第84話 入れ替わり
このネズミ式神、何かから僕らの目を
という事は、こいつがいるのとは反対側に……
ふり向こうとしたその時……
電話の着信音が鳴った。
芙蓉さんの携帯のようだ。
「はい。こちら御神楽。え? 結界設置班のメンバーが……」
電話に出ていた芙蓉さんの顔色が、さっと変わる。
何があったのだろう?
電話を切った芙蓉さんが、僕に近づいて耳打ちした。
「優樹君。この事は、他の人には話してはだめよ」
何だろう?
「結界設置班の一人が、自宅アパートで、
え?
「彼女の話では、昨日自宅で何者かに襲われて、そのまま監禁されていたそうなの。でも、彼女は昨日出勤しているのよ」
それじゃあ、まさか?
「おそらく、彼女を襲ったのは呪殺師ヒョー。そのまま彼女と入れ替わっていたのよ」
芙蓉さんが彼女と言っているという事は、女性なのだろうけど、今回ここへ来た結界設置班の女性は一人だけだったはず。
つまり、昨日僕が会った女性がヒョーだったのか?
てか、奴は女装していたのか?
でも、結界設置班は昨日僕の見ている前で、全員車に乗り込んで帰っていったはずでは……
「帰りの車の中から、彼女だけがいつの間にかいなくなっていたの。信号待ちの間に勝手に降りたとみんな思っていたらしいのだけど、主任が車内を点検していたら、式神用の憑代が落ちていたのよ」
なんだって!?
「おそらく、最初はヒョー本人が結界設置班に紛れてこの屋敷に入った後、式神と入れ替わっていたのだわ」
じゃあ、昨日僕が会った時には、式神と入れ替わっていたというのか?
しかし、なぜ他の人に話してはいけないのだ?
あ!
これって協会の失態。権堂氏に知られたら面倒な事に……でも、これって隠しちゃだめだよね。
隠しちゃだめだけど……ここで、僕の口から馬鹿正直に権藤氏に話すというのも……
それにしても、なぜ芙蓉さんは、僕だけに話すのだろう?
「優樹君。君は昨日、庭のどこかで、彼女の姿を見たと言っていたわね。どこだか覚えている? おそらく、その近くにヒョー本人が隠れているはずだわ」
そういう事か。僕にだけ事情を話すはずだ。
「権堂富士ですよ。その頂上に、人がいるのを見ました」
「権堂富士? ああ! 築山ね」
その時、サラリーマンの幽霊が、芙蓉さんの背後の壁を抜けて現れた。
「君! 見つけたぞ。奴は、築山の中の空洞にいる」
そんなところに?
「最初は結界があって築山には入れなかったが、さっき突然結界が解除された。中に入ってみると築山の中は空洞になっていて、そこに生きている人間がいたのだよ。人型に切り抜いた紙も持っていた。式神使いに間違えない」
「ありがとうございます」
僕は幽霊にお礼を言うと、権堂氏の方をふり向いた。
「権堂さん。築山の中に、空洞があるのですか?」
ん? 権堂氏の顔色が変わる。
「な……何を言っている。そんなところに、空洞なんて……ないぞ」
なんか知らんが、ずいぶん
「でも、浮遊霊が築山の空洞内に、式神使いがいると……」
「馬鹿な! 今、あそこに入れるわけ……」
やっぱりあるんだ。でも、隠したいようだけど……
「権堂さん。築山に空洞はあるのですか?」
「うう……その……あるには、あるが……入り口は水没させてあるので、入れるはずはないのだが……」
水没?
その時だった。突然、式神の気配が現れたのは。
気配の方向は……権堂富士!
しかも、この気配はかなり強い。龍か虎、あるいはその両方を出したのか?
早速、芙蓉さんはブースターを飲んで、式神を召還した。
式神は壁を抜けて、権堂富士の方へ向かう。
芙蓉さんは、僕たちの方を振り向いた。
「あなたたちも、準備して。奴は龍と虎を両方出してきたわ。このニ体が相手だと、私でも押さえるのがやっとよ」
その時、すぐ近くから別の式神の気配が発生した。
気配の方向へ振り向く。
なんだ? あれは……
そこにいたのは、灰褐色の不定形な物体。
アメーバーみたいに、グニャグニャと
まるで巨大なスライム。
いや、スライムの様な式神だ。
その
奴を縛っていたロープは、切られて床に落ちている。
そのロープの近くにいるのはネズミ式神。
そうか! ネズミ式神の奴、あの男のロープを切った後、僕らがそれに気が付かないように、自分に注意を引きつけていたのだな。
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