第24話 騒霊現象のからくり
最初見た時はネズミかと思ったが、人の姿をしている。まるで妖精だ。
ミクさんの式神ではないみたいだが、誰かの操っている式神の可能性がある。
だとすると、こいつらの見聞きした事は術者も見聞きしているはず。
だから僕は奴らに聞かれないように、スマホを使った筆談でみんなに伝えたのだ。
みんなが小人に気が付いてなかった事を確認すると、僕は次の文をスマホに書いた。
『小人を見ても、気が付かないふりをして』
そう書いたスマホを樒、ミクさん、母さんに回し読みさせた。
続いて店長を呼ぶ。
「いかがいたしまたか?」
「芙蓉さん……いえ、美神楽さんは、この店の常連さんなのですか?」
「いえ……昨日初めていらっしゃったのですが……その時は店内が……その、少しばかり荒れていたので……十分なおもてなしができなかったので……」
少しばかり? いや、おそらくその時は、少しなんてものじゃなかったのだろう。さっきから、店内をうろついている式神が
「荒れていたと言うのは、
オープンしたばかりの店なのに、テーブルや椅子が傷だらけの理由はそれで説明が付く。
一方、
「ポルター? なんでしょう? それは」
「家具が宙に浮かんで飛び回るという心霊現象です」
「し……知りません! そんな事……」
一瞬狼狽えたところを見ると図星の様だな。だが、この様子だと、素直に答えてくれそうにない。当然だな。おかしな評判がたったら、店の存亡に関わるからね。
「妙な事を聞いてすみません」
店長が店の奥へ引っ込んでから、僕は小声でみんなに言った。
「この店でも、
「でもさ……」
樒が店内を見回した。
「芙蓉さんは、なんでその事を黙っていたのかしら?」
「さあ? 芙蓉さんの考える事は……」……なんとなく分かる。
芙蓉さんは、まだ樒を疑っていたのだろう。
何らかの情報網を通じて、この店で
もし、樒が件の巫女だとしたら、店の名前を聞いて動揺したはず。
だが、樒は店の名前を聞いてもあっけらかんとしていた。
この事を樒に教えたら、あいつまた怒るだろうな。黙っていよう。
「優樹。さっきの店長の態度どう思う?」
「どうって?」
「なんか、
「そりゃあ、そうだろう。知られたら店の評判がた落ちだからね」
「でも、この時間に客がさっぱりいないという事は、もう悪い噂は広まっているんじゃないの?」
そう言って樒はスマホを操作する。
「ああ、やっぱり。この店の評判が書いてある。『スイーツは美味しいけど、何かに憑かれているみたい』とか『午後四時になると決まって変な事が起きる。もう怖いからいや』とか」
午後四時? 時計を見ると……
「午後四時まで、五分しかないぞ」
それを聞いて樒は慌てる。
「それは大変! 急がないと」
樒は構えた。
「ミクちゃん! 手伝って」
「はい」
ミクさんも構えた。
二人して、スプーンを……
「それ!
「パフェを全部片付ける!」
二人して、猛烈な勢いでパフェの残りを平らげていく。
「優樹。あんたも早くお茶を飲んじゃいなさい。零されたらもったいないでしょ」
母さん……あんたもか……
「僕、猫舌なんだけど……それより、母さん。芙蓉さんがこの店を指定したのは偶然だと思う?」
「思わないわね」
母さんもやはりそう思っていたか……その時、小人がテーブルに登って来た。
小人の身長は三十センチほど。背中に大きな籠を背負っていて肩には両面テープを引っかけている。性別は分からないが醜い顔をしていた。
小人は油断なく僕らを見回した。自分の姿が僕らに見られていないか確認しているようだ。
母さんも、樒も、ミクさんも見て見ぬふりをしている。
安心したのか小人は作業を開始した。
籠の中から何かを取り出し、それに両面テープを貼り付けていく。
もう一人、小人が登ってきて、その何かをテーブルの上にあった皿やカップ、伝票入れに貼り付けていた。
いったい何を貼り付けているのだ?
小人たちがテーブルから降りた後、僕は皿の裏に貼り付けてある物を確認した。
小さな金属片?
コンパスを近づけると、金属片に吸い寄せられた。
という事はこの金属片は鉄。
突然、コンパスの磁針がグルグルとまわりだした。
「始まったぞ!」
店内にある皿や花瓶、クッションなどが宙に浮かび上がった。
僕達は咄嗟に、テーブル下に隠れる。さっきまで、自分達が座っていた椅子を盾替わりして防御を固めた。僕の持っている椅子に物がガンガンぶつかってくる。
テーブルの外でも、皿や花瓶クッションが飛び交っている様子が、椅子の隙間から見えた。
宙に浮いていた花瓶が突然床に落ちて割れた。花瓶に張り付けてあった鉄片が剥がれたのだろう。
なるほど。最初に式神が店内の物に鉄片を貼り付けていく。準備が終わったら、電磁能力者が強力な磁界を発生させて
「痛!」
ミクさんが額を抑えていた。伝票入れが当たったみたいだ。
「ミクさん。大丈夫?」
「あたしは大丈夫だけど……式神のコントロールが……」
そうか! 式神で電磁能力者を探していたのだな。
「母さん。樒。ミクさんを守ろう」
僕達は三方に向けて椅子を構え、テーブルの下に飛び込んでくる物体からミクさんを守った。
「見つけた! 能力者はあっちよ!」
ミクさんの指差す先に樒が右腕を向け、素早く九字を切る。
「
現象が突然治まった。
浮いていた物体はすべて床に落ちる。
恐る恐る、僕達はテーブルの下から出てきた。
「ミクちゃん。奴は?」
樒の質問にミクさんは首を横にふる。
「式神をやられちゃった」
「ええ!? 式神をどうやって?」
「何か雷のような光線で、憑代が焼かれちゃったのよ」
「憑代って?」
ミクさんは懐から、人型に切りぬいた紙を取り出した。
「これが憑代よ。式神の中には、これが入っているの」
そう言って、ミクさんは人型を床に叩きつけた。
「
紙の人型はムクムクと膨れ上がりウサギの姿になる。ウサギは後ろ足で立ち上がり直立するとミクさんに向かって頭を下げた。
「申し訳ありません。ミク様。油断しました」
「奴に何をされたの?」
「奴は電撃能力を持っていました。それに憑代を焼かれてしまったのです」
電撃!? ひょっとして樒のバイクをパンクさせたのも……
「そっか。やっぱ紙の憑代は火に弱いからね。耐熱素材に変えないと」
ミクさんがそう言った時、突然、客室のドアが開かれた。
店長かと思ったら、そこに立っていたのは……
「芙蓉さん?」
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