通りすがりの巫女

第13話 騒霊の家

 その家は、何の変哲もない木造モルタル二階建ての一軒家だった。

 築一ヶ月にもならない真新しい家で、家族も三日前に引っ越してきたばかりである。

 家主は五年前に脱サラした後、IТ企業を立ち上げた実業家だった。

 起業当初は、家族そろってボロアパートに住んでいたが、会社の業績がよくなり収入も増え、ついに一軒家を建てることにしたのである。

 そして、これから楽しい生活が始まる……はずだった。


「キャー!」


 家の中から、女性の悲鳴が響きわたった。

 家主の妻の声だ。


 妻がいるのは、リビングルーム。


 そこでは皿や鍋、花瓶などが空中に浮かび飛び交っている。


 所謂、騒霊現象ポルターガイストだ。


「ママ! 怖いよ!」


 五歳になる息子が、怯えて母親にしがみついていた。


 この家に引っ越したその日から、この家族はこの現象に悩まされてきたのだ。


「誰か、助けて!」


 女性がそう叫んだその時、突然玄関が開いて巫女装束の女が家の中に駆け込んでくる。

 巫女は払い串を取り出し……


「悪霊退散!」


 途端に騒霊現象ポルターガイストは収まった。


「大丈夫ですか?」


 巫女は、女性に手を差し伸べる。


「はい……あの……あなたは……」

「私は、通りすがりの巫女です。邪悪な霊の気配を感じたので、駆けつけてきました」

「あ……ありがとうございます」

「まだ、安心できません」

「え? また、霊がくるのですか?」

「はい。今は一時的に払っただけです。今の霊は、ブラック企業で過労死した男の霊。だから、ブラック企業の経営者に憑り着くのです」

「うちの人の会社は、ブラック企業なんかではありません」

「奥さん。ブラック企業の経営者というのは、自覚していない事が多いのですよ」

「そんな……うちの人は社員の人達に無理な残業なんてさせていませんし、お給料だってきちんと払っています。一年に二度も社員を慰安旅行に……」

「奥さん。会社員が本当に、慰安旅行なんて望んでいると思いますか?」

「え?」

「むしろ、イヤイヤ参加している社員だっているのですよ。それを一年に二度もやったら、そりゃあ恨まれます」

「そんな……」

「まあ、それはともかく。あの霊はお宅の会社とは関係ありませんが、社員に恨まれている社長を見つけだして憑りつくのです」

「どうすればいいのですか?」

「この家を、霊から見えなくしてしまえばよいですが……それには御札が必要です」

「御札?」

「ただ、その御札が大変高額でして……」

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