第14話 疑惑
「と言った事件が、多発しているのです」
そろそろ、日も暮れかかる時間だ。
それにしても、芙蓉さんは何だって僕を呼びつけたりしたのだろう?
「
「どうって……ごく普通の
いや、世間一般ではそういうのを
「そうじゃありません。私が聞いているのは巫女の方です」
「はあ?」
「優樹君。あなたも霊が近くにいたら分かりますよね?」
「ええ、霊能者ですから」
「では、道を歩いていて、たまたま
「あんまし、なかったかな?」
というか、遭遇した覚えがない。霊能者協会の仕事で関わった事はあるが、
では、その巫女はなぜそこにいたのか?
「そういう事も、あるんじゃないかな?」
「一回なら、偶然ということもあるでしょう。しかし、その巫女はここ一ヶ月の間に確認されているだけで、
一ヶ月の間に十回? そりゃあ、偶然じゃないね。
「証言を聞いたところ、巫女は同一人物の様です。霊能者と言えども、心霊事件を遠くから感知する事はできません。霊能者協会に通報があって、協会を通じて霊能者が派遣されるのです」
「それは知っていますが……」
「では、この巫女はどうやって、心霊事件の現場に現れるのか?」
「ううん……被害者が事件をネットに書きこんだのでは……」
「ネットに書きこめば、真っ先に霊能者協会のボットが察知します。それに今回の被害者は、誰もそんな事はやっていません」
「というと?」
「協会とは別の情報網を持った組織があるという事です」
「はあ……つまり、霊能者協会がもう一つあるという事ですか? 別にいいんじゃないですか。心霊事件は、別に協会が独占しなくても……」
「いいえ。この組織が協会と同じルールで運営しているなら問題ありません。しかし、そうではない」
「というと?」
「まず、その巫女は社員に恨まれている社長を、霊が見つけ出していると言っていましたが、こんな霊がいると思いますか?」
「いないでしょうね」
心霊現象自体は本当だとしても、報酬を吊り上げるために被害者が怖がりそうな嘘をつく悪質な霊能者っているからな……
「それだけじゃない。通りすがりの巫女のはずなのに、被害者の旦那が会社経営者だと知っていました。被害者は霊能者だから分かるのではと思っていたようですが、知っての通り霊能者と言えども、そんな事は分かりません」
「つまり、最初から会社経営者だと知っていた?」
「会社経営者と知っていたので、そういう人が怖くなりそうな嘘を言ったのです。そして、ブラック企業云々も、会社経営者の妻が日頃から抱いていそうな不安をかきたてるために言ったと思われます。最後に、霊から見えなくするというありえない御札を高額で売りつけました。明らかに詐欺です」
「ちなみに、御札の値段は?」
「百万円」
うわわ! ひでえ!
「協会としても放置できないので、この巫女を特定して対策を立てる事に決まりました」
「はあ、そうですか?」
それで、僕なんかに何をしろと?
「被害者の証言によれば、巫女の年齢は十代から二十代の若い女です」
「そうですか」
該当する霊能者なんて一杯いるよな。
「その巫女は、女性にしては背が高いそうです」
なんとなく……なぜ僕が呼び出されたのか、分かってきたような……
「優樹君。最近、
やっぱし……だけど……
「樒を疑っているのですか?」
「協会所属の女性霊能者で、あれだけ背の高い人はいません」
「それ言ったら、芙蓉さんだって」
「う!」
僕の前では座っていることが多いから気が付かなかったけど、この人は立ち上がると樒と同じぐらいの身長がある……くそ! うらやましい!
「私の事はいいです」
いや、よくないと思うけど……
「それとも、優樹君は私がそんな事をする女に見えますか?」
「見えません。けど……樒だって……ここまであくどい事は……」
やらないとは、言い切れないな……
「優樹君。どうなのです?」
「特に、これと言って怪しい事は、なかったと思いますが……」
「先月、彼女が除霊の仕事を断った事は知っているかしら?」
「はあ、知っています」
「あの金の亡者の樒さんが、お金になる除霊の仕事を蹴るなんて考えられません。何か、他で、もっと儲かる仕事を見つけたのでは……」
「断った理由なら知っています」
「知っているの?」
「あいつ、オフ会に行ったのですよ」
実は僕もそのオフ会に誘われていた……というより強制連行されそうになって逃げだしていたのだ。
「オフ会?」
「はい。あいつ、ミクシイゲームにはまっているのです。金に汚いのはそれが原因なのですよ。先月はそのゲーム仲間のオフ会があったのです。他の事なら儲け話を蹴るはずありませんが、ゲーム関連の事ならそっちを優先するはずです」
「そういえば、そんな事を言っていたわね。優樹君も、そのオフ会に行ったの?」
「いえ……僕は……」
「ダメじゃない。監視役の君が行かないと……本当にオフ会なのか分からないでしょ」
監視役と言ってもなあ……監視役手当があるわけじゃないし……引き受けてしまったものはしょうがないけど……
「そうは言っても……僕は関係者じゃないし……」
本当は関係者だけど……
「あなた、前にミクシイアカウント取ったと言っていたじゃない」
「あれは事件解決のためです。アカウントは取ったけど、絶賛放置中で……」
「見せなさい」
芙蓉さんが手を差し出した。
「何を見せるのです?」
「スマホです」
僕はポケットに手を突っ込んだ。
「あれ? 家に置いて来ちゃったかな?」
僕がそう言った直後、僕の鞄からスマホの着信音が鳴った。僕が取るよりも先に、芙蓉さんに鞄を開けられスマホを取られてしまった。
「芙蓉さん。返して下さいよ。電話に出ないと……」
「大丈夫。電話を鳴らしたのは私です」
「ひどいなあ」
「優樹君……このゲームって放置しておいても、レベル百までいくものかしら?」
「い……いや……放置しようと思ったけど……やってみたら、意外と面白くて」
アカウント作るだけのつもりだったのに、不覚にも僕までゲームにはまってしまっていた。課金だけはしないようにしているが……
「ところで、ミクシイ内のメッセージが届いているけど」
「勝手に見ないで下さい!」
「あら? ごめんなさい。勝手に見るのはプライバシーの侵害だったわね。でも、オフ会の誘いみたいだけど。それも明日」
「そうですか」
「樒さんも、これに参加するのよね?」
「たぶん」
ていうか、参加すると学校で言っていた。僕にも来いと言っていて、必死で逃げてきたのだ。
「明日は学校休みだったわね」
「そうですけど」
「行ってくれるわね?」
「あ……明日は、協会の仕事が……」
「大丈夫。その仕事は私の権限でキャンセルして、他の人に行ってもらうから」
「そんなあ」
「楽しんできてね」
「僕は、人の集まるところが苦手なのですけど……」
「苦手なの? それなら、ますます行かないと……」
「どうして、そうなるんです!?」
「苦手だからと言って、逃げてばかりいてはいけないわ。こういう事は克服しないと、大きくなれないわよ」
「これに参加したら、背が伸びるとでも?」
「伸びるかもしれないわよ。試に参加してきなさい」
「はあ」
よし。明日は寝坊した事にしてサボろう。
「優樹君。お母さんにも連絡しておくから、サボっちゃだめよ」
読まれてた。
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