第5話 面接

 ――チュンチュン

 ――ジリリリリリッ


 鳥の声とけたたましい目覚ましの音を聞いて目が覚める。

 俺が○橋区に引っ越してきてから三日目。

 今日が俺の初出勤の日になるのだ。


 ふぁー、寝不足だ。

 昨日は夜遅くまで、隣人たるベルゼブブの女、シリラの履歴書を書くのを手伝ってたからな。


 俺は眠い目を擦り、顔を洗いひげを剃る。

 そしてスーツを着て出勤準備完了。

 家を出たところで思い出す。

 シリラを起こさないと。


 俺はスマホを取りだし、シリラに電話を……しなかった。

 何故かシリラの電話番号にかけると、スマホから異音がなるのだ。

 普通の呼び出し音ではない。

 まるで絞め殺される動物のような叫びが聞こえてくるので、大変に不快なのである。

 爽やかな朝の雰囲気が台無しになるからな。


 やむ無く俺は隣人たるシリラ(吉田さん)のインターフォンを押す。


 ――ピンポーン♪


『…………』


 反応無し。寝てんな、あいつ。

 しょうがないので強めにノックしたところ……


 ――ギィー


 ドアが開いた。

 無用心だな。鍵もかけずに寝てるとは。


 俺はシリラの部屋に入る。

 レディーの部屋に許可無く入るのはどうかと思ったが、どうせベルゼブブだ。

 そこまで気を使うこともあるまい。


 シリラの部屋は玄関とキッチンは俺の部屋と同じ造りなのだが、寝室は何故か二十畳はある広い空間になっている。

 魔法かなんか使って広くしているのだろう。

 

 普通だったら驚くところだろうが、俺は小さいころから幽霊とか見てきたからな。

 すんなり受け入れられた。

 夜中に目が覚めたら、寝室が墓場になってたこともあったからな。それに比べれば大したことない。


 ――ガチャッ


 シリラの部屋に入る。


「おーい、起きろ。今日は面接……!?」

「…………」


 そこにシリラはいなかった。

 ベッドに横になっているのはシリラではなく、二メートルほどの繭が転がっている……。


 えーと、これはどう突っ込んだらいいのだろうか?


 ま、まぁ、シリラはベルゼブブな訳だしさ、蛆だって蝿になる前に繭を作るとか?

 混乱する自分を無理矢理納得させつつ、繭に手を伸ばすと……。


 ――バリバリッ


 シリラが繭を突き破って起きてきた。

 いつもの退○忍みたいな服ではなく、ゆったりとしたパジャマ姿だ。


「ふぁー、よく寝たー。って、あれ? キャー! 痴漢ー!」

「うるせぇよ。っていうか、なんだこの繭は?」


「繭? あぁ、これね。私これじゃないと眠れないのよ。日本のベッドだと安眠出来なくて」

「枕が変わると眠れない的なやつか?」


 色々突っ込みたいところはあるが、時間が無い。

 今日は初出勤の日であり、店舗を使った面接があるのだ。


 シリラも面接に参加させる。

 店長権限を使って採用はするつもりだが、一応形として面接は行わないとな。


「おい、遅れるぞ。面接は十時からだ。遅れると不採用になる可能性が……」

「そ、そうだった! なんでもっと早く起こしてくれないの!?」


 お前なぁ……。

 俺はお前のお母さんじゃないんだぞ?


 今の時間は九時半。

 ここから店舗がある駅まで歩いて三十分以上かかる。


 シリラは自転車を持っていないし、魔法を使って空間転移的なことは出来ないようだ。

 父親から魔力供給を止められてるからな。


 仕方あるまい。俺はシリラを連れて駐輪場に向かう。

 そこにあるのは愛車であるビックスクーターだ。250ccのPDX。世界のホソダが産んだ名バイクである。


 キーを入れてエンジンをかける。


 ――ドッドッドッドッ


 うーん、いつ聞いてもいいエンジン音だ。

 メットインに入れてある予備のメットをシリラに渡す。


「ほら、準備出来たら乗ってくれ」

「え? これって前島さんのバイクなの? やったー! 一度乗ってみたかったんだ! 魔界ではね、ホソダ ソウイチロウが作ったスーパーカバしかないの!」


 へー、今創始者は魔界で楽しくエンジニアやってんだ。

 スマホがあったり、スクーターがあったりと、あまり日本と変わりないみたいだな。


 いかんいかん。そんな場合ではなかった。

 リアシートにシリラを乗せて、アクセルを回す!


 ――ドルンッ! ブロロロッ


「きゃー! すごーい! 前島さん、もっと早く走って!」

「アホか! 安全運転だ!」


 制限速度を守りつつ、職場に向かうことにした。


◇◆◇


 店舗の近くにバイクを止める。

 一緒に店に行くわけにもいかないので、シリラには五分後に店に着くように言っておいた。


「えー……。行っちゃうの?」


 とシリラは青い顔をしている。羽もションボリと元気なさそうだ。


「しょうがないだろ。俺だって出勤初日から同伴出勤するわけにはな」


 いきなり変な噂がたつのも嫌だしな。

 シリラと別れ店に着く。

 

 商店街の一画にある真新しいレストラン。

 ここが俺の新しい城になるのか……。

 久しぶりの新店だ。気が引き締まるな。


 店に入ると面接担当の坂東さんが待っていた。

 今日は彼と三十人ほど面接を行う予定だ。


「前島さん、おはよう!」

「坂東さん、今日はよろしくお願いします。それじゃ会場設定しますか!」


 フロアのテーブルを移動させ、簡易の面接会場を作る。

 すると入り口のセンサーが面接者の来店を知らせる。


 入ってきたのは、男性と……。


「よよよよ、よろしくお願いします……」


 思いっきり緊張したシリラが入ってきた。


 母さん。今日俺は魔王の娘の採用面接をします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る