第4話 未来が変わる事について考えてみる

昨夜、色々と考え込みすぎてあまり眠る事が出来なかった。うつらうつらしていると朝7時過ぎくらいに小太郎の何かに吠える声で一気に目が覚めた。

「ワッンワッワッワッワッ、ワッン」

過去であった事を同じ再現されているかのように思い出し、急いで玄関を飛び出した。

玄関を出た所で小太郎が猫に向かって今も懸命にリードが極限に引っ張られている状態で吠え続けていた。

「良かったー。今回はちゃんと生きていてくれた。小太郎ー。」

小太郎に抱き着いて安心していると、後ろから声が聴こえてきた。

「朝からバタバタとうるさいわっ・・・って。何小太郎に抱き着いて泣いているん。」

おかんが呆れたような眼差しでこちらを見ていたので、

「小太郎が生きてるっ。死んでないで、おかん、良かったー。」

「変な夢を見たんやね、不憫な子や。誰に似たんやろな。はぁー。」と溜息をついていた。

何も知らないくせにとは思ったが本当の事を言っても頭がおかしい子やと言われる事は十分に分かるのでやめておいた。

しかし、本当に未来を変えてしまった・・・。

変える事が出来たなら未来のあんな生き方も変える事が出来ると思いほくそ笑んでいたら・・・。

「今度は気持ち悪く笑っているよ、この子は・・。本当に大丈夫なんか、一度お父さんに相談を・・・。」と小言でぶつぶつ言っていた。

別に口に出さなくてもいいような事をおかんが言っていたが聞こえないふりをして自分の部屋に戻った。


部屋に戻ってから、いつものジャージに着替えてから今後の人生設計について考えみる。今が高校生で嫁に会うのが同じ大学時代なので今度の人生はより高い偏差値の大学に行って良い給料の会社に入って優しい嫁を貰うんだ。と超簡単な人生設計を立ててみた。我ながらあきれるがその要所、要所で考えて行こうと考える事を諦めた。


「さぁ、飯でも食べて夏休みに入ったしだらだら過ごすか。」と独り言を言いながら、一階に降りて行く。

「夏休みに入ったからと言って、だらだら過ごすなっ。」とおかんに言われた。

エスパーかよ。

「最近、おじーちゃんの所に顔見せに行ってないんやろ、いくらボケてるからって言っても孫の顔は見たいもんやし行っておきや、じーちゃんもええ年なんやでいつまで居てくれるかも分からんのやから。」


柊二には92歳になる祖父が居る。認知症を発症してからは老人ホームに入居している。高校2年の冬に老衰で亡くなるので出来るだけ行ける時はおじーちゃん孝行しに行こうと思う。

「分かった、今日久々に行ってみるわ。じーちゃんの好きなういろうも買って行くし、お金頂戴。」

「しょうがない子やね、机に千円置いとくから。じーちゃんの好きな『たねまさ』のういろうにしてあげてや。」

家を出る際に小太郎に昨日買ったちょっと高いビーフジャーキーを上げるとしっぽが取れるんじゃないかと思う程振っていた。モフモフを堪能した後に和菓子屋さんに行って、祖父の好物を買って老人ホームに向かって自転車を漕いだ。


老人ホームに着いて、入り口で名前を書いて家族証明のプレートを首から下げながら祖父の居る203号室に入った。

「じーちゃん久々やなー。元気かー。誰が来たでしょう。」

と毎回来たら同じ事を言うがいつも誰か分かっていない。毎回

「ありがとうな、ありがとうな。」と手を握ってくるのでちょっと恥ずかしいが懐かしい祖父の顔が見れて泣きそうになってしまった。

部屋の中には毎日祖母がじーちゃんの世話をしに朝から夕方までずーっと一緒に居る。本当に仲が良く、じーちゃんはボケているのにばーちゃんの事だけは分かっている。こんな夫婦関係が理想でこうなりたいと思って結婚したはずなのに・・。

あかんあかん今は過去に戻ってやり直すと決めたんだ。と思い直す。

ばーちゃんに「しゅーちゃん、ありがとうね。じーさんも喜んでるわ。いつもの顔と違うわ。ういろうもありがとうね。」と言われた。

いつもと同じ様に見えるがやはり絆が強い夫婦は違うなと思いながら、老人ホームのいつもお世話してもらっている人ようにも持ってきた和菓子も一緒に祖母に渡した。


祖母が受け取ったお菓子を渡しに部屋を出て行くと、先ほどまでやさしい顔でにこにことこちらを見て居た祖父が一気に顔つきが変わり、こちらを見ていた。

「どうしたん、じーちゃん。大丈夫か、何処か具合が悪いんか。」

と祖父に呼びかけてみたが、一向に応えずこちらをじーっと見ていた。


しばらくの間沈黙が続き、やがて祖父が口を開いたと思ったら思いがけない一言を放った。

「お前、過去びとか。」

一瞬何を言っているのか分からなかったが、何か思い詰めるように再度

「お前も過去びとに選ばれてしまったのか。」とつぶやいた。

何が何だか分からなくて、問いただしても、もう覚えていないようないつもの表情に戻ってしまった。

「何なんだっ、お前も過去びとって事はじーちゃんも同じって事。」

頭の中がこんがらがってきてしまい。早々に帰る事にした。

「一回整理しよう。じーちゃんまた来るわ。また話聞かせてな。」

と言っても理解していないようで

「ありがとう、ありがとう。また来てな。」と手を握ってきた。

帰りにばーちゃんに会ったので

「用事があるし、また来るわ。ばーちゃんも無理したらあかへんよ。」

「ありがとうね、しゅーちゃん。」と挨拶を交わし老人ホームを後にした。


帰り道で先ほどの事を良く思い出してみても、何が起こったのか良く分からないので一旦、考える事を放棄して家にたどり着いた。















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る