第55話 霊子ちゃん?

 その日、満員電車を三往復したが、痴漢は一人も現れなかった。他の女性、あるいはショタが狙われないかと式神が電車内を巡回パトロールしたけど、すべて空ぶりに終わる。


 そして三回目の後、僕たちは八名駅ホームに集まり、水上先生の霊を交えてミーティングを行った。


 しかし、集まったものの誰も溜息を付くばかりで発言する者はいない。


 口には出さないが、みんな疲れているようだ。


 そんな様子を見ていた水上先生が僕に話しかけてきた。


「憑代を頼めるかい? 疲れているならかまわないが」

「僕はかまいません」


 ただ、憑代の代金は六星先輩が払うので、本人の意向を確認してからでないと……


「六星先輩。先生が憑代を希望していますが、料金の方よろしいでしょうか?」

「いいわよ。ただし、領収書にサインしてね」


 そう言って六星先輩は、小さなチェックボードを差し出す。


 だが、そのチェックボードに固定されている書類は……


「あのう。それ領収書じゃなくて、入部届ですけど」

「あら? 間違えたわ」


 いやいやいや、わざとやったやろう。


 料金を受け取った後、僕の身体は先生の霊を受け入れた。


 僕の口を使って先生が最初に発した言葉は……


「六星君。ちょっと、頭を低くしてくれ」

「はあ?」


 六星先輩は言われた通りに姿勢を低くした。


 ちょっ! 何をするんですか? 人の身体を使って……


 先生は僕の右手を振り上げると、六星先輩の頭をこつんと叩いた。


「先生?」


 六星先輩は驚いたような顔で僕を……正確には僕に乗り移っている先生を見上げた。


「六星君。何度も言っただろう。嫌がる人を無理に勧誘してはいけないと」

「申し訳ありません。……ところでこれは本当に先生が言っているのですか? 社君が先生のふりして言っているのでは?」


 滅相もない!


「本人は『滅相もない』と言っているぞ」

「そうですね。それに今のコツンは、紛れもなく先生の叩き方でした。痛くないけど、愛情のこもった叩き方。やはり先生なのですね」

「分かってくれればいい。とにかく、君たちがクラブを存続させたい気持ちは分かるが、都合の悪い人や興味ない人を無理矢理入れても仕方あるまい」

「はあ」

「せめて、君たちの在学中だけでも存続させたいというなら、適当な人に幽霊部員になってもらえばいいじゃないか」

「幽霊の部員ならいますが、彼女に入部届を書いてもらうことはできません」


 六星先輩は部室に地縛霊がいることに気が付いていたのか。弱いけど、霊感のある人だから、声は聞けなくても姿は見えていたのかも……


「いや、そうじゃなくて……幽霊部員というのは……」

「分かっています。活動実績のない名簿上の部員ならすでにいます」


 いたのか。


「ただ、それとは別に本物の霊能者なら、ぜひ入部してほしいのです。そうすれば、霊子ちゃんともお話ができるし……」


 霊子ちゃん? 

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