第8話 遺留品
翌日、再び料金所を訪れた僕と樒を、数十枚の写真が待っていた。
「これが、被害者の持ち物です。ただ、どれが女性の物かは分かりませんが……」
化粧品、コンパクト、財布、ヘアブラシなどが写った写真に僕は目を通していった。
「だけど、
「昨日の霊が、何を言いたかったか、分かるかなと思ってね」
「そんな事を知ってどうするの?」
「どんな未練があるのか分かれば、強制除霊しなくても成仏させられるかもしれないだろ」
「そんな面倒なことしなくても、今度会ったら私の九字切でぶっ飛ばせば済むことでしょ」
こいつ……ひょっとして僕は、思い違いをしていたのかも……
「なあ、樒。一度聞きたかった事があるのだが」
「なに? スリーサイズなら秘密よ」
そんな物に興味はない。
などと言ったら、またヘッドロックをかけられそうだからやめとこう。
「なんで、パスワードの聞き出しなんて地味な仕事を引き受けるのだい? 除霊の方が、実入りがいいだろう」
確か、除霊は一件につき五万円の報酬があったはず。
「だってさあ、芙蓉さんがそれしか回してくれないんだもん」
やっぱり……
「なぜ?」
「知らない。私が聞きたいわ」
「まあ、だいたい想像はつくけど」
「どういう事よ?」
「君は除霊する時、問答無用で霊に九字をぶつけて霊界に追い返しているのだろう?」
「そうよ。それが何か?」
「協会の規定では、まずは霊の話を聞いてあげて、なるべく穏便に成仏させる。強制除霊は、霊が悪霊化した場合だけ使う。という事だったと記憶しているけど」
「そんなかったるい事やっていられないわよ。九字で一気に吹き飛ばせば簡単じゃない」
「そういう事ばかりしていると、協会から除名されるよ」
「大丈夫、大丈夫。強制除霊した後で、協会には『悪霊化していました』と
報告すれば、協会としては調べようがないから」
こいつは……
間違えで一般人を射殺してしまった後、犠牲者の死体に拳銃を握らせて『抵抗されたので仕方なく射殺しました』と報告する某国の警官みたいな事を……
「優樹。あんたまさか、今の事を芙蓉さんにチクる気じゃないでしょうね?」
「チクらなくても、その手口はとっくに芙蓉さんには知られていると思う」
「なんでよ?」
「君に、除霊の仕事が回らない理由が他に考えられるか?」
「なるほど。思いもつかなかったわ」
思いもつかなかったんかい!
アホはほっておいて、僕は写真に目を戻した。
スマホの写真がある。
これは恐らく男性のだろう。
スマホが残っていれば、身元はすぐに分かるはず。
ちなみに男性と女性の関係も、まったく分かっていないそうだ。
男性の家族にも、勤め先の人も、まったく心当たりがないという。
「女性のスマホは、なかったのですか?」
まあ、それがあったら苦労はしないが……
「ありません」
「残骸も、なかったのですか?」
「ええ。車の中にも、その周辺にも」
ならば、まだどこかに……
不意に、樒が一枚の写真を拾い上げる。
「これ、年賀状じゃないの?」
「ああ、それは男性の持ち物でした。これから、出す予定だったようで、同じ葉書が数十枚ありまして……」
あれ?
「ちょっと、見せて」
僕は樒の持っている写真を取って見つめた。
「池田さん、これもっと引き伸ばせませんか?」
「できますよ。元のデータは、PCに入っていますから」
拡大してもらった葉書には、URLのようなものが見える。
しかし、画像がぼやけてしまって字が読み取れない。
「この葉書って、警察にあるのですよね?」
「はい」
「借りる事は、できませんか?」
「無理だと思います」
「ですよね」
遺留品の写真は無駄だったか。
こうなったら、もう一度霊と接触して……
電話の呼び出し音が、僕の思考を中断した。
携帯ではなく、事務所の電話だ。
職員の一人が電話に出て、しばらく対応してからこっちを向く。
「池田さん! また霊が現れました!」
「なんですって? 場所は?」
「いつものトンネルです。しかも、今度は事故も……」
それを聞いた樒が、ヘルメットを引っ掴み外へ駆けだして行った。
あいつ、現地へ行って強制除霊する気だな。
僕が外へ出た時には、樒はバイクの爆音を轟かして走り去っていくとろだった。
困った。僕の原チャリでは高速道路は走れない。
走れたとしても、原チャリでは樒のバイクに追いつけない。
振り返ると、池田さんが事務所から出てきたところだった。
「池田さん。車を出して下さい。樒を追いかけます」
「しかし、ワゴン車では、あまりスピードが」
「最初に乗った軽でお願いします」
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