第15話 オフ会をサボるには
以前に何度か、
一つの店に大勢集まって、お茶を飲みながら皆で会話するのだが、僕はいつもそういう会話について行けない。
芸能人とか興味ないし、車とか興味ないし、野球もサッカーも興味ないし……
みんなが楽しそうに会話する中、一人だけ会話に混ざれないでお茶だけ飲んで、ボッチ感に苛まれる。
そんな時、僕はいつもこう思っている。早く帰りたい……早く帰りたい、早く帰りたい! と……
やはり明日は風邪をひいたと言って、サボろうか?
いや、もうすでに
明日は出かけたフリをして、図書館でずっと本でも読んで過ごして……
問題は、芙蓉さんになんて報告するかだが、要は樒が本当にオフ会に参加していたかを報告すればいいだけの事。ゲーム仲間の中に一人信用できる人がいるので、その人にメッセージを送って樒の出席状況を確認してもらえばいい。
僕はスマホを取って、ミクシイのページを開いた。
数少ないマイミクの中から、スピカさんを選択する。
スピカさん。本名は
二週間前に、僕はこの人から、お姉さんの霊を呼び出してミクシイアカウントのパスワードを聞き出す仕事の依頼を受けている。その時に聞いたのだが、スピカさんはギルドが違うけど明日のオフ会に行くようなことを言っていた。
樒の監視は、彼女にお願いしよう。
アトラス「こんばんは。スピカさん。ちょっとお願いしたい事があるのですが、明日のオフ会、僕は行けません。なので、後でオフ会の様子を教えて欲しいのですがよろしいですか?」
メッセージの文面はこんなものでいいかな?
程なくして返事が返ってきた。
スピカ「こんばんは。様子をお伝えするのは構いませんが、どうして来られないのですか? みなさん、会うのを楽しみにしていますよ」
僕なんかに会ったって、いい事なんかないだろうに……
スピカ「特にミクさんが、あなたに会いたがっています」
え? ミクさんが? なんで?
ミクさんって言ったら、僕の所属ギルド・パルテノンのエースでレベル八百以上。かなりの重課金者らしい。一方で、僕は無課金で、レベルは百六。ギルド戦では、後衛からチマチマ攻撃したり援護したりしている程度の戦力。
は! まさか! 僕に直接会って『あんたなんてギルドのお荷物だわ。追放よ』とでも言う気では……
いやいや、それなら直接会って言う必要もないか。
とにかく、返事をしないと……
アトラス「すみません。僕はこういう集まりは苦手で、あまり参加したくないのです。行っても、会話が苦手だし」
スピカ「この前、直接お会いした時は、普通に私と会話していましたよね」
確かにあの時は普通に会話していたけど……
アトラス「あれは、仕事の話だから……芸能人の話とか、スポーツの話とかされても分からないし」
スピカ「大丈夫ですよ。このオフ会に来る人はオカルト好きが多いから。本物の霊能者なら、大歓迎ですよ」
そういう人達の集まりなのか。それなら……いやいやもう一つ問題が……
おや? スピカさんから、またメッセージが……
スピカ「五日間ゲームにログインしていませんね。その間にあなたへのマイページの掲示板に書き込みが溜まっていますよ。明日行くか行かないかは、それを見てからにしてはいかがですか?」
五日? そういえば、勉強が忙しくて、ゲームをやっていなかったけど、五日もログインしていなかったか……
スマホを操作してミクシイゲーム「陰陽師平安戦記」のページを開いた。
これは、プレイヤーが陰陽師になって式神を操り、平安京を荒らす妖怪変化を退治するというゲーム。
舞台は平安時代の日本のはずなのに、通貨が小判だったり、ギルドなんてあったりと色々変な設定だ。
高速道路の霊事件ときにアカウントを作った後、樒に勧められて少しだけやってみるつもりで遊んでみたが、気が付いたら一晩中ゲームをやっていた。
その後は、気が付くとスマホを手にしてはプレイしている状態。
まるで中毒だ。
まあ、それはいいのだが、僕のマイページに書き込みって?
ミク「こんにちは。アトラスさん。明日はオフ会だよ。今度こそ来てね」
キョウ「アトラスさん。オフ会で会いましょうね。霊の話聞かせてね」
「うわわわ!」
は! 思わず混乱して、大声を上げてしまった。
オフ会に行きたくないもう一つの理由はこれ……
数か月前の僕を殴りたい。なんでアトラスなんて、名前を付けてしまったんだあ!
アトラス。ギリシャ神話に出てくる天を支える巨人。そんなミクシイネームを着けている人はどんな人か? 筋骨たくましいスポーツマンというイメージだろうな。
だが、その実態は小学生並のチビ。
明日、行ったら絶対笑われる、馬鹿にされる、嘲笑される。『プッ! こんなチビがアトラス』『ありえない! チビのくせに』
やはり明日は……
トントン!
不意にドアがノックされた。入って来たのは母さん。
「優樹。さっきの大声はなんなの?」
聞こえていたか。
「ちょっと、足を机にぶつけて」
「そう。ところで、さっき霊能者協会の人から電話があったけど、あんた明日、オフ会行くそうじゃない。なんで言わないのよ?」
クソ! やっぱり芙蓉さんから連絡が行っていたか。
「いや……別に話すことじゃないし……やっぱ、高校生がこんなのよくないよね」
「何を言っているの。あんた、ただでさえ、友達少ないのだから、そういうのはもっと行って社交性を身に着けなきゃだめでしょ」
「ええ……でも……」
「私に言わなかったのは、さぼる気だったからじゃないでしょうね?」
「そ……そんな事、あるわけないだろう」
「そう。じゃあ、明日は私が車で送ってあげるわね」
「い……いいよ。明日はバイクで行くし。母さんだって忙しいだろ……」
「大丈夫よ。私も明日は、霊能者協会に行くから、そのついでよ」
「ついでって……オフ会の会場知っているの?」
そもそも、僕だって会場の場所をまだ確認していない。サボる気満々だったので……
「それは、さっき樒ちゃんに聞いておいたから」
「いいよ。バイクで行くって」
「ダメ。あんた先月も、樒ちゃんからオフ会に誘われたのに逃げたそうじゃない。バイクで行かせたら、そのまま図書館に一日中に隠れていそうだから」
なぜ、分かった!? 母さん、あんた霊能力だけでなくテレパシーもあるのか?
「明日は、お母さんとドライブしましょうね」
「やだよ。高校生にもなって、母さんに送ってもらうなんて」
「大丈夫。あんた、私服なら小学生にしか見えないから」
ヒドイ! 息子が一番気にしていることを……母さんは、僕を愛していないのか!?
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