第23話 マイヤーズカフェ
住宅街の中にポツンとあるその店は、どこか妙だった。
外見は壁一面に蔦が絡んでいるレンガ造りの洋館。
やはりセレブご用達の店か? と思って、中に入ってみると……
「あれえ? このソファ……」
入り口のソファに腰かけるなり、ミクさんはソファの破れ目を見つけた。
セレブご用達の店がこれでいいのか?
「アンティークな内装が売りの店だって」
スマホを見ながら樒はそう言うが、少なくともこのソファはアンティークというより単に古くてぼろいといった感じだな。
「樒。この店の事を、どうやって知ったの?」
「芙蓉さんがミクシイ日記に書いてあるのを昨日見つけたのだけど……」
芙蓉さんもミクシイやっていたのか……
店長らしき年配の女性が、案内にやってきたのはその時。
「マイヤーズカフェへ、ようこそ。美神楽様より伺っております」
僕達は店内に案内された。
しかし、店内の内装……アンティークなのはいいのだが、椅子もテーブルもあちこちに傷がある。
わざと傷を入れて古く見せようと言うのかな?
とりあえず、僕達は案内された席に着いた。
僕達の他に客はいない。貸し切り状態だな。
やはり、高いからかな?
「ねえ、優樹」
「ん?」
僕は樒の方を向いた。
「もう一度、聞かせてもらえないかな。その通りすがりの巫女の話」
「ああ、いいよ」
各地で、
話している間に、特大パフェが運ばれてくる。
「まふぁくい……ひはついふぇる」
「食べるか喋るかどっちかにしろ!」
樒は口いっぱいに頬張っていたパフェをゴックンと飲み込んだ。
「はあ! 美味しい!」
「で、何が言いたかったの?」
途端に樒は真顔になった。切り替えの早い奴……
「優樹、気が付いている?」
「何が?」
「
「なんとなくね」
そんな気がしていた。チャップリンの『キッド』という映画では、ガラス屋をやっているチャップリンはお金が無くなると、子供に家々のガラスを割らせていた。そしてガラスを割られた家の前をチャップリンのガラス屋さん
映画で見ている分には笑えるが、実際にそんなガラス屋がいたら悪辣すぎる。
この巫女も、
問題はどうやって現象を起こしていたか?
それはさっきの事件で……
「もひいはふぁひて」
ミクさんが口いっぱいにパフェを頬張っていた。
「ゴックン! はあ、美味しかった。もしかして、さっき取り逃がした能力者が、巫女と組んでいたのでしょうか?」
「僕もそう思うけど、問題はなぜ巫女はあそこに現れなかったのだろう? 資料によると、どの現場でも現象が始まってから三日以内に巫女は現れていた」
ミクさんは、しばらく考え込んでから話した。
「あたしが見たところ……と言っても、式神の目を通してだけど、あいつ能力を暴走させていたみたいなのね」
「暴走?」
「うん。あの能力者は、あの空き家に隠れていたと思うの。あそこなら、能力を暴走させても、誰にも気づかれないとでも思っていたのじゃないかな?」
樒が食べる手を休めて、ミクさんに顔を向けた。
「じゃあなに? あいつは隣の家に迷惑がかかっていたことに、気が付いてもいなかったって事?」
「そう。樒さんに九字を撃たれて、初めて気が付いて逃げ出したのだと思う」
ミクさんはパフェを一口食べてから続けた。
「あたしもね。怒りの感情が高ぶってくると、式神が暴走しそうになる事があるの。たぶん、あいつもよっぽど頭に来ることがあったのね」
ウサギ式神が暴れても、たいした事ないと思うけど……
「でも変じゃない」
母さんが資料を見ながら言う。
「さっき逃げた能力者は磁気を操る能力者でしょ。だから鉄しか動かせないはず。でも、現場では鉄以外の物も飛び回っていたというわよ」
そうか。それじゃあ、あの能力者は無関係なのかな?
だとすると、巫女の仲間はどうやって
生霊といえば、式神も生霊みたいな物だな。
「ミクさん。式神で
「ん? できない事はないけど、あたしは無理。式神が物質に干渉するには、凄いエネルギーが必要なの」
「しかし、さっき車のドアロックを……」
「そのぐらいならね。だけど、お皿とかコップとかを宙に浮かべて飛び回らせるなんて事やったら……」
そこで、ミクさんはパフェにスプーンを突きたてた。
「このパフェ、十杯ぐらい食べないと……」
「そうか」
「試にやってみようか」
店員呼んで取り皿を持ってきてもらった。
ウサギ式神が皿を一枚持って宙に浮きあがる。
「うううん」
しばらくミクさんは唸り声を上げていた。
「プハ! 限界」
皿がウサギ式神の身体を通りぬけて落下した。
「危ない」
床に落ちる前に、母さんが皿を受け止める。
「割らないで頂戴よ。弁償させられちゃうから」
「ごめんなさい。ハグ! ハグ!」
謝りながら、ミクさんはパフェを夢中で食べまくった。
「ちょっと、ミクちゃん! 私の分まで食べないでよ」
樒まで負けじと、パフェにスプーンを立てる。
「はあ……エネルギー充填完了」
皿一枚で、こんなに疲れるのか。
「優樹」
樒に声をかけられ振り向いた。
「私達、さっきの奴を能力者と言っていたけど、電磁能力者と呼ぶことにしない?」
「そうだな」
「それで、電磁能力者と、式神使いが組んでいるという事は考えられないかな?」
「どういう事?」
「式神使いでは派手な事はできないけど、鉄以外の物も動かせる。電磁能力者は鉄しか動かせないけど、派手な演出は出来る。電磁能力者が鉄製品を激しく飛ばしている時に、式神使いがそれ以外の物を厳かに動かしていたのじゃないかな? 被害者は恐怖のあまり、鉄とそれ以外の物の動きに違いがある事が分からないと思うし」
「ううん……組んでいたのは確かだが、それ以外の方法じゃないかな?」
「どういう事?」
僕は答えないで、スマホを操作して文章を書いて樒に見せた。
『さっきから店内を五体の小人がうろついているけど、気が付いている? 気が付いてないなら、無言で首を横にふって』
そう。五分ほど前から、小人の様な生き物が店内を動きまわっていたのだ。
樒は無言で首を横にふる。
続いて母さんとミクさんにスマホを見せた。
二人とも首を横にふる。
ミクさんが気が付いていなかったというなら、ミクさんの式神ではない。
こいつらいったい何者?
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