超常現象研究会

第36話 超常現象研究会

 その高校には、今は使われていない教室がいくつかある。


 少子化の影響で生徒数が減ったためだが、そんな使われていない教室の一つに張り紙がしてあった。


 張り紙には『超常現象研究会』と書かれている。


 その教室に三人の女子生徒が入っていったのは、ホームルームの終わった放課後のこと……


 三人とも整った顔立ちをしているが、どこか表情が暗い。


 まだ昼間だというのに、これから深夜の神社に行って藁人形に釘でも打ち込みに行きそうな雰囲気を漂わせていた。


 三人は三つの机を三角に並べてそれぞれの席に着く。


 三人の中のリーダー六星ろくぽし 和子かずこが厳かに宣言した。


「これより。円卓会議を始める」

「部長。円卓って……三角形ですけど……」


 つっこみを入れた部員の一人、小山内おさない 敏江としえを和子は睨みつける。


「私が円卓だと言えば円卓だ。円卓に見えないのは、おまえの想念力が足りないからだ」

「は。申し訳ありません。円卓に見えてきました」

「よろしい」


 和子は満足そうな笑みを浮かべた。


「さて、全員に集まってもらったのは他でもない」

「全員って言ったって、三人だけやん」


 部員の一人、華羅から 百合子ゆりこがボソッと突っ込むが和子は続ける。


「例の組織が、実在する事が分かった」

「おお!」「それは凄い」

「うむ。凄いだろう」


 そこで敏江が手を上げる。


「ところで部長。質問が」

「なんだ? 小山内」

「例の組織ってなんですか?」


 和子は盛大に転けた。


「馬鹿者! 霊能者協会に決まっているだろう」

「いや……それって……」「実在も何も、普通に知れ渡っているし、ニュースでも報道されていますが……」


 一瞬、和子は押し黙るが、すぐに気を取り直して続けた。


「実は、我が校に霊能者協会のメンバーが二人いる事が判明した」

「おお!」「その二人とは?」

「一人は一年生の神森かみもり しきみ

「あの大女ですね」

「もう一人は、同じく一年生のやしろ 優樹まさき

「あのちっこくて可愛い男の子ですね」

「うむ。知っての通り、あの二人は霊能者であるが、これまで我々の勧誘を頑強に拒んできた。理由は「バイトが忙しい」という事だったが、そのバイトというのが霊能者協会の仕事だったというわけだ」

「なるほど。すでにあの二人はプロだったと」

「となると、勧誘はますます難しいですね」


 二人の意見を聞いてから和子は不敵な笑みを浮かべる。


「心配ない。二人を入部させる策はある」

「おお!」「さすが部長。して、どのような策を?」

「二人とも、これを見ろ」


 和子は一枚の写真を机に置いた。


 写真には目を閉じてソファにもたれかかっている少女が写っている。


「部長……この女の子は?」

「これが女の子に見えるか?」

「「え!?」」

「よく見ろ。これは男の娘だ」

「どう見ても女の子ですよ」

「こんな平たい胸の女がどこにいる」


 部長のこの一言で、百合子が精神にダメージを受けたが、他の二人は気がつかなかったようだ。


「ほとんどの写真はパットが入っているらしく胸が膨らんでいるが、何枚かパットを入れ忘れて平たい胸のままの写真がある。これは女ではない。男の娘だ」

「なるほど」「で、この男の娘がなにか?」

「社 優樹の写真と比べてみろ」


 二枚の写真を比べると、ホクロの位置が同じだった。


「では、この男の娘は社君?」「こんな趣味があったんだ」

「いや、この写真はどれも目を瞑っている。恐らく意識がないのだろう」

「どういう事です?」

「私の想像だが、彼は霊能者協会の仕事で、悪の組織と戦う事になったのだと思う。その時に彼は敵に捕らえられ、このような辱めを受けたのだろう」

「なるほど」

「それは気の毒に……」

 

 そこまで言い掛けて、不意に百合子は厳しい目で和子を見つめた。


「部長。まさかと思いますが」

「なにかな?」

「この写真をばらまくぞと、社君を脅迫して入部させようという気ではないでしょうね?」


 和子の顔が一瞬ひきつる。


「私がそんな事をするような悪辣な女に見えるか?」

「見えます」「見え見えです」

「ううむ……鋭い読みだ」


 図星だったようである。


「さすが部長」「見直しました」

「まて……おまえら。ここは見直すところか? 見損なうところではないのか? こんなやり方卑怯だとか……」


 自分の考えが悪辣だという自覚はあるようである。


「なにを言っています。卑怯はほめ言葉ですよ」

「そうなのか? 小山内」

「ええ。作者の別の小説でも、イケメン主人公が『卑怯者は最高のほめ言葉』と言っていましたし」

「ううむ。そうか。しかし、我が部の顧問である水上先生に発覚したら、少々厄介なことになるぞ」

「ですね。先生は優しいけど、曲がった事は嫌いだし……」

「だから今の内にやるのですよ。先生はここ数日、学校を休んでいるし……」

「そうか。しかし、先生はなぜ休んでいるのだ?」

「さあ? インフルエンザじゃないんですか?」

「ううむ……長引くようなら三人でお見舞いに行くか」


 そこで、百合子が手を上げた。


「部長。社くんの事は分かりましたけど、神森さんはどうやって攻略するのです?」

「うむ。神森樒はかなり手強いと思っていたが、この女にも二つの弱点がある」

「「その弱点とは?」」

「一つはお金に弱い」

「そんなの私だって弱いですよ」


 敏江は空っぽの財布をわざとらしくふると、百合子は鞄から雑誌を取り出す。


「私も昨日ウーを買ったのでスッカラカンです」

「まあ待て。私は別に彼女を買収しようというのではない。もう一つの弱点をつく」

「「もう一つの弱点?」」

「それは男だ。神森 樒は社 優樹が好きらしい。だが、社 優樹はどうも神森 樒をウザがっているふしがある」

「なるほど、入部してくれたら仲を取り持って上げるというのですね?」「恥ずかしい写真で脅迫するよりずっとまともです」

「うむ。では作戦を立てよう」

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