高速道路の霊

第5話 霊能者協会

 霊能者協会西東京支部は、周囲を竹林に囲まれた古い屋敷の中にある。

 僕が、ここに直接来るのは一年ぶりの事。

 霊能者への依頼は、通常メールなどで伝えられるから、直接ここへ出向くことなど滅多にない。

 なんで今回は、ここに呼ばれたのだろう?

 やはり、あの女とコンビを組まされることと関係があるのか?

 あるんだろうな。

 だって、さっき送られてきたメールの内容、しきみには見せられない事が書いてあったし。

 樒に送られて来たメールには僕を助手に付けるような事が書かれていたらしいが、僕に送られてきた方には別の事が書かれていた。


 樒の監視役になってくれと……


 大きな門の前に、僕は原チャリを止めた。


優樹まさき。あんた制服のまま来たの?」


 その声は背後からだった。

 振り向くと、赤い繋ぎのライダースーツに身を包んだ樒が、フルフェイスのヘルメットを脇に抱えていた。

 その側には真っ赤な大型バイクが停止している。


「着替えている時間が無かったんだよ。家、遠いし」

「遠いって……私と同じマンションじゃない」

「うぐ……」


 そうだった。

 小学生の時に今のマンションに引っ越してきて以来、こいつとはずっとご近所さんだった。


 幼なじみ?


 とんでもない。


 腐れ縁と言うんだ。


 幸いお隣さんではないが、小学生の時も、中学生の時もなぜかこいつとエレベーターで鉢合わせになり、いつも学校に一緒にいく羽目になった。

 高校は別のところにと思っていたのに、なぜかこいつも同じ高校に来ていた。


「私だって、着替える余裕があったのに」

「なんだっていいだろ。僕は制服が好きなんだよ」

「ふうん、そう」

 

 そのまま、僕らは屋敷の中へ。


 こいつ絶対分かっていて言っていたな。


 僕が制服で来たわけを……


 僕は外出時、なるべく制服で出かけるようにしている。


 私服なんかで出かけたら、昨日のように小学生と間違えられるからだ。

 

 昨日は制服が洗濯中だったので仕方なく私服で出向くことになり、学生証と免許証を提示するはめになったのだが……


「だけど。良いわね。優樹は」


 廊下を歩きながら、樒は僕の方をじろじろ見ながら言った。


「良いって? 何が?」

「だってさ、優樹の身長なら、電車に乗っても映画見に行っても、子供料金で通るし」


 ムカ!


「そんな事はしていない!」

「やればいいじゃない」

「犯罪だぞ」

「バカね。あんたが年齢を申告しなければ、向こうが勝手に間違えてくれるのだから犯罪じゃないわよ。まったく、私も背が低かったら……」


 だったら、お前の無駄に高い身長を少し分けてくれよ……


 そんな事を話している内に僕たちは支部長室に入った。

 

 支部長室は十畳ほどの広さの和室で、真ん中に大きな卓袱台があり、その向こう、腰までありそうな艶やかな黒髪を後ろに束ねた、二十代半ばほどの巫女さんが待っていた。この巫女さんが、霊能者協会西東京支部長の御神楽みかぐら芙蓉ふようさん。

 ウワサによれば式神が使えるそうだ。


「久しぶりね、優樹君。しばらく見ないうちに……」


 芙蓉さんはそこで口ごもった。

 しばらく、視線を僕の頭頂部に走らせてから話を続ける。


「立派になったわね」

「あの……大きくなったねとは、言ってくれないのですか?」

「え?」


 芙蓉さんは困ったような笑みを浮かべた。

 その時、横から伸びてきた樒の手が僕の頭をなでる。


「なってないわよ。大きくなんか」

「前回会った時よりより、二センチ……いや一センチは伸びてる」

「そんな微々たる違い分からないって。ねえ、芙蓉さん」


 芙蓉さんは、かるく咳払いすると僕らの方へ向き直った。


「そんな事より、樒さん。なぜあなたがここにいるの? 私は優樹君だけを呼んだはずだけど……」

「え? そうなの?」


 樒はスマホを取り出してメールをチェックした。


「あれ? 本当だ。私のメールにはそんな事書いてないわ。優樹のメールにはあったのに」

「優樹君は別件で呼び出したの。あなたは呼んでいません。もう帰っていいですよ」

「まだ、茶を出して貰っていない」

 

 ピキ! という擬音が聞こえたような気がした。

 

 芙蓉さんは無言で、ペットボトルの茶を差し出す。


「飲んだら、帰りなさい」

「ええ!? ペッドボトル!」

「嫌なら返しなさい」

「いえ……いただきます」


 樒はベッドボトルを一気に飲み干した。


「それで、優樹に何の用でしたっけ?」

「だからあ! あなたには関係のない話です。帰りなさい」

「今回の依頼の説明も聞いていないけど……」

「それは後で、優樹君に説明してもらいます。だから、あなたは帰りなさい」

「しかし、未婚の男女を二人っ切りしては危険だと思いますので……」

「優樹君は、私を襲ったりしません」

「いえ、どちらかというと優樹が芙蓉さんに襲われる危険が……」

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