第14話

 シェ・ファニュは、その黒煙を見たとき雪嵐ブリザードではぐれた隊商がキャンプを張っているのかと浮かれそうになった。しかし近づくにつれ、それが昨日見た空を横切る黒煙ではなく、化物どもの飛行船の残骸から出ているものだと確認して震え上がった。こんな時、兄のように慕っていたエブラハム・Hがいてくれたら、どんなにか心強いことか。しかし彼は一ヶ月前に立ち寄った町で、運悪く戦士の徴用隊に出くわし、第一指導者ヘル・シングの所へ連れて行かれていた。彼女は不安を追い払おうと、別れ際にエイブからもらった十字架の首飾りを無意識に握り締めた。

 それから二時間余り、ファニュは凍りついたように待った。しかし残骸の中に何の動きも見出せないとわかると、恐怖と驚きは思春期を迎える少女の中に抑えがたい好奇心を芽吹かさずにはおかなかった。だが彼女は軽はずみな行動には移らなかった。幼い頃から仕込まれたとおり、真昼の太陽が雪の大地を余すところなく照らし出す今の時間でも、用心深く雪の上に腹這いになって辛抱強く観察をし続けた。

 彼女が隠れた小高い氷塊からは墜落現場がよく見渡せた。飛行船は完全に破壊されており、まだ所々で火がくすぶり、黒煙を噴き上げていた。化物は太陽が昇っている間は活動できないとはいうものの、十分に注意する必要がある。注意を怠ったが最後、化物の餌食になった話は何度となく聞かされてはいたし、その証拠に、ファニュの隊商でも立ち寄った町で戦士に緊急徴用され、一片の報告すらないまま、遂に還ってこなかった若い商人が何人もいたからだ。

 ファニュは残骸周辺で何も動きがないことを再度確認すると、意を決して瓦礫の山へ向かった。そこに到着すると、その巨大さに圧倒された彼女は手袋に包まれた小さな手で槍をぎゅっと握りしめた。残骸の周りを抜かりなく一周したファニュは、安全を確認して、もと来たところに戻った頃には適度な空腹感に襲われていた。幸いなことに未だに火がくすぶり続ける残骸もあり、その近くは暖かかった。また誰の仕業かわからないが、ダイオウイカらしい大きな触腕が千切り取られたまま食われずに放置されているのも見つけることができた。

 とにかく食事と暖を取り、少しは身体を休めることができそうだ。隊商探しはその後で考えよう。隊商は徴用されたエイブの他は嫌な人間ばかりだが、今の彼女にとって、その集団が、唯一身を寄せることができる家だった。

 ファニュは雪の上に胡坐あぐらをかくと大きな外套に付いたフードを頭の後ろに払いのけた。中からは長い赤毛とそばかすで彩られた十三歳の少女の顔が現れた。

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