第10話
ずきずきと脈打つ苦痛に苛立ちながら、新たな
太陽が燦々と降り注ぐ透明な強化プラスチック張りの回廊は空調を使わなくても温室効果で心地よい暖かさに包まれていた。
前の指導者も、その前任者も、その前の者も、過去の
歩くたびに漏れそうになる呻き声と、その苦痛に対する罵りを押し殺すのに、彼は少なからぬ忍耐を必要とした。
*
レン補佐長は
まったく正気の沙汰ではない。彼は
*
広大な城壁に四方を守られた城塞都市カム・アー。
その中でも、この巨大な集会場を内包する建物は、石とローマ式コンクリートで幾重にも包まれ、未だに荘厳な美しさと堅牢さをともに誇示し続けていた。その迷路のように入り組んだ内部に続くように分厚い二枚扉があり、その両側を大きな槍を持った門衛がそれぞれ控えていた。回廊を渡って集会場の前に到着した先導役のレン補佐長は、門衛に第一の門を開けさせると、第二の門の前で、ちょうど着いたばかりの
「皆、あなた様をお待ちしております」
包帯から一つだけ覗く左目で、
一瞬の静寂の後、闘技場のように大きな集会場に歓声が轟いた。
薄暗い円形集会場の中央に、古代の
「いよいよ時が来た!」
再び起こった歓声が収まるのを辛抱強く待って、彼は再び口を開いた。その包帯の中の隻眼は、集会場の壁一面に嵌め込まれた無数のモニター画面の中で固唾を飲んで見守っている聴衆の一人一人にも、ゆっくりと向けられた。
「時は来たのだ! この世界を再び神の子の手に! 再び人の手に! 俺たちの時代に全ての決着をつけるのだ!」
モニター画面の各所から、その呼び掛けに応える者たちの歓声と唱和の波が集会場に充満した。
「武器もある!」
「究極の武器もだ!」
第二の呼び掛けに集会場の床が三箇所開き、対ヴァンパイア用の巨大な凹面鏡 アルキメデスの
「そして何より、我々には崇高なる魂と正義、それに比類ない勇気がある!」
「レン補佐長!」
愚か者にしては大した扇動だ。第一指導者はこうでなければならないという良い見本だな。だが、やりすぎては早晩、身の破滅に繋がるのだがな、と、門の脇に佇むレン補佐長は感情を押し殺してその光景を冷ややかに見つめ続けた。
「レン補佐長!!」
彼は真っ白な床に置かれた机の上からナプキンを掛けられた一抱えもありそうな白い陶器の盆を持ち上げ、
「奴らを滅ぼせ!」
言うや否や、
「行動を開始するのだ!」
*
大歓声の中、モニター画面が次々と消えてゆき、滑らかな鏡面へと変わった。集会場は天窓から差し込む細い陽の光と静寂だけに包まれた。
レン補佐長は、またこの指導者が何らかのパフォーマンスをひけらかそうとしているのだろうと心の中で舌打ちした。指導者はひとしきりその腕の匂いを嗅ぐと、にやりと笑ってそれを差し出した。補佐長は吐き気を堪えた。
「今度は我々が奴らを喰らう番だ。奴らの汚れた肉を我々の体の中で浄化してやるのだ。そして古代の戦士のように、神に賞賛されるのだ」
レン補佐長とすれ違いざま、
「好き嫌いはいかんな」吐き気を催す生臭い匂いが、その口から漂ってくる。「ダイオウイカよりはイケるかもしれんぞ、こいつらの肉も」
レン補佐長の後ろでは、巨大な檻の中では退場する
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