第4節 -頂に立つ者達-
国連の調査から数か月が経過したある日。世界特殊事象研究機構 大西洋方面司令のメガフロート上に彼女は降り立った。金色の髪、赤い瞳、均整の取れたドールのような可憐な見た目。黒色が基調のゴシックドレスに身を包み、太陽のように眩しい笑顔を浮かべている。その隣には黒色のスーツに身を包んだ長身の人物が一人付き添っている。帽子を深くかぶっていて顔は見えない。極秘に機構へ訪れた二人はVIP専用通路からある一室に向けて歩みを進めていた。
「マリー、あまりはしゃぐと転びますよ。」全身黒ずくめのスーツ姿の女性が少女に話しかける。
「相変わらずどこに行っても君は心配性だな。大丈夫だよ。きっと実際転ぶ前になったら君が助けてくれるんだろう?それに、久しぶりに彼に会うんだ。しかも、とっておきのプレゼントを用意してね。はしゃぐなという方に無理がある。」長い年月一緒にいればわかる。その満面の笑顔から発せられる言葉は偽りのない心からのものだと彼女は思った。
「いえ、貴女が物理的に転ぶという話ではありません。私が心配しているのは今から行われる会談についてです。」
「なんだ。君が心配していたのは私の事ではなかったのかい?アザミ。少し残念だなあ。けれどどちらにしても問題ないよ。私の二つ名が意味するものを君が一番よく知っているはずだ。」自分の心配では無かったという事実に少し膨れながら少女は返事をした。いつまでも子ども扱いをするなという表情だ。
「えぇ、えぇ、もちろん。よく存じていますとも。」
「結構。しかし君の懸念も分からなくはない。彼はとても素晴らしい観察力と洞察力をもつ人間だ。それは疑いようがない真実だし、私もその事で彼を “昔から” 高く評価している。その高い人間性が無ければあの地位に居続ける事なんて出来やしない。」赤い瞳の少女はそこまで言うと大きな溜息をついた。
「けれど、それだけだ。彼は根本的に私達とは違う。これから行われる話し合いが転ぶなんて未来は絶対に有り得ない。」
「貴女がそこまで言うのであれば心配など無用でしたね。マリー。」
「分かってくれたらいいんだよ。アザミ。」そう言うと少女は再び太陽のように眩しい笑顔を浮かべて歩き始めた。
二人が目的の部屋に辿り着くと、その部屋の前には一人の軍人を思わせる風貌の男性が立っていた。
「相変わらず怖い顔をしているね。フランク。もっと笑いなよ。こんな風に。」満面の笑みを浮かべた少女は臆面もなくその男性へ話しかける。
「顔は生まれつきです。それより、貴女がわざわざここまで出向くとは珍しい。」
少女の顔を見ながら表情一つ変えることなく淡々と返事をする。扉の前に立っていた男性の名はフランクリン・ゼファート司監。機構の重役である将官の一人であり、これから少女が会談を行う予定になっている人物の側近である。
「あぁ、どうしても直接彼と話がしたくてね。こちらの申し出を受け入れてもらえて感謝している。この日を凄く楽しみにしていたよ。彼との久しぶりの再会も。」身振り手振りを交えながら少女は嬉しそうに話しているが、申し出を断るという選択肢など機構側には最初から無かった事を知っているはずだろうにとフランクリンは思った。そして少女の横に立つ女性を一瞥した後、再び視線を少女へ戻し部屋の扉を開けると中に入るよう促した。
「左様ですか。では中へお入りを。会談が終わるまで我々はここに待機しています。」
「ありがとう。では行ってくるとしよう。」そう言い残し少女は部屋の中へと入っていった。
彼女の入室後、フランクリンはその場に残った長身の女性が纏う独特の雰囲気がやや気になった。全身黒ずくめのスーツ姿、目元まで被られた帽子。顔は帽子の装飾のレースで覆われており表情すらも一切確認出来ない。先程の少女も昔から謎だらけの存在だが、彼女の傍に常に付き添うこの女性の存在についてもそれは同様であり、一切の素性が不明の存在である。しかしフランクリンはあえて気に留めないように努めた。これは今気にする事ではない。この女性が何者かなど知ったところで意味など無いだろうし、世の中には触れない方がうまくいく事が存在するという事を自分はよく知っている。
これより機構を束ね全権を握るトップと国連の実質的な実権を握るトップの二者会談が始まろうとしている。二つの頂点による会談。今はそれが無事に終わるのを待つだけで良い。そう言い聞かせて前だけを見据えた。
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