第53話 ヤベー奴1
家に帰った時、芙蓉さんから電話があった。
『優樹君。囮作戦はまだ続けるの?」
「いえ。明日を最後にしようという事になりました」
『そう。その方がいいわね』
「え? どういう事です?」
『君たちのやっている事が知れ渡ってしまったのよ。多摩線で、女子高生が痴漢狩りをやっているって噂が広まっているわ』
「ええ!?」
言われてみれば、これだけ派手にやれば知れ渡って当然。そういえば、金曜日にやったときに捕まえた痴漢は三人だけ。水曜日は六人、木曜日は八人捕まえたこと考えると減っているなと思っていたが、噂が広まって痴漢が警戒するようになってしまったようだ。
『詳しい事はメールを送ったから、そこあるリンク先を見て。会員制の掲示板だけど、メールに貼ったパスワードで見られるようなるわ』
さっそくパソコンを開くと、芙蓉さんからのメールが届いていた。
メールにあったリンク先を開く。
開いたのは『多摩線情報』というタイトルのスレッド。いったいどこのサイトだろう?
悪名高い某掲示板とも違うみたいだし……
掲示板一覧をクリックした。
「う! これは……」
そこにあったタイトルは『痴漢情報掲示板』。
どうやら痴漢たちが互いの情報を交換しようとして作ったらしい。
ちなみに芙蓉さんのメールによると、警察はとっくにこの掲示板を知っていて、痴漢を検挙するのに利用していたらしい。
パスワードは検挙した痴漢から入手したものだそうだ。今回は特別に警察から、この情報を提供してもらったと書いてあった。
それは良いとして、問題の『多摩線情報』を開きなおした。
そこにはここ数日、僕たちのやっていた事が書き込まれている。
ダメだ、こりゃ。痴漢達は警戒して、しばらく多摩線には現れないぞ。
ん? 新しい書き込み……
名無しの痴漢:しかし、なんだってその女の子たちは、そんなムキになって俺たちを捕まえるんだ?
そんなの当たり前だろう! 痴漢被害に遭った時のあの気持ち悪さ……
そうだ! この掲示板、僕も書き込めるんだよな。
書き込み画面は某掲示板と同じ。ハンドルネーム欄に何も書かないと「名無しの痴漢」になるそうなのだが、名無しでも痴漢は嫌だから、ハンドルネーム「M」で書き込んでみた。
M:なんでも女子高生たちの先生が痴漢の疑いをかけられて、逃げようとして事故死したらしいんだ。先生の冤罪を晴らすために真犯人を探しているそうだ。そいつさえ捕まえれば彼女たちもやめるらしい。
さて、反応は?
名無しの痴漢:マジかよ。迷惑な話だな。さっさとそいつ捕まってくれないかな。
よし、食いついてきた。
名無しの痴漢:しかし、本当に冤罪か? 本当はやっているんじゃないのか? だとすると永遠に捕まらないぞ。
名無しの痴漢:いや、数日前にそれらしき奴の書き込みがあったぞ。
ほら来た。こいつらなら、そういう奴の事を知っていると思っていたがビンゴだ!
M:その書き込みってどれ?
名無しの痴漢:「ヤベー奴」というハンドルネームの奴だ。このスレの最初の方にあるから検索してみな。
検索するとあっさり見つかった。
ヤベー奴は、このスレに二十以上書き込みがあるが、その中の一つに……
ヤベー奴:今日は女子高生に触っていたら、騒がれそうになったので、とっさに近くにいたおっさんに罪を擦り付けてやったぜ。
こいつだ! 書き込み日時から見ても間違えない。水上先生に罪を擦り付けたのは……
僕は芙蓉さんにこの事を電話で伝えた。
後は警察に連絡が行ってログを掘ってヤベー奴が特定されれば解決。
まあ、それには時間がかなりかかるだろうな。
明日の囮作戦で奴が捕まえられないときは、それを待つしかないか。
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