静かに消え去った。


「えぇー? ま、前島さんってそんな力もあるの? 今のって呪文?」

「ん? 適当に言っただけ。母さんに教えてもらったんだけどね」


 俺の母さんもかなり霊感が強い。

 なので独自のお祓いのやり方だが除霊する方法は知っているのだ。

 とりあえずシリラにはまだ悪い気が憑いていたので祓ってやることに。


「背中向いて」

「う、うん。って痛ーい!」


 ――パァーン!


 はい、除霊完了。大抵の場合これで祓える。

 それじゃ寝るとするか。

 俺はドアを閉め再びベッドに戻ろうとするが。


 ――ドンドンッ! ドンドンッ!


『開けてー! あんなのが出た後に一人にしないでー!』


 うるせえよ。

 仕方ないのでドアを開けるとシリラが俺の部屋に入ってきた。

 

「ご、ごめん! 怖くて眠れないから今日はここに居させて!」

「帰れ」


 ――ポイッ


 シリラを捨てるように追い出す。

 しかしドアの外からはすすり泣くシリラの声が聞こえる。

 っていうかお前、魔界の住人だろ?

 なんで幽霊が怖いんだよ。


 かわいそうになってきたので、とりあえずシリラを部屋に入れることにした。


 シリラは泣きながら……。


「グスンッ。ありがと……。でも勘違いしないでよね! 部屋に入れてくれたからってあんたに気を許した訳じゃないんだから!」

「追い出すぞ」


 まぁ、こいつは人間じゃないし、俺の店のアルバイトでもある。

 人外に手を出すつもりはない。


 俺は明日も仕事なのでシリラは無視してベッドに入る。

 彼女はベッドの側面を背もたれにしてガタガタと震えていた。


「あ、あの……。怖いからテレビでも見てていい?」

「明日も仕事なんですけど。くそ、音は小さくしてくれよ」


 そしてシリラはテレビのリモコンを操作して、とある番組をつける。

 うちのテレビはヨーチューブも見れるので、シリラは何やら検索を始めた。

 薄目でどんなチャンネルを探しているかと思ったら。


・実録! 日本の行ってはいけない心霊スポット!

・呪われた椅子! 座ると確実に死ぬ!

・髪の伸びる人形の謎!


 ――プツンッ


 シリラからリモコンを奪ってテレビを消した。


「あーん! なんで消すのよー!」

「そんなん見てるから幽霊が出るんだろ。もういい加減寝かせてくれ。怖くなくなったら自分の部屋に戻るんだぞ……」


 俺はそう言ってベッドに横になる。

 まぁ、シリラは再びテレビをつけて怖い動画を見始めたんだが。


 ――シュル シュルルル


 ん? シリラの体からなんか白い糸が出始めたんですけど。

 糸はシリラの体を包んでいき、そして最後は彼女の体の全てを覆う。

 こっちの方が充分ホラーだと思うんだけどな。


 これはシリラの布団になるらしい。

 寝る時はこれがないと安眠出来ないそうで。

 つまりこいつは俺の部屋で眠るつもりだな。


 もうどうでもいい。付き合っていたら寝不足で明日の仕事に障る。

 もう考えるのは止めて寝ることにした。


◇◆◇


「ふぁー」

「あれ? 店長、寝不足ですか?」


 とキッチンにいる岡本君が聞いてくる。

 まぁ本当のことは言えないので適当なことを言っておいた。


「うん、まぁね。ディナーピークの前の準備は終わってる?」

「はい! それじゃ後はお願いします!」


 今日は岡本君は早番なので仕事はおしまいなのだ。

 そして遅番のシリラと最近仲良くなったバイトの佐藤さんが出勤してくる。


「店長ー、おはよーございます!」


 と佐藤さんは元気良く挨拶をしてくれる。

 一方横にいるシリラは眠そうだ。

 いやいや、俺の方が眠いからな。

 主にお前のせいで。


 そして俺は休憩時間になったので待機室に行くとユニフォームに着替えたシリラ達が楽しそうに話をしていた。


「香ちゃん、あの動画見た? 怖かったでしょー?」

「えー、大したことなかったよ? もっと怖いのじゃないと物足りないよ」


「それじゃこんなのはどう? 怖くて眠れなくなるよ!」

「ふふん。それじゃ今度見てみるね。でもどうせ大したことないんでしょ?」


 シリラが怖い動画にはまったのは佐藤さんが原因だったか。

 まぁ、バイト同士で仲良くするのは止めることは出来ないしな。


「店長は怖いのって平気ですか?」


 と聞いてきたが、さすがに本当のことは言えないしなぁ。

 そもそも君が仲良く話してるのは魔王の娘だしなぁ。

 

「うーん、それなりに……ってとこかな」


 適当なことを言ってはぐらかしておいた。

 そして勤務を終え家に戻る。

 さて、今日も疲れたな。

 そろそろ寝るか。

 ベッドに横になると……。


 ――ドンドンッ!


『開けてー! また出たのー!』


 殴っていいかな? ドアを開けると女の幽霊に取り憑かれたシリラが泣きながら立っていた。

 

 母さん、隣の魔王の娘さんは憑かれやすいタイプみたいです。

 


 


 

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