第19話 緊急出動

 マイページにはこう書かれていた。


エラ「やいアトラス! この卑怯者! 反撃できないレベルの者を攻撃して恥ずかしくないのか! さっさとレベルを上げて私の反撃を受けろ! どうした!? 怖くてレベル が上げられないのか! それでも男か!」


 オフ会参加者達が、それぞれのスマホやガラケーから、僕のマイページを見ていた。


 見た人は、次々と目が点になっていく。


 しばらくして、誰かが呟くように言った。


「どの口で言うか?」

「本日の『おまえが言うな!』はこれですか?」

「まったく。散々、ミクにレベル差攻撃をやっておいて、自分がやられたらこれかよ」


 みんな笑いながら言っていたが、キョウさんだけが一人真剣な顔をしていた。


「まずいわね」


 そう言ってキョウさんは、スマホを操作する。

 しばらくして、スマホを見ると僕のページに新たな書き込みがあった。

 

キョウ「アトラスさん。気にする事はありません。エラはレベル差攻撃の常習犯です。自分は散々やっておいてどの口で言いますか」


「キョウさん。僕は隣にいるのだから、何も書き込まなくても……」

「この書き込みはアトラスさん宛ではありません。アトラスさんのマイページを訪れた他のユーザーに見せるためです。事情を知っている者がエラの書き込みを見ても笑うだけだけど、事情を知らない人がエラの書き込みを見たら、アトラスさんが一方的にレベル差攻撃をやったと思われてしまいます」

「え!? マジ」

「さらに、みんなからの依頼でアトラスさんが攻撃したユーザーは、エラに便乗して抗議を書き込んでくるかもしれない。そうなるとこの掲示板が炎上します」

「炎上!」


 今まで、他人事のように考えてきたネット炎上が自分の身に起きるとは……


「だから、ここでアトラスさんに復讐を依頼した人は、すぐにアトラスさんのマイページにお礼を書き込んで。そうすれば、アトラスさんが一方的にレベル差攻撃したのではないと、分かるから」


 キョウさんに言われて、みんなが一斉にスマホを操作し始めた。


 僕のマイページに新たな書き込みが増えていく。


ミク「アトラスさん、エラをやっつけてくれてありがとう。あいつ、いつもあたしをイジメるんです」


 ミクさん可愛いな。


ビーナス「アトラス。ありがとう。今度デートしてあげる」


 いらん……


カール「報復代行に感謝。報酬は、スイス銀行の口座に……」


 ゴルゴ(笑


 その時、エラの新たな書き込みがあった。


エラ「アトラス。貴様、ミクの刺客だったのか。だが、許さんぞ。今すぐレベルを上げろ! 上げなければ、お前の居場所を突き止めて殺してやる」


 うわ! ヤバイ奴だと思っていたけど、ここまでとは……


「やった! 殺人予告だ。これで通報できる」

 

 誰かがそんな事を叫んだけど、人事だと思って喜ばないで欲しいな……


「アトラスさん、ゴメンね。面倒に巻き込んで」


 ミクさんが心配そうな眼差しを僕に向けていた。


「心配ないよ。どうせ、僕の居場所なんて特定できるわけないし、ネットでいきがっている奴なんて、どうせリアルでは何にも出来ないんだから」


  僕がそう言った直後、さらにエラが書き込んできた。


エラ「こら! アトラス! 自分の居場所を特定できないとか、ネットでいきがっている奴なんか怖くないと思っているだろう? 甘いぞ! 私は必ずお前の居場所を突き止める。そして復讐してやる」


 妖怪サトリか? こいつは……


「まあ、気にすることないわ。エラがどんなに騒いだって、なんにもできないから」


 キョウさんがスマホを掲げていた。


「それより、オフ会を楽しみましょう。せっかくマスターが入れてくれたコーヒーが冷めてしまうわよ」


 その後は、普通のオフ会になった。ただ、以前に樒に連れて行かれたオフ会と違って、ボッチになる事はない。

 考えてみれば、前に行ったオフ会は、ただ『集まってお話しましょう』という呼びかけで集まった人達の会。どんな趣味の人が来るのか分からないし、年代もバラバラ。

 話の輪に入るのは難しくて当然。


 それにあの時、僕は自己紹介で『霊が見えます』なんて言ってしまった。その時点で危ない奴だと思われたのかもしれない。

 それに対して、今回は共通の趣味で集まった人達だし話は合う。僕と樒が霊能者だと言っても引く人はいない。


 ただ、ミクさんの式神は信じてもらえなかったけど……


「だからさ、俺も幽霊は信じるんだよ。でもな、式神はさすがに実在しないだろ……」


 そう言っているカールさんの頭上にミクさんのウサギ式神が乗っかって、カールさんの額を前足でペシペシ叩いている様子を見て、クスクス笑っているのは僕と樒だけだったようだ。


 僕のスマホが鳴ったのは、宴会も終わりに近づいた時……


 相手は芙蓉さんだった。


『優樹君。そこに樒さんはいるかしら?』


 わざわざ電話で確認かな?


「いますよ。どうしました?」

『近くの住宅で騒霊ポルターガイスト事件が起きたのよ』

「え? という事は、樒への疑いは晴れたのですか?」

『いえ。まだ、巫女が現れていないわ。でも、現象もまだ治まらなくて、住民が怯えているの。樒さんを連れて、大至急現場に行ってほしいのよ』

「でも、僕はバイクが無いので……」

『大丈夫。お母さんの車が店に向かったわ。そろそろ店に着く頃だから、それに乗ったら、樒さんに後からついてきてもらって』

「分かりました」


 僕は樒の方を向いた。


「しき……ビーナス! 協会から出動要請だ」

「何があったの?」

「この近くで、騒霊現象ポルターガイストが起きているらしい」

「分かったわ」


 僕達はキョウさんたちに事情を話した。


「悪霊が出て緊急出動って……なんかカッコイイわね」

「俺も着いて行っちゃダメか?」

「カールが行っても邪魔になるだけよ」

「がんばれ! 次のオフ会で話聞かせてくれ」


 店の外へ出ると、すでに母さんの車が駐車場に止まっていた。


「じゃあ、僕は母さんの車で現地へ向うから、樒は後から着いてきて」

「分かったわ、ところで優樹」

「なに?」

「さっき、私への疑いとか言ってわね」

「う! それは……」

「後で、ゆっくり話を聞かせてもらうわよ」


 やば…… 

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