第54話 ヤベー奴2

 そして翌日。超常現象研究会の部室で、例のごとく六星先輩が僕と樒に入部届へのサインを迫っていた時に電話が入った。


 相手は知らない電話番号だったが、出てみると女性の声。


『社優樹さんの携帯に間違えないですね?』

「はあ……そうですけど」

『○○警察署の柿見かきみと申します』


 どうやら婦警さんのようだ。


『実は矢部やべ とおるの拘留期限が切れまして、さきほど釈放されました』

「は? 誰ですか? その人」

『ああ! 名前は聞いていなかったのですね。社さんは先日、多摩線で痴漢被害に遭いましたでしょ? その犯人です』


 そりゃあ遭っているけど……どの被害の事だ?


 聞いてみると、どうやら僕が最初に痴漢に遭って、美樹本さんが捕まえたホモ痴漢の事らしい。


『大丈夫だとは思いますが、くれぐれも気をつけて下さい。必要がないのなら、多摩線には乗らないように』

「はあ。分かりました。ありがとうございます」


 まあ、相手はホモだし大丈夫だろう。


 電話を切ってから、大きな姿見に写る自分の姿を見た。


 そこにいるのは、セーラー服に身を包んだ少女。


 どう見ても男には見えない。


 この完璧な変装を見破れるはずがない。


「優樹。なに鏡見て、ニヤニヤしているのよ?」

 

 は! と我に返って振り返ると、樒がニヤニヤと僕を見ている。


 樒だけでない。三人の先輩たちも、部屋の片隅にいた地縛霊まで僕に視線を向けていた。


「ひょっとして女装趣味に目覚めちゃった? それならそうと言ってくれれば、私がいつでも手伝って上げるわよ」

「いらん! 目覚めてねえし。ただ僕は……」


 先ほどの電話の内容を話した。


「なるほど。この前のホモが釈放されたんだ」

「そう。だけど、女装していれば奴に狙われる心配もないだろう」

「それはどうかな?」

「どういう意味だ?」

「いや、別に……それより時間よ。出発しましょう」


 僕たちは地縛霊の少女に見送られ、最後の作戦へと出発した。

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